俺のボタン連打は世界一ィ! ~ゲーセンで無双してたら未来人からスカウトされちゃった件~
俺はゲームの達人だ。
アクションゲーム、格闘ゲーム、シューティング……あらゆるジャンルのゲームを極めてきた。リアルじゃ経験ないが、恋愛ゲームだって得意だ。
特に連打に関しては世界一を自負してる。昔有名だった何とか名人にだって勝てる自信があるぜ。
なかなか苦戦すらできないから、たまには冷や汗をかくような出来事と遭遇してみたいなぁなんて思ってしまう。
今日も俺は行きつけのゲームセンターに行く。
家でゲーム機やパソコンいじるのもいいが、やっぱりゲーセンが一番テンション上がるんだよね。
「ちわーっす」
「おう、来たね」
このゲームセンターはゲーセン不況もなんのその。店主のおっさんが上手くやってるからなのか未だに潰れる気配はない。最新ゲームからレトロなゲームまで楽しめるから、数多くのゲーマーの憩いの場となっている。
席につき、俺はゲームをプレイする。
格闘ゲーム――
シューティングゲーム――
アクションゲーム――
リズムゲーム――
パズルゲーム――
一通りこなす。
もちろん、対戦もする。俺は接待しないし、いうまでもなく連戦連勝だ。
「つえー! パーフェクト負け!」
「全然勝てねえ!」
「ちくしょう!」
悔しがる対戦相手たち。こうして無双した俺はゲーセンを出る。
今日も気分よく安眠できそうだ。ああ、だけどたまには冷や汗をかいてみたい。
……
そんなある日、俺はまたゲームセンターにやってきていた。
店主のおっさんが見当たらない。トイレにでも行ってるのだろうか。俺はかまわずゲームを始める。
「今日も連打は絶好調だ!」
連打連打連打で敵を倒しまくる。
すると突然、画面が消えた。
「あ、あれ? なんで?」
いくらボタンを連打しても動かない。さすがに連打で故障は直せないか。
とはいえ、ゲーセンに通ってればこういうトラブルに遭遇することは珍しくない。焦ることなく、俺は画面から視線を外す。
そこに見知らぬ男がいた。
「初めまして」
「え!?」
奇妙なファッションの男が立っていた。
間違いなく人間なんだけど明らかに異質。幽霊や宇宙人に出会った時のような感覚に近い。いや、幽霊にも宇宙人にも会ったことないけど。
「なんだあんたは……」
「これは失礼。私、未来人です」
「未来人……!?」
普通だったら信じないだろうが、俺はわりとすんなり受け止めてしまった。ゲーマーだからなのもあるだろうけど、男の雰囲気にはそれほどに説得力があったのだ。未来人ってこんな感じだろうなぁと。
「未来人って……どのぐらい未来?」
「具体的な年数は申し上げられませんが……遠い遠い未来です」
「全然答えになってないけど……まあいいや。で、なんの用? まさかあんたは俺の子孫で、俺の未来を変えに来たとか? 俺ってゲームばかりやってるし」
「いえ、あなたの力を借りたいのです」
「俺の力ぁ? 俺の取り柄なんてゲームぐらいしかないけど」
「はい、その連打力を……」
「連打力?」
「全ての時代を調べた結果、あなたほど連打力に長けた人間はおりません。その力を借りたいのです」
俺の連打力が世界ナンバーワンどころか歴史上ナンバーワン扱いされ、まんざらでもない。協力してやろうという気になってくる。ただし不安もある。
「命の危険はないだろうな?」
「もちろんです。過去の人を死なせるなど大罪ですから」
どうやら嘘は言ってないようだし、俺も退屈していた。
「オッケー、やるよ。力を貸してやる!」
軽く引き受けてしまった。こういうのはノリが大事なのだ。ゲームでも主人公は命がけの旅に軽く出発したりするし。
「ありがとうございます。それでは我々の時代にお連れしましょう」
目の前が光り輝いたかと思うと、俺は自分の体がどこかに飛んでいく感覚を味わった。
……
「着きました」
「え、もう?」
「はい」
「一瞬だったなぁ。時間旅行ってなんの感動もないんだな」
「そんなものですよ」
未来人の男はそういって笑うと、
「では、ついてきて下さい」
歩き始めた。俺もちゃんとついていく。
「あまり話せないのは察するけど、この時代がどんな感じなのかだけでも教えてくれない?」
「そうですね……まず、人類は宇宙に進出しています」
「宇宙に!? すげえ! SFの世界じゃん!」
「人類の活動範囲は大幅に広がり、それに伴い人口も爆発的に増えました。今やあなたのいる時代とは比べ物にならないほどの数です」
