第六話 異世界と恩恵と盗賊
屋敷に帰って道具の整理や部屋の割り当てを済ませた。
「お兄様、一段落したのでお風呂に入りましょう。あちこち整理したのでホコリまみれです。それにこのお屋敷の浴槽はとても広いみたいですよ?」
ホコリまみれになるなんて生まれて初めてだろうな。…………ん?
…………入りましょう?
……………浴槽は広い?
…つまり……?一緒に入るって………こと⁉
顔に出ていたのかラフィネが顔を赤くしながら急いで訂正する。
「一緒に入るというわけじゃありませんよ⁉私の言い方が悪かったのかもしれませんが変な事を考えないで下さい‼」
まあ、そりゃそうだよな。そりゃざんね………俺が悪かったからそんな目で見ないでくれ。
お風呂入りましたー。
「いやーさっぱりさっぱり。ラフィネどうする?少し早いけどもう寝ちゃう?」
「うーん…あ!では、あの時お兄様が私を助けるまでのお話をしてくれませんか?」
「いや、全然大した話じゃないぞ?それでもいいなら聞かせるけど……」
「はい、どんなお話でも構いません」
俺はあの時のことを思いだしながら話し始める。といっても、昨日の事だけど。
「あれは俺が初めてクエストを受けてスライム狩りをして帰ってきたとき、バイエルが王女様の誕生日パレードをやるって言うからホログラムで見てたんだよ。そしたらさっき習得したばっかりの洞察スキルが反応したから、同じくさっき習得したばっかの千里眼スキルで見てみると、何とビックリ爆発物が首に付いてるじゃないですか。そこで俺はテレポート屋で王都にとんで助けたって事だ」
「凄い偶然ですね。そのスキルを習得していなければ私はとっくに死んでいました。それもお兄様の行動あってのものですし」
「…短い話だったけどもう寝ようぜ。俺は今日色々ありすぎて疲れたし、明日は初めてのクエストだろ」
「そうですね。お兄様と一緒に冒険ができるなんて夢みたいです」
「じゃあおやすみー」
真っ暗な自分の部屋のベットに横になりながら考える。
俺も変だと思ってたんだ。あれはあまりにも偶然過ぎる気がする。
色々なことを考えているうちに俺はいつの間にか眠りについていた。
〈翌日〉
「よし、準備は出来たし行くか」
朝の支度を終えクエストに向かう。
………おっと忘れてた。
「ラフィネ、お前にプレゼントだ」
そう言ってラフィネに金色に青いラインの入った鞘を渡す。もちろん中には剣が収まっている。
「これは……片手剣…ですか?どうして私の得意装備が片手剣だと知っていたのですか?」
「たまたまだよ。まあいいから、早く剣を抜いて見ろよ」
俺の言葉にラフィネが剣を抜く。その剣はもちろん……!
「エ、エクスカリバー⁉どうしてこの剣を?これはお兄様が貰った大事な物ではないのですか?」
「別に俺が持ってても装備できないから役に立たないし、王族と神器ってなんか最強そうなコンビじゃん?俺からのプレゼントだから、遠慮しなくていいから」
元々城にあったから返しただけなんだけどね。
「ありがとうございますお兄様!大事に使わせてもらいますね!」
そう、年齢に合った可愛く無邪気な笑顔を見せた。
「じゃあ行くぞ‼」
そんな元気フラグを立てたからなのか。
俺がこんな目に合っているのは
「わああああ‼ちょっラフィネ!早くー‼」
ゴブリンの群れに追いかけられてまーす。
ゴブリン…実際見るとかなり気持ち悪い顔で群れで行動してる…けど!
「多過ぎんだろこれえええ‼」
十体くらいが基本と聞いたのに三十はいる。
「ま、任せて下さい!『スラッシュ』‼」
王族は初めから上級スキルや上級魔法を教えられるのだが、ラフィネはまだ中級くらいまでしか使えない。それでもゴブリンには十分だろう。
剣の斬撃が横に放たれ追いかけてきたゴブリンの半分くらいが倒れる。
よし、このくらいの数なら今の俺でも…………!
俺は電光石火のスキルを発動させダガーを持ち素早くゴブリン達ののどを切る。
「お兄様!危ない‼」
運よくのどを深く切られなかった一匹のゴブリンが木の棍棒を俺に振りかざす。
「『カウンター』!」
振りかぶった体制のままゴブリンの首が落ちる。
「いやー危なかった。スキルの力は偉大だなー。どうするラフィネ?ゴブリン肉持って帰ると食材として売れるから持って帰る?」
「私としてはゴブリンには触りたくないです…」
「だよなー。しょうがない、少し売り金減っちゃうけどギルドに回収頼むか」
そんな日本じゃあり得ない普通な話をしながら街に帰ると………。
「はーなせ!離せよ‼クソヤロー!」
ん?
声の方に行ってみると路地裏で水色短髪の女の子が取り押さえられている。
……なんか気になるな。
俺はその女の子を取り押さえている人に話を聞く。
「あのーその子が何かしたんですか?」
「ん?何だ君は?…まあいい、こいつは泥棒だよ。貴族である俺の家から八万ベクタもする宝を盗みやがったんだ!これから刑務所に突き出すところだ」
「離せって言ってんだろ!あんなうっすーい警備で捕られたお前が悪いんだろーが!」
「黙れ!一ベクタの価値もないお前は牢屋から出たら体でも売ってな!」
なるほどな。状況は理解した。
てかこの世界にも刑務所あったんだ。……まあ牢屋があるしな。
「どうしましょうお兄様、確かに泥棒はいけませんが、助けてあげたいです」
まあそうだよなー。
「なあ貴族の人、その盗賊俺にくれない?」
「「はあ⁉」」
貴族と盗賊がハモった。
「あんた俺の話聞いてたか?俺の家から八万相当の宝を盗んだんだから刑務所に送るの」
「分かってるって。タダでとは言わない、九万ベクタだ。つまりあんたはこの盗賊が盗みを犯したおかげで一万ベクタ儲かるってわけだ。悪くないだろ?」
俺って結構以外に頭いい気がする。
「う……でも!それは宝の代金だろ⁉この泥棒娘の代金はどうする⁉」
「その盗賊には、一ベクタの価値も無いんだろ?」
俺ってやっぱり頭いい気がする。
貴族の人は、九万ベクタだけをを持って帰った。
戦略勝ち!
「あたしを助けてどうするつもりだ?奴隷商人にでも売り付けるか?野良ウルフの群れに放すってのもいいんじゃねえか。どっちにしろ、あたしは逃げるけど。助かったぜ!じゃあな!」
そう言って走って行く。
「お兄様!」
…まあ想定内だけど。
あの子は盗賊だからまた盗みを犯すだろう。案外上手くいくかもしれないが
いつかは捕まって牢屋行き。あの口調だし運が悪かったら殺されるだろう。
前にも思ったが、目の前の拾える命を見捨てるほど俺はクズじゃない。
「仕方ないか」
本日二度目である電光石火のスキルを発動させた。
名前も知らない盗賊の女の子の背中が近づいてきた。