第四話 異世界と救出と一つのお願い
何とか王女の所まで来た。
だけど今行動に出るのはまずい。
民衆や冒険者達が見ている前で王女の首に爆発物が付いてるなんて知られたら評判はがた落ちだ。
魔道具を取る方法はもう決まってる。
さっき俺がクエストを終わらせた帰り道の途中でスライムが何匹か出てきた。
そいつらを倒した時にまたレベルが一つ上がったのだ。
その時に俺は新しく『窃盗』という初期スキルを習得した。
『窃盗』は、相手の持っている、または装備している装飾品か武器を一つランダムで奪い取るスキルで、王女の首に付いてる様な外したら作動する魔道具などの能力も無効化することができる。
でもこれって、奇跡的すぎないか?
作り笑いを見抜いた『洞察』魔道具だと分かった『千里眼』そして外すための『窃盗』あまりにも誰かが仕組んだとしか思えない。
だがバイエルは初期スキルと言った。
只の偶然か?
別に俺は、知らない所で知らない奴が苦しんでいても気の毒だなくらいにしか思わない。
そいつらを命や金をはってまで助けたいと思うイケメン勇者系でもない。
でも、目の前で困っている。命が危ないと分かっていて、それを助ける術があるのに見捨てるようなクソでもない。
…………これって、普通の事だろ?
パレードが終わり、皆が帰っていく。
やるなら今だ。
俺は帰っていく王女達の集団の前に立つ。
「どうしましたか?私に何か御用ですか?」
王女様の声は、微かに震えていた。
この魔道具のせいじゃないかもしれないが、その可能性がありそもそも首に爆発物が付いている。
迷いもしない。
「王女様に一つ祝福のスキルを使わせてせていただきたく思います」
ここで一気にそれって爆発物ですよねときりだすのは危険だ。
するとずっと王女の隣にいた大臣みたいな男が。
「いけません!もしも呪いや死の魔法だったらどうするのです!信じる根拠がありません!」
…こいつが王女に魔道具を付けた奴か。
まあだいたい予想は衝いてた。
王国の裏切りやスパイっていったら大臣か側近って相場は決まってる。
一見王女を心配している様に見えるが、そんなんじゃ俺の『洞察』スキルはごまかされない。
何故か大臣は王女を心配するのではなく焦っている。そしてしばらく洞察で大臣を見ると………嘘とでてきた。
決まりだな。
「もしもこの魔法が王女様に不快な思いをさせたのならこの場で俺をお斬り下さい」
そう言って俺は窃盗スキルを発動させた。
武器も装飾品も合わせて一つしか装備してないので確実に首の魔道具を取った。
「ひいいいいー‼」
いきなり隣にいた大臣が逃げ出した。
俺は一瞬にして大臣に追いつき取り押さえ…こいつ、軽すぎだろ。
俺ですら軽々と持ち上げられる。
俺はこいつを、パレードに打ちあがる花火に魔道具ごと投げ捨てた。
何も落ちてくる物が見当たらないところを見ると、あの一撃で仕留められたようだ。
ふう、これで一件落着ってやつだな。
俺が一息つくと。
「うわあああああああんっ…………!」
いきなり王女が泣きだした。
「あり…がとうございましたっ!王族は十二歳までパレードをするのでっ…ひくっ…パレードをやらなくなる十二歳になったらっ……こ、殺すってっ!」
日本じゃまだ六年生だもんな、そりゃなくわ。
てか俺ギリギリ!
……ん?
「十二歳になったらってことは、昔から脅迫されてたってことですか⁉」
「は、はい。私は十歳から捕らわれでした……ぐすっ」
王女もそれなりに落ち着いてきたようだ。
ていうか十歳からか……。
「あの、今日は本当にありがとうございました。明日、この城に来て下さい」
お礼的なやつか…。別にそんなことしなくてもいいんだけど。
いや、欲しいけどね。
「はい。では明日、王城に参りますので」
テレポート屋を使いプレロイの街に帰り、バイエルには適当な理由をつけた。
<翌日>
「相変わらずでけーなあ」
城のデカさに圧倒されながら、王女に部屋を案内された。
するとその部屋には大人びた女の人がいた。
「では改めまして、昨日は本当にありがとうございました。自己紹介がまだでしたね。私はラフィネ・フォンルート・エテルネルと申します。で、こちらが私の側近のレーナです」
「初めまして。先日はラフィネ様を助けていただき本当にありがとうございました。私は地下の牢に囚われていたもので」
「いえいえ、俺は加弥政人と言います」
めっちゃ緊張する。
「あなたを城に呼んだ理由は二つあります。一つは先日のお礼です。お金というのもどうかと思いましたので…あなたは家をお持ちですか?」
レーナという人が唐突にそんな質問をしてきた。
「いえ、持ってないですが…」
「そうですか。では、あなたが住んでいる街に屋敷を進呈します」
ふーん何だ、只の屋し…。
「屋敷⁉」
住むところがない俺にとっては十分嬉しいけど!
