第五話 異世界と紹介と始まりの料理
「で、でけえ…」
プレロイの街に帰ってきた俺は、ラフィネと共に報酬で貰った屋敷に着いたのだが………。
俺の住んでいた一軒家とは比べ物にならない大きさに圧倒されていた。
「えっと、ラフィネもここに住むの?」
俺にとっては広すぎるが、王女にとっては狭すぎるんじゃないだろうか。
「ここに住まなかったらどこに住むのですか?私は当分お城には戻りませんよ」
そう言って笑いかけてくる。
本当にいいのか………?
まあでも、王女ってのは庶民の遊びや飯に憧れるもんだしな。
「なあ知ってるかラフィネ、庶民のご飯は、城の飯よりも美味いんだぜ?」
…多分。
それがお約束ってもんだろ!
「それは本当ですか?お城のシェフが作ってくれるお料理はとても美味しいのですが、それよりも美味しいのですか?」
「ああ!」
…多分きっと。
それがお約束ってもんだろ!
「そうなのですか!それは早く食べた…って!それじゃあ私が食いしん坊みたいじゃないですか‼」
少し怒ったようでほっぺを膨らませる。
……可愛いな。
いやっ!俺はロリコンじゃないぞ‼ただ妹として可愛いと思っただけで…。
それもロリコンか………?
「ではお兄様、早速冒険者ギルドに行きましょう」
俺がギルドの扉に手を掛けたときあることを思いだした。
「な、なあラフィネ、やっぱり違う所で夕飯にしよう。ここは絶対に王女には食べさせられない物しかないから…」
「お兄様!私はもう王女ではなく冒険者です。そういう扱いもしなくていいのです。それに庶民のご飯は美味しいと言ったのはお兄様ではないですか」
いやまあそうだけど。
「ラフィネがそう言うならいいけど…」
いや良くないいんだけどね。
扉を開けると、そこは数々の冒険者で賑わっていた。
その数々の冒険者が俺の事を凝視してくる。
「ど、どうしたの皆」
するとバイエルがやって来る。
「マサト!ルイから聞いたんだが魔道具から王女を救ったって本当か⁉」
さすが情報屋、話が早い。
「本当だけど…」
「「「「「「おおおおおおお‼」」」」」」
「…ん?その後ろにいる嬢ちゃんは誰だ?」
「紹介するよ、俺のパーティメンバーで王女様のラフィネだ」
「お兄様のお友達ですか?ラフィネと申します、よろしくお願いします」
あ!……説明してから紹介するべきだったか。
「「「王女⁉」」」
「「「「パーティーメンバー⁉」」」」
「「「「「お兄様⁉」」」」」
やっぱりか、まあそれが普通の反応だけどね。
「おいマサト!これはどういう事だっ!」
「あ、ああ、ちょっとカクカクシカジカあってな…」
俺は皆にお兄様からなぜ王女がここにいて一緒にパーティ組んでいるのかなどのカクカクシカジカを説明した。
「まじかよ…いつの間にかお前さんがそんなデケェ事してたなんて…」
「このことは他言無用だぞ」
「では改めましてラフィネです。私のことはラフィネと呼び捨てにして、皆さんがいつも話しているような感じで話しかけて下さい」
「い、いや、いくら王女様の頼みでもそりゃできませんよ…」
俺はすぐに出来たんだが。
「これは頼みごとではなく命令です!じゃないとお父様に言いつけちゃいますよ?」
そういたずらっぽく言う。
さすが王女、言う事が違う。
「そ、そこまで言うなら…。プロレイの街の冒険者ギルドへようこそ!ら、ラフィネ?」
「はい!よろしくです先輩!」
「「「おおっ!」」」
この街の冒険者達は、ラフィネから先輩と呼ばれるようになった。
挨拶を終えた俺達は、適当な席に座り夕飯を決める。
「お兄様、この街は何の料理が名物なのですか?」
うっ…やはりそこをついてくるか。
「い、色々あるぞ?ゴブリンステーキとかスライムゼリー、コボルト酒にコボルトジュース、内臓のフライとか…」
「そ、それはすごい名前ですね…。そのように再現されているのですか?」
「いや、全部本物を使ってる」
「ほ、本物⁉それは大丈夫なのですか?特にゴブリンとかは…」
「ああ、それなら大丈夫。俺も初見はビビったけど、プリーストが浄化魔法というか神聖魔法を使ってるから。この前なんか便秘の人がいたんだけど、ゴブリンステーキを食ったら直ったんだよ」
「そ、そうなんですか…ならそれにしましょう。便秘というわけじゃありませんが」
王女がゴブリン肉を食うなんて前代未聞だ。
まあ俺が進めたんだけど。
後で首切られたりしないよな。………しないよな?
「こっちにゴブリンステーキとスライムゼリー二つずつ!あとコボルト酒とコボルトジュース!」
注文を頼み料理が来るのを待っていると。
「お兄様、気になっていたのですが、どうしてお兄様は職業に就かないのですか?無職だとお兄様の事を良く思わない人も出てきてしまいますよ?」
そんな質問をしてきた。
「あーあれな、まあ簡単に言うと、俺は職業に就かないんじゃなくて就けないんだよなー。これを見てくれ」
そう言いながらラフィネに冒険者カードを見せる。
「……⁉敏捷性のステータス表示がバグってます!…ということは敏捷性のステータスが表示できないほどに高いってことですか…。なるほど、このステータスに合う職業は存在しませんから、そして自分に合わない職業に就くとステータスの成長を大きく妨げてしまいますからね。まさかお兄様がステータスバグりだったなんて…流石です!」
ギリギリのフォローありがとうございます。
「お待たせしましたー」
そんな会話をしている間に料理が来た。
「す、すごいです!このステーキ、全然ゴブリンのお肉じゃないみたいです!あっ!スライムゼリーも美味しそう!」
庶民の料理が珍しいラフィネはとてもはしゃいでいる。
そりゃそうだ。ゴブリンだもんな、スライムだもんな。
そんなはしゃぐラフィネを見つめていると。
「はっ、ごめんなさい取り乱してしまいました。お兄様、冷めないうちに早く頂きましょう」
「「いただきます!」」
「んぐっ‼」
一口食べたところでラフィネの手が止まった。
やっぱり王族にゴブリンはまずかったんか⁉
「無理するなラフィネ!不味かったら残してもいいんだぞ」
「残すなんてとんでもないです!何ですかこの美味しさ!どうしてお城に出されなかったんでしょう!」
ゴブリンだからだよ。
「んんっ!このゼリーも美味しい!本当に何故お城に出されなかったんでしょう!」
スライムだからだよ。
「わわっ!」
「どうした⁉」
「お兄様、何ですかこのジュース。口の中でシュワシュワしてます!口の中がすごいです!」
それは俺も不思議に思う。
何故かコボルト系の飲み物は、まさに炭酸の如くシュワシュワするのだ。
コボルトの何を入れたんだ?
まさかコボルトのボルトで電気でシュワシュワとか、そんなノリじゃないよな?
しょーもないぞ。
「どれもこれも美味しいです!お兄様‼」
「だから言ったろ?庶民の飯は美味いって」
「全くです!」
どんな料理も美味しく食べるラフィネに周りの冒険者はニマニマしている。
おい…こっち見ても俺はラフィネみたいにはやらないぞ。