第十四話 異世界と再会とカウンター
時刻は夜中の四時を少し回った頃。皆は寝てしまったが俺は眠れるはずもなく優菜の寝ている部屋でずっと座っている。
幸い軽い脳震盪ですぐに目が覚めると言っていた。
「………ん」
「優菜!大丈夫か⁉」
「……ん……え?…ま……さと?」
俺の顔を認識した優菜の顔からゆっくりと涙が流れる。
「どう…して?何でこの世界にいるの?」
「寝て起きたらこの世界にな」
「…そう。私も…同じ」
「そうなの──」
言いかけている時に優菜が俺の背中に手をまわし、自分の方へ引き寄せた。
まあまあ大きな声で泣きながら。
「良かった!また…会えて!もう二度と…会えないかと思って……私頑張ったよ!政人に教えてもらった事で、一人で…頑張ったよ!」
「………ああ…よく頑張った。俺達はここで生きていくしかないんだ。……勿論、また俺のパーティーに入るだろ?」
「うん‼」
涙で溜まった目をゴシゴシと腕で雑に拭きながら、前と変わらない笑顔を見せた。
「俺のパーティーメンバーだ」
朝になったので二人を起こして紹介する。
「ラフィネです。お兄様…じゃなくて、マサト様に命を救われました」
「ルリテだ。あたしも救われた様なもんかな」
「ユウナです。よろしく!命を救ったのと、お兄様について詳しく。…まさか、そういうシュミじゃないよね?」
やっぱりそこをついてくるか‼
「違う違う!何から話せばいいのか…。まずラフィネはこの国の王女で…」
「「ええええええ⁉」」
まあそれが普通の反応だよな。だけど……。
「ルリテは気づいてただろ?」
「まあね。でもこういうのってお約束じゃん?」
気づいてて普通に対応出来るの凄いな。
そこから、俺の今までの説明が始まった。
この世界のステータスバグりや俺の敏捷性バグり。王女救出や盗賊を買い取るなど。特に誤解の多いお兄様については十分の十二までしっかり説明した。
「なるほどねー。王女様、ルリテ、よろしくね」
「あ、あの…私のことはラフィネで良いですから。しゃべり方もいつも通りで……」
「じゃあ………ラフィちゃんで!」
自分より年下をちゃん付けするのかと思ったが、年が近いからかルリテは呼び捨てのままだ。
まあ、ルリテちゃんってのは少し無理があるしな。……性格上。
「ところで気になってる事が二つあるんだけど。この世界に来たのっていつ?あと何で兜だけ装備してたの?」
「えーっと…。ここに来たのが二週間くらい前かな?装備は、初めの頃は強い装備を買おうと思って全身鉄の装備を買おうと思ったんだけど重すぎてね。だから責めてもの情けで兜だけ買ったの」
気持ちは分かるけど兜だけ装備したってあんまり意味がない気がする。
「あ!今兜だけ装備したって意味ないって思ったでしょ!」
「い、いやいや!決してそんな事はないはずだ!」
変な回答をしたため二人で笑いあう。
するとさっきから不安そうな顔をしていたラフィネが。
「あの…ユウナさんはお兄様の…彼女さんなんですか?」
「えっ!う……んまあそうなのかな」
ストレートに聞かれたので少しの恥ずかしがる。
「まあこの世界の事はよく分かんないからそういうのがないのかもしれないけどな」
「もう!そういうこと言わなくていいの!」
ユウナの返事にラフィネが今度は目が少しだけつり目になる。
「ユウナさん!私、まだ負けてませんから!私にだってチャンスはまだあるんですからね!」
「え⁉」
いきなり怒ったラフィネにユウナは戸惑う。
どういう事?
「良かったなマサト」
……?
「それってどういう意味だ?」
「分かんねえなら良いんだよ」
…………?
