第十六話 異世界と異臭と閉め忘れ
先日、調子にのってギルドで騒いでいると職員からクエストを頼まれ断ることもできず洞窟の異臭を調査するはめに…。
特に大したこともなく洞窟に着いたのは良かったのだが。
「臭いな」
嘔吐するほど臭いという訳でもないが、確かにまあまあな異臭がしていた。
「この洞窟には何があるんでしょうか?」
「何があるかじゃなくて何が《《いる》》かもしれないわね」
「まあ中に入れば分かることだろ」
三人は異臭がする洞窟に入ることに躊躇しない。
「じゃあ行くぞ」
洞窟の中は薄暗かったが何も見えない程ではなく、目が慣れてくると完璧とまではいかないが、普段と変わらず行動する事が出来た。
「奥に行くに連れて異臭が強くなってるな…」
「前はマサトが幹部討伐したんだし、私が討伐する!」
「あっ!ちょまっ…」
一人で突っ走るユウナを追いかけると広い場所にでた。
奥の方にぐにゃぐにゃとした物体が見える。
それは泥のようで結構な異臭を放っており、洞窟の異臭の原因がこいつであるかのような……!
「異臭の原因はこいつか!」
異臭を放つ物体はギルドが予想し教えてくれたヘドロスライムだった。
そしてその周りにを取り巻くコボルト。
「じゃあさっさと倒しちまおうぜ」
「ああ、だけどあいつは…」
俺の指示を聞かずにユウナが剣を構え突っ込んでいく。
「たああああ!」
汚いスライムに斬り込むがもちろん刃はとどかない。
「え⁉」
ユウナは隙を見せた為スライムに弾き飛ばされる。
電光石火のスキルは走ってから三歩で発動するが、元の敏捷性が高いため、何とかユウナを受け止める事が出来た。
「知らないのか?この世界のスライムは雑魚モンスターじゃなくてある程度の攻撃力か敏捷力がないと倒せないんだぞ。次は活躍させてやるから、今回は俺とルリテに任せろ。ユウナとラフィネは、スライムの周りにいるコボルトを頼む」
「…分かった」
「お任せください」
「俺達はスライムだ。行くぞルリテ!」
「おうよ!」
だが、持てる力と敏捷力を使ってスライムを斬ることは出来るのだが、すぐにまとまりもとの状態に戻ってしまう。
ある程度バラバラにすれば倒せるだろうがスライム自体が大きいためバラバラに出来ない。
「はあ…はあ…。どうすんだ?何か攻略方法はねえのかよ…マサト」
………………。
「実を言うとあることにはあるんだけど…。怒らない?」
「あたしはこいつが倒せれば何でもいいよ」
「私もお兄様がやることに異論はありません」
「何か嫌な予感がするけど…私はコボルトの死体を盾にするからいいよ」
多分ユウナの嫌な予感は的中してると思う。
「じゃあやってくるわ」
そう言い電光石火を発動させヘドロを飛ばす巨大なスライムに近づき手を突っ込む。
汚いし臭いし汚いし臭いからさっさと終わらせよう。
「『ウェーブ』ッ!」
スライムの内側から初級の爆発魔法を放つ。
その瞬間、初級魔法とはいえ内側から爆発を受けたスライムは爆散し、辺りに汚い物体を撒き散らした。
「うええーくっせえ!」
俺はスライムの目の前にいたのでもちろんばっちい。
「………。怒らないってのはこの事か」
「何故でしょう…。こんなに汚くなって嫌なはずなのに楽しい気持ちがあります」
「やっぱり私の予感は的中したね」
皆泥だらけで異臭を放っているのにコボルトを盾にしていたユウナは変化がない。
「あー臭い臭い。早く帰って風呂に入ろう」
「あたしはこの洞窟を漁ってから帰るから先帰っといて」
流石は盗賊。金持ちになっても基本は捨てない。
「そうか。じゃあ俺とラフィネは帰るから、ユウナは報告よろしく」
「えー何でー」
「いやいや。俺達この姿でギルドに行けるわけないだろ。それに、次は活躍させてやるって言ったしな」
「そっちじゃない!」
「ただいまー。ラフィネ、先に入っていいぞ」
「いえいえ、ここはスライムを討伐されたお兄様からどうぞ」
本当に良い子だな。だけど流石にここはラフィネから入らせるべきだろう。
「いいってば。先に入ってこいよ」
「……そうですか。ありがとうございます」
少し戸惑いながらもラフィネは風呂場に向かった。
俺は玄関に座り込みながら今までの事を思い出す。
金なくてかけっこして、ラフィネ助けて。パーティーメンバーが増えて、駆け出し冒険者にはハード過ぎる幹部にやられ、マジックシェード覚えて、筋力バグりにやられ、ユウナに再開しリベンジで倒す。賞金もらってからの洞窟調査。
……………………色々ありすぎじゃね⁉異世界には憧れてたけどボリューム満点過ぎる気がする。
そんな事を考えていると今更ながらまだ自分が汚く臭い事に気がついた。
風呂に入んないとな。
脱衣場を開けなかに入る。湯加減はどうだろうか?
