表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/48

第8節【ガゼルの叫び】



 あっという間に、悪魔の一団は壊滅した。

 騎士団も皆、死んでしまった。



 夢のなかで、何度もみた彼が目の前にいる。

 彼が、わたしを見ている。



 正確には、わたしのなかに居るラサを見ているのだ。



「わたしのなかには、悪魔が居ます。そのせいで、悪魔を呼び寄せてしまいます」



 なるべく平静を装いながら、そういうのが精一杯だった。


 きっと、彼――ラスタは、わたしになんて興味がない。ラサを見つければ、そっちを見てしまうんだ。



「悪魔を(はら)うためにも、世界を救うためにも、私はザイオンに向かわなければ()りません」



 どうしようもなく、哀しい気持ちが胸を埋めている。

 だけどそれを、気取られたくなかった。



「お願いです。私を、ザイオンまで連れていってくれませんか?」

「悪いが、協力はできねぇ」



 ガゼルと呼ばれていた大きな男が、毅然きぜんとした態度できっぱりと言い放った。



「俺たちは只の盗賊団だが、目的がある。だから、教会のある大きな街までしか、送り届ける事はできない」

「それで、充分です。ありがとうございます!」



 頭にターバンを巻いた小柄な男――確か、ハンと呼ばれていたかな――が、静かに口を開いた。



「まずは、俺たちの拠点に案内してやる。詳しい話は、それからにしようか?」



 ほんの少しだけ、心が落ちついてきた。

 ほんの僅かな間に、色んな事が起きたのだ。無理もないよね。



 巡礼の旅が始まって、悪魔に騎士たちを殺された。そこにラスタが現れたんだから、正気ではいられない。


 いられる訳がないんだ。




   ●




「へい、グルービーヴォイスッ!」



 拠点(ベースキャンプ)に着くなり、ガゼルが叫び出した。



「俺にゃイケてるフローは、到底むりだが、ぶってぇヴァイブスでぶん殴ってやる!」



 身体を揺らしながら、ハンが楽しそうに踊っている。何故かわたしの心も、踊っている。

 音楽だけが、わたしの唯一の『救い』なのだ。



「それで、こいつはクラクラッ! そんで、お前らメロメロッ! だからくれよ、Clap(クラッ) Clap(クラップ)!」



 手を叩くガゼルに、手拍子が始まる。


 演奏者(セレクター)たちを手で静止すると、無音のなかで――手拍子のなかで、ガゼルの声が叫ぶように歌を続ける。



「おまえら、聞いてくれ。俺の腹んなかをさらけ出すから、笑わずに聞いてくれッ!」



 物凄く、真面目な顔をしている。とてもメロウなリディムで、それは始まった。



「俺にゃ 惚れた女がいる~! ヤバいくらいに 惚れている~!」



 その場にいる全員が、耳を傾けている。



「だけど 昨日~! ふられちまったぁ~ッ!」



 リディムが止むと同時に、大爆笑が起きた。

 気づけば、わたしも笑顔になっていた。

 嫌な気持ちなんて、吹っ飛んでいる。



 今はとにかく、この時間を楽しみたい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