「俺らの時代じゃ少子化なんて言ってるのにすげえや」
「もちろん、問題点もありますが……」
そんなところで、小さな部屋に案内された。
部屋の中央にはテーブルと、ボタンが一つ設置してある。
「どうぞ、席におつき下さい」
促されるまま、席に座る。ふかふかしてて気持ちいい。
そしてボタンを見る。なるほど、これが未来のボタンか。なかなか押しがいがありそうじゃないか。俺の連打魂の導火線に火がついた。
「えぇと、このボタンを連打すればいいの?」
「その通りです」
「俺に危険はないんだよな?」
「絶対にありません」
「分かった……押す!」
連打を始める。
「うおおおおおおおおっ!!!」
連打、連打、連打、連打、連打。
期待通り、なんと押しがいのあるボタンだろう。ジグソーパズルがどんどんはまっていくような、今までで一番楽しいボタン連打だ。世界一、いや人類史一の速さでボタンを連打する。
「こんな感じでいいか!?」
「はい、さすがです」
「どんぐらいやればいいんだ!?」
「もっとです。もっとお願いします」
「おっしゃあ!」
俺は押しまくった。
連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打……。
やがて、未来人が告げる。
「もう結構です」
「あ、終わり?」
「ありがとうございました。おかげで助かりました」
「いやいや、俺なんかが役に立てて嬉しいよ」
とまぁ、ここまで面白半分で未来人の言うことを聞いてきた俺だが、やっぱり気になることはある。
「ところでさ」
「なんでしょう?」
「このボタン連打はいったいなんだったの? どんな効果があるの?」
「あなたはこのまま帰ることになります。知らない方がよろしいかと」
「そりゃないよ! ここまでやらせといて! 別にお礼なんざ欲しくないが、俺にだって知る権利はあるだろう!?」
ここは未来人のホームグラウンド。ダメ元でやれ権利だ、やれ薄情者だのと、抗議する。この熱意はついに――
「……そうまでおっしゃるのなら教えましょう」
「おっ! 頼むよ!」
「実はあれは、死刑囚の処刑ボタンなのです」
「え……」
自分の背筋が凍り付くのを感じた。
「先ほど申し上げたように、人類は宇宙に進出し、人口は爆発的に増加しました。それに伴い、当然犯罪も大幅に増えた。その結果、大量の死刑囚が生まれてしまったのです」
俺は凍ったままだ。話を聞くしかない。
「処刑にはこのボタンを押す必要があるのですが、あまりに死刑囚が多すぎて、ボタンを押しても押しても追いつかない状況になっていたのです。かといって、処刑という行為を機械化するのには反対の声も根強い。ですから機械任せにもできなかったのです」
だから機械並み、いや機械以上の連打能力を持つ俺にやらせたわけか。俺がボタンを一回押すたび、どこかにいる死刑囚が何らかの方法で処刑されたわけだ。
連打連打連打……いったい何人だろう。数えられるわけがない。
それに、そんなに死刑囚が生まれてしまうこの時代は、いったいどんな世の中なのだろう。
人類は幸せなのだろうか。冤罪はないのだろうか。どんな処刑なのだろうか。俺なんかがやってよかったのだろうか。
次から次へ湧いてくる疑問を全く処理できず、俺はべっとりと汗をかいてフリーズしていた。
「まあお気になさらず。あなたの記憶は消され、元の時代に戻るのですから……」
もはや上の空だった。
……
「……おい!」
呼び声で目を覚ます。
俺はゲームの筐体で眠っていたようだ。店主のおっさんが話しかけてくる。
「あっ、目を覚ました。大丈夫か?」
「え、ああ、はい」
「よかった……なかなか起きないから心配したよ。救急車呼ぶとこだった」
周囲にいるゲーセンの常連たちもみんな胸を撫で下ろしている。
「すみませんでした。今日のところは帰ります」
「ああ、そうした方がいい。気をつけてな」
ゲームセンターを出る俺。
なんで眠ってしまったのか……まるで覚えていない。なにかおかしな夢を見ていた気もするが、いくら頭をひねっても思い出せそうにない。
きっと俺は、明日からも変わらずゲームをしてボタンを連打するのだろう。
ただ、日頃から芽生えていた冷や汗をかくような出来事に遭遇したいという気持ちは、俺の心からすっかり消え去っていた。
完
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