第十五話 異世界と称賛と宴会
まあまあ久し振りにプロレイの街に帰ってきた。
街の中に入ると冒険者の人だかりができていた。
「皆どうしたんだ?」
そう訊くと。
「何でもねえよ」
一人の男がぶっきらぼうそう言うと、人だかりも解散した。
………俺、なんかやらかした?
俺がやった事といえば新米冒険者に飯を奢ったくらいですが。
あれか?お前も新米冒険者のくせして熟練冒険者みたいなオーラ出すなとかそんな感じか?
それともまさかルリテが他人の物盗んだとかなんかやったのか?
……全く思い当たる節がない。
人だかりと皆のそっけなさに俺達の頭の上にハテナマークが出現する。
するとバイエルが俺の肩をガシッと掴み結構強めに言ってくる。
「おいお前ら!…今夜絶対にギルドに来いよ?」
「…お、おう」
返事をするとバイエルも帰ってしまった。
…………俺、なんかやらかした⁉
「お兄様、私達何かやりましたでしょうか?」
「なんか怖かったんだけど」
「なに?マサトって嫌われてるの?」
「いや、嫌われてないし思い当たる節が全くない。今夜ギルドに行けば分かるんだろうけど……」
おじいさんにお礼を言いゆっくり帰ってきたため時刻は夕方、すぐに夜になるだろう。
ユウナに街を紹介しているとあっという間に夜になってしまった。
俺達はギルドのドアの前に立つ。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い超怖い。マジで何されんの?
なんかしらの原因である俺達以外の冒険者と一緒に来たかったが他の冒険者が街に見当たらなかった。
緊迫した状態に唾を飲む。
「い、行くぞ」
俺のビビっている台詞に皆もドキドキした状態で返事をする。
いつもよりやけに重く感じるギルドのドアを開けた。
その瞬間に大きな歓声が起きた。
「「「「「魔王軍幹部討伐、おめでとう‼」」」」」
…………え?
「ハハハハハ!ビビったか?何か怒られるかと思っただろ」
…………このドッキリはシャレにならん。ドア開けた瞬間土下座する気満々だったんだけど。
「……ありがとう」
何とかお礼の言葉は形にできた。
というか幹部を倒してから一日しか経っていないのに情報が早いな。
ということは…………。
「お前の仕業か……ルイ」
すると俺より一つ程小さい年で俺より二回りほど小さい体をしたルイがバイエルの後ろから出てきて得意気に話す。
「オイラの情報網を甘く見ない事だね」
「いやあまさか駆け出し冒険者の中から幹部を討伐する奴が出るなんてな!勿論お前の倒した幹部に賞金がかかってるから貰ってこいよ」
賞金!?…………そんな事考えてなかった。
言われるがままに受付に向かう。
すると受付のお姉さんが大きな袋を持っていた。
「では魔王軍幹部、筋力バグりのブリッシュを討伐されたマサトさん一行に、四億ベクタを差し上げます‼」
「「「「「うおおおおおおおおおお‼‼」」」」」
多額の賞金にギルド内が盛り上がる。
四…億?……四億⁉ヤバいヤバいヤバいていうかなんか怖い。さっきとは違う意味で怖い。
「四億⁉すごすぎる!屋敷が買えちゃうよ!」
二つ目の屋敷を想像する金額。
「お兄様!四億ですよ⁉毎日豪華な食事ができます!」
王族ですら驚く金額。
「よ……四億……もうお宝要らないじゃん……」
若干引きつつも盗賊が職務放棄する金額。
そんな金額を、俺は手に入れた。
「きゃああああカッコいい!マサトさん奢ってえ!」
「おいおい奢れよ!俺達ダチだろ⁉」
「「「「「マサト!マサト!マサト!マサト!マサト!」」」」」
こんな歓喜に見舞われたら、俺も気分が上がっちゃう。
そして俺はライトノベルで有名な台詞を口にした。
「よーし、お前ら!今日は俺の奢りだ!盛り上げろー‼」
