第二話 異世界とお金とニート
クエストをやると言ったものの、ロクなクエストが無い上にそもそも武器が無い。金が無いから武器買えない。武器買えないからクエスト出来ない。クエスト出来ないから金が無い。金が無いから武器買えない。武器買えないから…………無限ループ。
ムリゲー…………。
ちなみにこの世界は一円=一ベクタらしい。
「はぁ、千ベクタでいいから欲しい」
俺がそんなため息を吐きながらギルドの職場のテーブルに突っ伏しっていると…。
「どうした?スピード、そんなため息なんて吐いて」
バイエルが来た。
「おい、何だよそのスピードって俺はお前に名前言ったはずだぞ」
するとバイエルはヘッと笑い。
「お前さん、噂になってるぜ。職業無しのニートスピーダーってな」
「ニートじゃないから!俺に就ける職業が無かっただけだから!」
誰だよ、そんなひろめたの。しかも俺は働こうとしてない訳じゃないし。
「まあそう興奮すんなって。どうしたんだよため息なんて吐いて」
悩みを聞いてくれるらしいが聞いてくれるだけじゃ何も解決しない。
まあ言うけど。
「………金が無いから武器買えない。武器買えないからクエスト出来ない。クエスト出来ないから金が無い。金が無いから武器買えない。武器買えないからクエスト出来ない。クエスト出来ないから金が無い。金が無いから武器買えない」
「わ、分かった!もういいよ…ループにはまったってわけか。お!じゃあ俺のお古の斧でも使うか?安物だしあげるけど」
「本当かっ‼」
もうこのさい、何でもいいから武器が欲しい。
「重くて持ち上がらないんだけど……」
バイエルのお古を装備してみたのだが重くて持ち上がらない。
「お前、その斧持ち上げられないのか?いったいどんな筋力値なんだよ。ちょっとカード見せてくれ」
そう言われたので素直に冒険者カードをバイエルに貸す。
「お、おいマサト!この筋力値じゃ斧どころか強めの片手剣すら持てねえぞ!」
………は⁉
「いやいや、さすがにそこまでじゃないだろ」
強めの片手剣すら持てないのはまずい。
マジでまずい。
「お前さんは敏捷性がずば抜けて高いから、軽い武器しか持てないってことか…。とするとお前さんが持てるのはダガーかナイフ、あとは普通の安物片手剣ぐらいだな。……ま、まあすばやさを活かすんだからどっちにしろ持つ武器はダガー位だ。残念だが、色々と頑張れ……」
それ、職員のお姉さんも同じこと言ってたんですけど…。
追い打ちを喰らい俺がひどく落ち込んでいると…。
「まあそんな落ち込んでんなよ、いいニュースがある。この冒険者ギルドの端の方でスピード勝負がされてる。勝った方が自分と相手が賭けた金を両方もらえる。お前さんには最強に有利な勝負じゃないか?」
つまりかけっこ勝負か。そんなので稼げたら苦労しないがどっちにしろ今の状況はどん底ぬかるみだ。ダメで元々やってみるか。
「良い事を聞いたよ。もし俺が買ったら情報料として四分の一やるよ」
「おっ!気前がいいな」
「お前には色々教えてもらったからな」
そう言い俺とバイエルはギルドの端のスピード対決場に向かった。
ギルドの端の方には確かに冒険者の人だかりがあり、凄く盛り上がっていた。
その中でも、バイエルより二回りも大きい男が人だかりの中心で叫んでいた。
「俺より速い奴はいねえのかあああああ‼」
「「「「うおおおおお‼」」」」
その大男の一言で、周りの冒険者は何倍も盛り上がった。
「アイツが今一番速い奴か…」
「ああ、アイツははこの街で一番速く、今ので百連勝した。その名も、〔疾風ボーグ〕だ」
疾風ボーグ……速いから疾風を使うのは分かる。でもボーグって?確かにあの見た目はボーグ感あふれるが…。
「で?お前さんはアイツと走んのか?あの百勝無敗の疾風ボーグに」
「ああ、金がないしやるしかないだろ」
「そうか…なら、ほらよ!」
そう言ってバイエルは俺に千ベクタを渡してきた。
「何だよこれ」
いきなり理由もなしに金を渡されるのは初めてなんですが……。
「儲ける勝負には掛け金が必要に決まってんだろ」
……お前、本当に良い奴だな。
「本当に何から何まで悪いな」
「へっ、どうせこの後賞金の四分の一もらうんだ、そんなはした金くらいやるよ」
俺が勝つ気でいるのか…。これは負けられないな。
「誰か俺に挑戦するやつァいねえのか?勝ったら俺の今まで貯めた賞金の三十万ベクタはそいつのもんだぞ!!」
「俺がやろう」
そう言い俺は一歩前に出る。
すると周りの冒険者たちが……。
「おい!ありゃあニートスピーダーだぞ!」
「おいおい!見ものだぞ!ニートスピ―ダーと疾風ボーグの好カードだ!」
「ほんとだ!あのニートか‼」
おい…ニートスピーダーいうな。
しかも最後の奴何つった、ただのニートじゃねーか。
「そうか!お前が次の敗者か!丁度いい!異名高いお前に勝てば百一勝目だ!!コースを長くして表でやろう!」
………お前で何勝目とかお決まりだな…。
ギルドの外に出て俺達はスタート位置に立つ。
「金は…そうだな、そこのお前が持っておけ!そのまま逃げたらどうなるかわかってるな…」
指名されたのはバイエルだった。
「おう、やってやるよ」
それは俺が言うセリフだと思う。
俺と疾風ボーグはバイエルに金を預ける。
「なあ、勝ったらほんとに三十万くれるんだよな。よくあるお約束の負けたら死ねええとか言って襲ってきたりしねえよな」
「はっ!何だよそのお約束。男に二言はねえ、ただしお前は俺に勝てねえがな!」
調子乗ってられんのも今の内だ。俺の取り柄は速さ《《だけ》》なんだ。
ここで勝てなきゃ取り柄とは言えない。
「じゃあいくぞ!位置について…よーい……ドン‼」
「「‼」」
スタートはミスることなくダッシュできた。
こうなったら久しぶりに本気で走ってやる。
「三十万は…………」
喋っていたボーグの声が聞こえなくなったので後ろを見るとボーグの姿がどんどん遠のいていった。
かけっこ勝負は俺の圧勝に終わった。
疾風ボーグは泣きながら帰っていき、冒険者の野次馬も最初はすごく盛り上がっていたものの、飽きたのか皆ギルドの中に戻って食事を始めた。
「まさかお前さんがあんなに速かったなんてな!まばたきしてるあいだだぜ!もうやっべえ‼」
興奮するバイエルの気持ちも分かる。なんせ俺の《《唯一》》のとりえだもんな!
「まばたきしてる間は盛り過ぎだろ。じゃあ四分の一の約束だからな、七万五千ベクタやるよ」
そう言い俺はバイエルに金を渡す。
「お、おい、いくら四分の一とはいえこんなにもらえねえよ」
「良いって良いって、お前が情報と金をくれなきゃこの金はなかったんだから」
流石にここで、なら五千ベクタだけねとは言えるわけがない。
「そうか悪いな…。ところでお前さんこれからどうすんだ?」
「もう暗くなってきたし、金もあるから今日は宿屋で寝るとするよ」
金なしにありがちな馬小屋寝泊りにならなくてよかった…。
「じゃあなマサト」
「ああ、おやすみ」
ギルドでかるく夕食を済ませた俺は近くの宿を借り、深い眠りについた。