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TS少女は逃げ惑う  作者: 海夜
1章 ふしぎの世界のTS少女
9/14

9.貴族の責任

 いつまで、そうしていたのだろう、



 ───!



 ふとした瞬間に恥ずかしくなり、離脱しようと藻掻く私と、決して離すまいと力ずくで抱き込む母。


「は、はなして、くださいっ」


「やだ」


「やっ……!?」


 細身の女性といえど3歳児が膂力で大人に敵うはずもなく……諦めて脱力する私に、ふと思い出したかのようにどこか楽しげな母が問う。


「……そういえば!ねぇシャロン、あなた前世ではどんな子だったの?ふとした時に見せる立ち振る舞いからして……日本人、でしょう?」



「!? えっと、そんな。ふつう、でしたよ。ふつうの大学生、でした……。」


「大学生、かぁ~!どんなだったの!?彼氏とかいた!?」


『どこか楽しげ』どころじゃない。めっちゃ楽しそうだ。というかなんだこのノリ。女子会じゃないんだからさ……。いや女子会知らんけど……。


「いや、その。彼氏、というか。そもそも女の子じゃなかった、というか……。」


 華やかな美貌が驚愕に染まる。


「え!?……そ、そんなことある!?」


 そうだよね。そりゃあそうなるよね。









「そんなこともあるんだねぇ……。」


 再び藻掻き始める私を抱きしめたまま、しみじみと呟く母。

 前世を知っても態度を変えないでくれるのは純粋に嬉しいが、いい加減離してほしい。


「中身が男の子ってことはさ、やっぱり女の子の方が好きなの?」


 青天の霹靂だった。夢が、恋愛がどうとかボヤいておきながら考えたこともなかったのだ。

 ───想像する。未来の自分を。愛おしげにお互いを見つめ合う、私とイケメン(仮)。





 ───ないな。



 想像以上の『無さ』に内心驚愕する。


 TS転生すると精神が肉体に引っ張られる、とはよく言うけれど。

 そして私にもその兆候が見られるのも、なんとなく自覚しているけれど。


 無かった。想像以上に。コレは、"無い"。


「どう、なんでしょう。女の人が好きかは、わかんないけど……たしかに男の人と恋愛は、できないかも。」


「そっかぁ〜、じゃああの人とも話し合わないとね。

 大丈夫。私にまかせて!」


 ついに私を手離し、堂々たる佇まいで自らの戦場に向かわんとする母。私はそんな背中を頼もしげに見送っ、て───





「まって、ください。」




 ───違う。

 それは、違う。


 突如として湧き上がる強烈な違和感が身体を突き動かし、母を引き止める。


 思い出せ。

 この国における、貴族の令嬢の役割とは、何か。

 東方の守護を担う辺境伯家に生まれ、民の血税に育まれた私に課された責務とは、何か。



 ───婚姻だ。少しでも家の、領の益となるような相手を見つけ、縁を繋ぐのが私の、辺境伯令嬢として生を受けた私の責務だ。


「結婚は、貴族の……私の、責務で。」



 もちろん、私にだって譲れないものがある。

 領のためとはいえ、男と結婚など普通に嫌だし、家のためとはいえ、子を成すなどもう……想像しただけで吐き気を禁じ得ない。



 それでも。それでもやっぱり、違う。


 ───個人的な都合で、責務を放り出す。


 あってはならないことだ。絶対に、あってはならないこと──


 ──だからこそ。



「人任せにしちゃいけない。私が、お父様にお話します。」








「───これは、私の責任だから。」

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