表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

「コネリ」

作者: 椋鳥君

●あらすじ

 森の段差を滑落した主人公は、仲間の言っていたニンゲンにつかまってしまう。しかし、そのニンゲンに解放された後は、ケガをしていた脚が動くようになっていた。

 安心も束の間、その日からニンゲンは森に入り、自分たちを探すようになってしまった。ニンゲン、特にあの優しげな眼で小柄なやつは一体何を考えているのだろう?


●注記

※無声映画のような、セリフが(ほとんど)無い小説を書いてみました。

※動物の視点からストーリーが進みます。一部単語はあえて遠回しな表現になっています。あとがきに、世界観を壊さない程度の対訳は載せてあります。

※ハイファンタジー要素を含みます。

※作中の地域・人物は、実在の国や人物と関係がありません。

「コネリ」


 目を開けるとそこにはニンゲンが居た。身体が大きく、耳がなく、顔の毛が少ない。仲間が言っていたとおりだ。それなら、逃げなくては。離れていても不思議な力で食われてしまうらしいけれど、見つからないように草をくぐればいい。動こうとしたが、左後脚が痛い。この程度の崖でも、着地をしそびれるとこんなに危ないものなのか。だとしても、今は逃げることが優先だ。

急に景色が動き、身体が浮き上がる感覚がする。捕まったようだが、身をよじればすぐに抜け出すことができた。しかし、今度は土の上に押し付けられてしまった。逃げられない。脚の痛みも激しくなったし、仕方ないので目を閉じてやり過ごすことにした。

しばらくすると、ニンゲンが手を離した。この隙を逃すわけにはいかない。とっさに近くの茂みに潜り込むと、ニンゲンはうろうろした後、諦めたようで去っていった。ちょうどよく、脚の痛みも大分マシになっている。硬い葉が左足に巻き付いていたが、まずは家に帰ることを優先しよう。


次の日、仲間に崖のことを教えてやっていると、崖下にニンゲンが集まっているのが見えた。その中には、昨日のニンゲンもいる。あのニンゲンは群れの中では小さいほうだったようだ。仲間曰く、大きい方のニンゲンの一つは、特に危ないそうだ。背中にツノのある人間がトゲを飛ばして、鹿を食べているのを見たらしい。

大きいニンゲンは離れていき、しばらくすると小さいニンゲンも同じ方に行った。去り際に何かを地面に埋めていたようだが、それも危ないと仲間が言った。ニンゲンは餌を地面に埋めて、近くに隠れて狩りの機会を待つそうだ。

その後もう一度見ると、猪がその辺りを掘り返していた。人間が出てくる様子はない。諦めていたのなら、自分が拾いにいけば良かった。猪が食べるのなら、自分たちにも食べられたはずだったのに。


あの時のニンゲンが今日は、崖の上まで来た。こちらを狙っているのだろうか。しかし、迂闊な狸がニンゲンの前を通っても、狙う様子は見せなかった。代わりに、しばらく立ち止まり、平たい木に爪を立ててひっかいていた。

しまった。あの日、脚から血が出なくなったのに油断していたようだ。家の近くで捨てたあの固い葉に、血が付いたままだったのだ。それをニンゲンが見つけて、持って帰っていった。仲間に警告をする必要がある。少し癪だが、何度か踏み鳴らしておこう。


結局、その後しばらくニンゲンは来なかった。仲間は誰も欠いていないし、諦めたのだろうか?


 諦めてはいなかったようだ。今日は前よりも大きな群れが家に近づいてきた。とはいえ、あの時の小さなニンゲン、――頭に緑の葉を載せているので、緑のやつと呼ぶことにした――、以外はこの辺りを動くのに慣れていない様で、やり過ごすのは容易だった。

結局、迂闊な狸がニンゲンに驚いて、例の崖から落ちた辺りでニンゲンの群れは去っていった。狸は背から落ちたようで、あの様子ではニンゲンからは逃げられないだろう。緑のやつともう1匹だけが残り、狸を取り囲んでいた。


