第十七話 異世界と手伝いと幼女幹部
「なあマサト、手伝ってくれよ。一日でいいからさあ」
「そうそう、マサトがいるだけで安心感が違うんだよ。こいつらはあんまり強くないし…」
女性のその言葉に男二人がぎゃあぎゃあ抗議している。
俺は特に用もなく朝から冒険者ギルドに来たのだが、名前も知らない三人組に面倒を頼まれた…が、こうやって頼りにされるのも懐かしい。
まあ幹部倒して、洞窟調査も大したことなく終わったんだから頼りたくなるのも普通だよな。
「で?どんなクエストなんだ?」
「ありがとう!えっと、ダンジョン探索なんだけど…」
ダンジョン探索か…特に問題はないな。
「しょうがない。手伝ってやるよ」
ダンジョンに向かう道すがら、俺は彼女らの名前も知らないので自己紹介された。
「私はエレノ、付き合ってもらって悪いね…。こいつらだけじゃ不安だからさ」
「おい、俺達もそれなりに活躍してるぞ?…俺はリアム、こいつはダランだ」
「今日はよろしくな。頼りにしてるぜ!」
このまま何事もなくダンジョンに着くかと思いきや、遠くに何かいる。
千里眼スキルを発動させて見ると猫耳少女……というより幼女が魔物に追われているのだ。何か気になる。
「なあ、ちょっと気になることがあるから先行っててくんない?」
「え⁉マサトがいないと不安なんだけど!ちゃんと後から追い付いてきてよ!?」
「大丈夫。分かってるって」
電光石火のスキルを発動させ幼女のところに急ぐ。
「ニイガセンジャネエゾ!」
「カコメカコメ!」
幼女はウォーグという獣に乗ったゴブリンに追いかけられていた。
あれが有名なゴブリンライダーってやつか。
森や洞窟に生息するウォーグが平原にいるなんて珍しい。
俺は追いかけられている幼女を庇うようにして立つ。
「ナンダアオマエ」
「シニテエノカ?」
「ソイツヲカバウナラコロスゾ」
よく喋るゴブリンだ。こんなやつ幹部を倒した俺には倒すなんて楽勝だ。
「大丈夫か?」
「はい。ありがとうございました」
ゴブリンにしては強かったが、カウンターで大体を倒すと引き返してしまった。
「ご主人様!一生付いて行きます!」
「え⁉」
いきなりどうした?
…………命の恩人だからとかそんな感じだろうか。
「驚かしてしまい申し訳ございません。私は亜人族のソニアと申します。訊きたいことがございましたら何なりとお訊きください」
沢山ありすぎて何から訊けばいいのか…。
「…じゃあ、一生付いて行くってのはどういうこと?」
「はい。亜人族は人間でありながらも獣なため、人間に奴隷や召使いとして使われています。ですがそれは、誰しもが喜んでやっているわけではありません。自分達は亜人族だからと仕方なくなのです。しかし、亜人族にも誇りはございます。亜人族は誰かに命を救われた場合、一生をかけて恩返しをし、命を救っていただいたご主人様のご命令、お望みは全て反論することなく遂行いたします」
なるほど。俺がこの子を救った事で、亜人族の掟みたいなものに当てはまったから一生かけて付いて行くって事か。
何処の世界でも亜人族は妨げられてるのか。
「ちなみに俺の命令で付いてこなくていいって言ったらどうなるの?」
「そのような命令には従えません。ですが、どうしてもというのなら、自決します」
自決⁉…亜人族誇り高すぎだろ。
「じゃあ何で追いかけられてたの?」
「…私は、亜人族でありながら器用度バグりとして産まれました。なので魔王軍に幹部のお誘いがきました。『自分勝手な忌々《いまいま》しい人間に復讐しないか』と。その時の私は両親を人間に売られたばかりだったため、魔王軍幹部になりました。ですが何の罪もない一般市民にまで危害を加える魔王軍のやり方に不快を持ち逃げてきました」
ま…魔王軍幹部!?
この子が⁉
器用度バグりの⁉
落ち着け落ち着け落ち着け。
「……り、理由は分かった、俺はマサトだ。これからよろしくなソニア」
「よろしくお願いいたします、ご主人様!」
そう言ってソニアは、子供ながらも大人びた笑顔を見せた。
「だから悪かったって!今度何でも好きなの買ってやるから機嫌直してくれよ」
「本当に⁉今度は嘘じゃないよね?」
「今度こそは本当だ」
細かい内容が多すぎたためエレノ達のダンジョン探索をすっかり忘れ怒られていた。
「じゃあ許すけど、…忘れたらどうなるかわかってるよね?」
マジですんません。
お願いだから指の骨を鳴らしながら近づいてこないでください。
防御力は高くないのでおびえていると。
『魔王軍警報!魔王軍警報!冒険者各員は直ちに武装し、街の正門前に集まってください!民間人の方は家の中に避難を!…繰り返します!冒険者各員は直ちに武装し、街の正門前に集まってください!……魔王軍幹部です‼』
……え?今なんて⁉