「「「「「うおおおおおおおおおお‼」」」」」
再びギルドは大きく盛り上がった。
うちのパーティーメンバーは、幹部を倒したからか人気者になっている。
「ラフィネちゃん可愛いねえ。金髪で小さくて礼儀正しくて」
ラフィネは女性冒険者の虜に。
「よろしくね!ユウナ」
「新人さんか?この街について色々教えてやるぜ」
ユウナは年が近いのか可愛いのか仲良くし、男女関係なく早くも打ち解けあっている。
「盗賊職なのに幹部と渡り合えるなんて凄いね!」
「なあ、今度いろんな戦い方教えてくれよ!」
ルリテは盗賊職なのにということで冒険者達に戦闘方法を得意気に話している。
ルリテも、ようやくどんな人ととも分かち合えるようになったな。
「ぷっはあ!あー疲れた。一歩間違えてたらこっちが死んでたぜ」
「お前が〔疾風ボーグ〕に勝った時から何かデケえ事をやるとは思ってたけどまさか幹部討伐たあな!」
「どうやって倒したのか千ベクタで買うよ」
「もう俺にはもうそんなはした金要らないんだよなー!」
「あはははは!お金手にしたとたん調子のり始めたよこの人!」
「「「「かんぱーい‼」」」」
生きてきた中で一番楽しい。
「ラフィネちゃーん…かわいいねえ…」
そう言って女性冒険者はラフィネに頬擦りする。
「ちょっと…痛いです。酔ってますね?」
「ねえ、ちょっと聞きたいんだけど」
バイエル達と飲んでいた俺にユウナが聞いてくる。
「この世界って十六歳からお酒のんで良いの?」
「ああ、その事か…。この世界じゃあお酒は何歳から飲んでも良いらしいぞ?ただし、アルコール中毒で死んだりアルコール依存性になったりとか、どんなことになっても自己責任になるけどな」
「ふーん…。まあRでのお酒は基本だしね。じゃあ私はあの人達と飲んでくるから」
……もう友達できたのか。
この世界じゃ、いじめなんてないしユウナに嫌な思いする奴はいないもんな。
「お兄様、私もちょっとだけお酒を飲んでみたいです」
「ん?ダメダメ!何歳から飲んでも良いって言ってもラフィネはまだ十二歳だし、王女なんだから」
王女様が酒に酔うところなんて見たくない。
「私は王女ではなく只のラフィネです!」
「王女じゃなくても十二歳だからとにかくだーめ!」
それを聞くとラフィネは口を尖らせながら自席に戻った。
「ていうかお前のパーティー女しかいねえな」
「ハーレムしてんの?」
………。
「あれでハーレムって言えるかなあ………」
ライトノベルとか読んでて主人公以外全員女で『実際そんな事なるわけないだろ』とか鼻で笑ってたけれど成り行きでそうなっちゃうんですね。すいません。
「ラフィネは妹だしルリテは仲間、ユウナは彼女だけど、一人だけじゃハーレムとは言わないだろ。っていうか飲もうぜ」
「「「かんぱーい!」」」
「………あの、マサトさんのパーティーにクエストをお願いしたいのですが」
盛り上がっているところに職員のレネさんが唐突に言ってきた。
「クエスト?」
「はい。最近近くの洞窟から異臭がしているとの事なので調査していただきたいのですが」
「クエストですか…。俺はもうお金には困ってないので…」
止めときますと言おうとしたとき。
「幹部を倒したから職員じきじきにお願いされてるよ。すげえなあ」
え?
「流石マサトさんだよねえ」
ちょっと。
「ああ、マサトにやらせれば間違いなしだもんな」
待てよ。
「「頑張れよ!」」
あかん…これは詰んだ。
「何々クエスト?このパーティーで初めてじゃん」
「精一杯頑張ります!」
「よっしゃ!早速明日行くぞ!」
皆やる気なんですが………。
「じゃ、じゃあ引き受けます……」
「ありがとうございます!」
そう言って蔓延の笑みを見せた。
まんまと乗せられた。流石ギルドの職員だ。