 しばらくすると、狸は走り去っていった。あの時の自分と同様、緑色の葉を腹につけている。あの緑のやつは、他のニンゲンとは違い、生物の傷を無くすことができるようだ。その違いのせいだろうか。そこにいるニンゲンは急に争い始めた。背中にツノのある方の低い鳴き声が、崖上のこちらまで聞こえてくる。


 ニンゲンも迂闊だったようだ。いくらここに来たばかりの自分たちでも、あれほど無警戒に鳴くことはしない。現に、ニンゲンよりも大きな熊が現れて、ニンゲンはそれと対峙している。

 ニンゲンは背中のツノを前に引き伸ばして威嚇しているようだ。時折熊が怯む様な素振りを見せるが、その度に激しく怒り、唸り声を上げている。あれは縄張りのために争っているのだから、下手に刺激する方が危ないだろう。


 ツノのあったニンゲンが熊に吹き飛ばされた。先ほどの狸よりは軽傷だからか、少ししてわずかに身を起こした。熊相手には逃げられそうにない。

 緑のやつがそのニンゲンに近寄っていく。倒れたニンゲンの低い威嚇声が聞こえたが、緑のやつは構うことなく、自分や狸にしたように葉を被せている。熊は少し離れて様子を見ているが、こちらはこちらで威嚇を続けている。これで去らないつもりなら、再び攻撃を仕掛けるつもりだろう。


 緑のやつが傷を消すのは間に合わなかった。ニンゲンが起き上がるよりも早く、熊は唸り声を上げて突っ込んでくる。食うつもりはないにしても、大分痛い目をみるだろう。

 放っておいたのなら。


 ここしばらくのニンゲンは鬱陶しかったが、少なくとも、あの緑のやつは友好的だった。我々の群れは、そういった友好的な生物にはそれなりの対応をしてきた。今回も、そうするだけのことだ。

 前回の墜落で翼は傷まなかった。そもそも、地崩れを踏んで翼を開く間もなく落ちなければ、この程度の崖程度は簡単に越せるのだ。

 熊の前に出て、目くらましを食らわせてやった。結構効いたようで、目を閉じたままヨロヨロと逃げていった。光るのは腹が減るから、効いて貰わないと困るのだ。

ニンゲン、それも緑の方は背を向けていたようで、目を見開いてこちらを見ている。

その後、ニンゲンは目を細めて、前の時と同じ様に鳴いた。


「コネリ」



――ある翼兎の記憶 (グレイシア語訳)


●補記(添付資料)

 翼兎の記憶の言語化の際、なるべく本意を損なわないように記録した。状況からの解釈として、下記の対訳を書き添えておく。

・「家」巣のことと思われる。翼兎は木の上に営巣するため、穴倉を探していた当時の調査隊は痕跡を発見できなかった。

・「固い緑の葉」布のことと思われる。当時の調査隊員が所持していた薬草入り包帯、および医療隊員用の帽子が該当。

・「背中のツノ」「トゲを飛ばす」弓および矢のことだと思われる。当時近隣住民が狩猟のために用いていた他、護衛の者が装備していたとの記録がある。

・「緑のやつ」グレイシア王国自然調査団の隊員の一人。翼兎発見の第一人者であり、翼兎の発見・保護には彼女の貢献が大きかったと報告されている。

・「平たい木」「爪を立ててひっかく」書字板と植物紙及び炭筆であると思われる。当時の隊員が所持。

・「傷を消す」治す。報告によると、低刺激性の消毒薬、治癒薬草、薬草入り包帯を用いたもの。

・「それなりの対応」人間でいう同盟関係、共生関係に近い。翼兎は小型の草食獣と似た生態である為、他の成分と相互に守護する関係を構築することがある模様。特殊な器官により閃光を発して自衛することができるが、大きな体力の消耗を伴うため滅多に発動することはない。

・「来たばかり」翼兎は他の地域で生活していたものが、比較的村落に近い位置に縄張りを移した模様。元の縄張りを離れた理由は不明。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

●筆者あとがき

お読みいただきありがとうございました。

コネリというのは、かの有名な「耳の長い生き物」のギリシャ語名をもじったものです。姿が似ているので、名前を借りました。

感想、ご意見、ご指摘などお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