第8節【ガゼルの叫び】
あっという間に、悪魔の一団は壊滅した。
騎士団も皆、死んでしまった。
夢のなかで、何度もみた彼が目の前にいる。
彼が、わたしを見ている。
正確には、わたしのなかに居るラサを見ているのだ。
「わたしのなかには、悪魔が居ます。そのせいで、悪魔を呼び寄せてしまいます」
なるべく平静を装いながら、そういうのが精一杯だった。
きっと、彼――ラスタは、わたしになんて興味がない。ラサを見つければ、そっちを見てしまうんだ。
「悪魔を祓うためにも、世界を救うためにも、私はザイオンに向かわなければ為りません」
どうしようもなく、哀しい気持ちが胸を埋めている。
だけどそれを、気取られたくなかった。
「お願いです。私を、ザイオンまで連れていってくれませんか?」
「悪いが、協力はできねぇ」
ガゼルと呼ばれていた大きな男が、毅然とした態度できっぱりと言い放った。
「俺たちは只の盗賊団だが、目的がある。だから、教会のある大きな街までしか、送り届ける事はできない」
「それで、充分です。ありがとうございます!」
頭にターバンを巻いた小柄な男――確か、ハンと呼ばれていたかな――が、静かに口を開いた。
「まずは、俺たちの拠点に案内してやる。詳しい話は、それからにしようか?」
ほんの少しだけ、心が落ちついてきた。
ほんの僅かな間に、色んな事が起きたのだ。無理もないよね。
巡礼の旅が始まって、悪魔に騎士たちを殺された。そこにラスタが現れたんだから、正気ではいられない。
いられる訳がないんだ。
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「へい、グルービーヴォイスッ!」
拠点に着くなり、ガゼルが叫び出した。
「俺にゃイケてるフローは、到底むりだが、ぶってぇヴァイブスでぶん殴ってやる!」
身体を揺らしながら、ハンが楽しそうに踊っている。何故かわたしの心も、踊っている。
音楽だけが、わたしの唯一の『救い』なのだ。
「それで、こいつはクラクラッ! そんで、お前らメロメロッ! だからくれよ、Clap Clap!」
手を叩くガゼルに、手拍子が始まる。
演奏者たちを手で静止すると、無音のなかで――手拍子のなかで、ガゼルの声が叫ぶように歌を続ける。
「おまえら、聞いてくれ。俺の腹んなかをさらけ出すから、笑わずに聞いてくれッ!」
物凄く、真面目な顔をしている。とてもメロウなリディムで、それは始まった。
「俺にゃ 惚れた女がいる~! ヤバいくらいに 惚れている~!」
その場にいる全員が、耳を傾けている。
「だけど 昨日~! ふられちまったぁ~ッ!」
リディムが止むと同時に、大爆笑が起きた。
気づけば、わたしも笑顔になっていた。
嫌な気持ちなんて、吹っ飛んでいる。
今はとにかく、この時間を楽しみたい。




