第八話 異世界と魔王軍とイケメン勇者
壁門の前に複数の冒険者が集まる。その目線の先には、冒険者の数を超える大量のモンスター達。
この世界の事を良く知らなくても、今がどんな状況か分かる……が、一応隣にいる全身赤い鎧を身にまとった戦士に聞いてみる。
「なあ、ちょっと聞きたいんだがこれって魔王軍が王都を潰しに来たって事だよな?」
「何だよマサト、お前そんなことも知らなかったのか?たまにあるんだよ、王都の威力偵察だかあわよくば落ちると思ってんのか知んないけどな。…今日のは何か少し多い気がするが、基本的には強いモンスターはいないから大丈夫だろ」
知らない奴だと思って声を懸けたらバイエルだった。
「お前バイエルか!姿違うし気づかなかったわ。てか何でお前が王都にいて、何で鎧変えてんの?」
「たまたまこの鎧を王都に取りに来たところだったんだよ。お前と初めて会った時言ってただろ?着てる意味のない格好ってさ」
気にしてたのね。…まあこれで生存力は上がっただろう。
「ラフィネ、ルリテ、行けるか?無理だったら来なくてもいいんだぞ?」
ラフィネは大丈夫そうだがルリテはどの位戦えるのかは知らない。
「はい!大丈夫です。お兄様の背中は私が守って見せます!」
「人の事より自分の事を心配しろよ。あたしはいつも人間と戦ってんだ。それより下級のモンスターなんかに負けるわけねーだろ」
二人とも頼もしい…。けど何かルリテの最後の方がフラグっぽい……。
「その子がマサトの新しいパーティメンバーか?盗賊か…いいね!俺はバイエルだ。よろしくなルリテ」
「おっ!お前盗賊の良さがわかんのか!お前は長生きするぜ」
何か感動的な話をした俺よりも意気投合してるんですけど。
そんな事を話している内に魔王軍が近づいてきた。
すると冒険者達の先頭にいる俺と同い年位のイケメン?が叫ぶ。
「僕たち冒険者は、こんな所で負けはしない!誇りをみせろ!行くぞ‼」
その掛け声に皆叫び魔王軍に向かって走っていく。
……………何かあのイケメンムカつくな。
いきなり後ろからルリテが言う。
「マサト、勝負だ!どっちが多く狩れるか!」
「いいぜ!よいドン!」
「あっ!ずりーぞ!速すぎる!」
「元からでーす」
ルリテは別行動し、俺とラフィネは共同で魔王軍と戦う。
「『スパラグモス』!」
ラフィネが放つ光の魔法。目くらましかと思ったが、ある程度のザコモンスターは消滅していく。
やっぱり魔法は良いよなー。でも、俺だって初級魔法は覚えたんだからな!
「『アクアボール』!」
俺の手のひらから球体の水の塊が勢いよく飛ぶ。
初級魔法だからちょっと強い威力の水がかかるだけだが、魔力値の高い人だと、ゴブリンの頭。規格外だとオークの頭も飛ばせるらしい。
だが俺は魔力値はそんなに高くない、いたって普通。だが、初級魔法を戦闘でうまく使うには工夫さえあれば役に立つ。
俺の魔法がゴブリンの顔にかかる。その一瞬が命取りだ。
顔を拭ったところを倒す…事が出来た。
いやーアニメとか小説の力って偉大だなー。読んどいって(見といて)よかったわ。
魔法を使うと少しはカッコよく、強く見える……はず。
初級魔法は全て、手のひらから水や炎。風などを飛ばすものだった。
それぞれ飛んでいく形も違うし、工夫や用途も変わってくる。
それぞれの魔法をいか戦闘で役立てるかが大切だ…………って見たことがある。
「『ウインドショット』!」
あらゆる初級魔法を使い、モンスターを倒していく。
皆の方を見ると、バイエルは斧を持ち戦い、ルリテは敵を魔法の縄で拘束した後に倒している。
そんなに時間はかからずに魔王軍を退けたが、いつもの二倍時間が掛かったらしい。
せっかくの飯も冷めてしまい、日が沈みかけてきた頃、テレポート屋で帰ろうとすると。
「君達、ちょっと待ってくれ」
さっきのムカつくイケメンに止められた。
「何の用ですか?」
「君がパーティリーダーだろ?何故君が王女様を連れているのか教えてもらおう。事と次第によっては首が飛ぶぞ」
いきなりなんだコイツは。マジでムカ…………そうか!
こいつがよくライトノベルや漫画で出てくるイケメンの出来るライバルか。
俺はこういう勇者気取りのイケメンナルシストは真正面からぶつかって潰して論破してやろうと思う。
ラフィネに小さい声で訊く。
「なあ、コイツってラフィネのパレードの護衛に呼ばれてたやつか?」
「はい、この方はこの国で一番強いと噂されている方です」
一番強い……か。
「あんた名前は?」
「僕の名前はコンドウだ」
「勇者気取ってんのにのに名前だっせえな」
ちょっとルリテ!そう言うのは思ってても行っちゃダメだって!顔引きつってんじゃん。……プッ!
ん……ちょっと待てよ?…コンドウ…………近藤⁉…え⁉コイツって日本人なの!?
「お前、日本人か⁉」
その言葉にキョトンとして答える。
「ニホンジン?ニホンジンとは何だい?僕をからかっているのかい。…そんな事より、何故ラフィネ様を連れているのか答えてもらおう!」
日本人じゃなかったのか……偶然名前がコンドウになったって事か。凄いな。
「ラフィネの首に付いてた爆発魔道具を見つけて外したのが俺。ラフィネのレベルが低いからいっしょに冒険頼まれた。それだけ」
「ありがとうございます。お兄様」
「ラフィネ様を呼び捨て……!しかもお兄様…!王子でもないのに⁉ラフィネ様、こんな男ではなくこの僕と一緒に冒険しましょう!」
「ラフィネが脅されてんの気づかなかったくせに何言ってんだお前」
「ぐっ……!だが、君なんかと一緒にいるよりは安全だ!」
それを言われると言い返せないのが悔しい…!
「ラフィネ様、この男と一緒に冒険しているという事は、一体どこに住まわれておられるのですか⁉もし馬小屋や宿屋なら私と一緒に来ていただければ、家で休むことができますよ」
「い、いえ。私はもう既にお兄様の屋敷に住んでいますから大丈夫です」
「や…屋敷!」
おおっと、流石のイケメン勇者様でも屋敷はお持ちでないようですね。
「な、なら装備の方は…?」
「それも、お兄様からエクスカリバーを頂いています」
「え……エクスカリバー⁉」
おやおや、流石の勇者様も魔剣、聖剣は持ってないようですね。
「そもそも、私はお兄様と冒険がしたいので大丈夫です!」
「あーあ、言われちゃったな兄ちゃん。もう無理じゃね?」
ルリテの追い打ちに根負けしたのか、後日また来ると言って悔しそうな顔をしながら帰っていった。
俺にとっては、イケメンがボコされるという大変極まりない祝福の時間だった。
…もう、ニヤニヤと思いだし笑いが止まりません。