俺は湯加減はを確かめるべく風呂の扉を開ける。
すると俺の目に気持ち良さそうに湯に浸かるラフィネが映った。
もちろんいきなり扉が空いたのでラフィネも気付き、俺とラフィネの目が合い………。
「「おわああああああああ‼」」
急いで扉を閉める。
大丈夫!見えなかった!残念…じゃない!見えてない!
「本当にごめん!入ってること忘れてて脱衣場の鍵がかかってなかったから…」
「…………」
返事がない。怒ったのか?いや、そりゃ怒るよな。て言うかこんなありがちなやつが起こるとか⁉
「………いいですよ」
「へ?」
何がいいんですか?
「…私はお兄様の妹ですから家族です。さっきはびっくりしただけです。なので一緒に……一緒に…は、入りませんか?」
最後の方は蚊の鳴くような声だったが聞き取れた。
どうしてこうなってしまったのだろう。
俺とラフィネは一緒に風呂に入っている。…勿論タオルを巻いて。
「そういえばお兄様と二人でゆっくり話すのは久し振りですね」
「確かにな。パーティーメンバーもいつの間にか増えてるしなー」
時間が経つに連れ何とか落ち着くことが出来た……。けど改めて何やってんだろ俺…。
傍から見たらロリコンが風呂に入ってるようにしか見えない。
本当に何やってんだろ…………。
そのままゆっくり湯に浸かっているとまた風呂場の扉が開いた。
もちろん俺達と扉を開けた本人と目が合い…。
「「「おわああああああああ‼」」」
ルリテだ!あいつの事すっかり忘れてたけどルリテも汚れてたんだった!
でも大丈夫!見えなかった!残念……………………じゃない!見えてない!
扉を閉めてから少しすると向こうから話してきた。
「わ、わりい!脱衣場の鍵がかかってねーから…。あとまさか二人で入ってるなんて…!邪魔してわりいな、あたしは向こうで待ってるから。今の事は忘れるよ」
ちょっと待ってくれ‼
何とか二人でルリテの誤解を解く事が出来たのだが。
どうしてこうなってしまったのだろう。
俺とラフィネとルリテは一緒に風呂に入っている。…勿論タオルを巻いて。
「そういやこうやって三人でゆっくり話すのも久しぶりだな」
「確かにそうですね」
「忙しすぎてボリューム満点過ぎる生活だからなー」
時間が経つに連れ何とか落ち着くことが出来た。
本当に慣れと言うのは恐ろしい。
今までなら、こうやって異性と風呂に入るなんてあり得ない事だな。
「そうですか?私はとても楽しい冒険でしたよ?」
「思い出に浸るにはまだ早いと思うけどなあ…。もうレベル上げは終わりでいいのか?」
「いえいえ。私はまだレベル二十三ですのでまだまだ足りません。そうですね……レベル百くらいにならないと駄目かもしれません」
そう無邪気に笑いかける。
百ってマックスじゃん。…まあ俺もラフィネがいなくなると寂しいからな。
て言うかレベル二十三なんだ。幹部倒した俺ですら十八なんだけど。
「ちなみにあたしは二十だよ」
マジかよ…。もしかしてパーティーの中で一番低いの幹部倒した俺じゃないだろうな。
後でユウナレベル聞こ。
「さてと…。そろそろ出ようぜ。ユウナにこんなとこ見られたら誤解されちゃうし」
そう言いながら俺は浴槽からでる。
「うわ⁉おいマサト!」
ルリテは急いでラフィネの目を隠す。
どうした?タオルは巻いてるぞ?そう思い自分の体を見ると………‼
当たり前かのように、サービスかのようにタオルがお湯でスケスケでした。