表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/48

第6節【旅の始まり】



 朝が来る前に、わたしは教会に戻った。

 何事もなかったかのように、礼拝堂で祈りを捧げる振りをしていると司祭がきた。



「リラ様。巡礼の支度(したく)が、整いました」



 どこか他人事(ひとごと)のような司祭の言葉に、吐き気がするほどの怒りを感じた。



 自分たちは何もしないのだから、当たり前だ。命を捧げる役目は、わたしなのだ。

 他人事(ひとごと)なのが、当たり前なんだ。



 だからこそ、腹が立つんだ。

 聖女としての使命なんて、はっきりいってどうでもいい。世界が滅びようが、関係なかった。



 どのみち死ぬんなら、皆が道連れでも構わない。なんでこんな連中を、救わなければいけないのかが解らない。

 わたしのことを、救ってくれる人間なんてこの世には存在しないのだから、せめて普通の女の子として死にたかった。



 聖女としての生き方は、わたしには向いていない。だから巡礼の旅なんて、本当はしたくない。

 司祭の――ほとんどの人間の――視線が、気に入らない。



 わたしは、聖女なんかじゃない。だけどそれを、誰も(ゆる)してはくれない。



 入り口の方で、騎士団の一行がわたしを待っている。



「それでは、行って参ります」




 ――何処へ行くというんだ。



 死ぬための旅だなんて、本当に馬鹿げている。




   ●




 灼熱の砂漠。



 照りつける太陽の熱が、わたしの頭を朦朧とさせる。



 吹き出る汗。

 喉が異常に、乾いている。



 ――もう、帰りたい。もう、歩きたくない。




 風に吹かれて、砂が視界を(さえぎ)っている。砂埃(すなぼこり)が目に入って、(かゆ)みを与えてくる。身体が異様に、べたついて気持ちが悪い。




 ――もう、嫌だ。どうせ死ぬなら、こんなことしたくない。




 どうして、わたしなんだ。

 どうして、わたしだけなんだ。



 ふざけるな。(はら)のそこから湧き上がる怒りが、歩くという意志さえも奪ってしまいそうになる。



「リラ様、大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃない……」



 自然と出た言葉に、返事は返ってこなかった。



 代わりに水の入った袋を渡された。

 水を(あお)るように飲んでいると、騎士たちがなんだか騒めいている。



「どうしたの?」



 やっぱり、返事は返ってこない。

 代わりに、一人の青年の叫ぶ声が聞こえた。



「悪魔が、攻めて来たぞッ!」



 見ると遥か前方から、黒っぽい印象の一団が迫っていた。

 どうしてわたしが、こんな目に()わなければいけないんだ。



 心の中で嘆息すると、魔力を開放させた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