これからは寝るのに金が掛からないのか。
「あともう一つ。神器エクスカリバーを進呈します」
「エクスカリバー⁉……いいんですか⁉そんな物貰っちゃって!」
「王女の命を助けていただいたのですからこのくらいは当然です」
やばいやばい。この世界始まってまだ一週間も経ってないのに屋敷とエクスカリバーって!
…………あ!
俺、片手剣持てないや。
いや、それでも嬉しい!家の家宝にしよ‼
俺が色々驚きすぎて王女はクスクスと笑っている。
「理由のもう一つと言うのはですね……あなたはソロですか?」
また唐突にそんな質問をしてくる。
「はい。そうですが…それが何か?」
いや、ボッチじゃないよ。
いずれはパーティ組もうと思ってるけどね。
「ではおねがいがあります。ラフィネ様をあなたのパーティに入れ、一緒に冒険をしてくれませんか?」
「…は?」
何言ってんだこいつ。
「ラフィネ様は王族。王族は魔王軍やドラゴン軍に対するこの国の最後の要。しかし、王女は二年間捕らわれの身だったため、実力が足りてないのです。この意味がお分かりですね?」
なるほど。
実力が足りてないから冒険に慣らせてレベルも上げるってことか。
「で、でもだったらもっとレベルが高くて優秀な人と冒険すればいいんじゃないですか?」
俺の回答にレーナが悔しそうに答える。
「あのパレードにいた大勢の兵士たちはこの国でも選りすぐりの兵士たちを集めたのです!…なのに、なのにあの兵士たちは今回の脅迫事件に何一つ気付かなかった!」
……え?いやいや。
「あの大臣に口止めさせられてたんじゃなくて?」
「…………はい」
「だからあの状況を見抜いた俺ってわけですか。でも他にも見抜いてたやつがいたのかもしれないですよ?」
「そうかもしれない。けど、行動に移したのはあなただけです!」
そういう事か…。それなら仕方ないんだろうけど…………。
「でも見抜いたのはスキルのおかげですよ?第一俺は冒険者始めたばっかで職業にも就いてないレベル六です。とても王女様を守り切れるとは……」
職業に就いてないというか就けないんだけどね。
「そうなのですか…。しかし、信頼できるのは彼方しかいません!あなたが断ってしまえばそれまでですが………それにこれはラフィネ様が言い出したことなのです」
その言葉に王女は少し赤くなる。
王女が自ら⁉
そう言われるとますます断れない。
逃げ道が塞がれた。嫌じゃないから逃げ道というのもおかしいけど。
こりゃ無理だ。
「そこまで言われちゃ断れないだろ、引き受けるよ。よろしくお願いします王女様!」
王女は顔をパアッと輝かせ。
「よ、よろしくお願いします!あの、マサト様は命の恩人ですので私の事はラフィネと呼び捨てにして、いつも話してるようにくだけた感じで構いませんよ?」
本当に?いいの?マジで?……じゃあ。
「じゃあラフィネも俺のこと様付けて呼ばなくていいよ。好きな呼び方で。流石に王女がくだけた感じの喋り方ってのは駄目だろうけど」
するとラフィネは少し悩み…。
「では、よろしくお願いします。お兄様!」
「「お兄様⁉」」
俺とレーナがハモる。
「ラ、ラフィネ様なぜお兄様なのですか?」
レーナが慌てて質問する。
「マサト様は、何となく雰囲気が昔のお兄様に似ていて…でも今のお兄様は前線で戦っていて大人になってしまったのでなかなか……あ!でもマサト様が嫌でしたら変えますが…」
「いや、俺は別に好きな呼び方でいいって言ったからいいけど…」
「そうですか!では、よろしくお願いします!お兄様!」
「ああ、よろしくラフィネ」
そう言ってお互い笑いあった。