「で…どうやってあのブリッシュとか言うキングゴブリンを倒す?」
「毒は効かなかったんだよな」
「私の上級魔法は結構効きました」
「力じゃ押し負けちゃうしねー」
お前ら……以外に呑気だな。
だがどうしたもんか。
ゲームだとこういう力がバカ強い奴ってどうやって倒してたっけ……?
……………………………………。
真面目に考える。
……………………………………上級魔法は効いた。
……………………………………三日間待つ。
……………………………………力じゃ押し負ける。
……………………………………………………………⁉…………‼
そうか‼だからか!…そうすりゃ良いのか!
「攻略方法が分かったかもしれない」
ブリッシュが退いてから三日間経った昼。
前に戦った場所で四人はキングゴブリンが来るのを待つ。
遠くから大きな足音が聞こえて来た。
次第に足音が大きくなり、巨大な体が再び俺達の前に姿を現した。
「よお!よく逃げなかったな。今度こそは楽しませてくれよ?」
「任せろ」
ブリッシュを含めた皆が一斉に武器を構える。
ブリッシュが大剣を降り下ろす。
今だ!
降り下ろされた大剣を刀身の短いダガーで受け流す。
重い‼……けど!
「セヤアアッ!『マジックシェード・ウインドショット』!」
受け流したところでがら空きになった胴にひたすら斬り込む。
力じゃ押し負けるなら攻撃を流してからカウンターすれば良い。
「グアアッッ‼いてえじゃねえかああああ!」
楽しませろって言ったのそっちじゃん!
でも、カウンターは上手く効いてるようだ。どこかの漫画で『激流を制するは静水!』ってのを読んだことあったのが役に立った。
「いいか?あの筋肉バカはカウンターに弱いはずだ。俺がまず試しにやってみるから、上手くいったらお前らもやってくれ。あと、あいつにラフィネの上級魔法は凄い効果的だと思う。多分あいつはあの魔法が結構痛かったから回復のために三日間待ったんだと思う。だから、あいつとの戦闘の肝はカウンターとラフィネの上級魔法だ」
「さっさと……死ねえええ‼」
今度はユウナとルリテの二人を狙って大剣をで突き技をする。
やはり相手の動きは極端だ。
「ルリテ!」
「おう!」
二人で向かってきた大剣を片側ずつ剣で流していく。
勢いがなくなってまたもや胴が空いたところを。
「「ハアアアア‼」」
見事に斬り込む。やはりカウンターの効果は絶大だ。
「調子にのんじゃねええええ!」
しまった!
いきなりの行動に対応が遅れたため俺はブリッシュの手に捕まれる。
「お前ら!こいつがどうなっても良いのか?俺にとっちゃあこいつを握り潰すなんてわけないぜ?」
まずったな…。
するとラフィネが声を上げた。
「離しなさい!私は───!」
そこまで言ったところで息を飲んだ。
私はお兄様と冒険した一番最初の頃に言われた言葉を思い出す。
「いいか?自分の命が危なくならない限り、ラフィネは只のラフィネだ。どんなに仲間が危険な目に会おうとも、自分が王女ということをばらすな。王女としての権力は使うな。権力を使って自由するのは魔王くらいで十分だ」
……。どんなに仲間が危険な目に会おうとも、権力を使ってはいけない……。
「私はその方の仲間です!それ以上するなら、容赦はしません」
そう言って右手を前に突き出す。
「おいおい、その手はなんだ?少しでもお前が俺に攻撃したら、内臓と血がこいつの体から溢れるぜ?」
やだー!幹部の手に納められてるわりには冷静だが、内臓血をスプラッシュマウンテンにされるのは絶対やだ。
「…なら、容赦はしません『ライトクロニクル』ッ!」
ラフィネの突き出した右手から光の長方形が、光の速さで俺を握っていたブリッシュの左手を切り落とした。
「グオオオオオオ‼」
「ナイスだラフィネ!」
急いで近くに落としたダガーを拾いブリッシュに向かう。
「ふざけんなああ‼」
今度は先程よりも速い動作で、渾身の力で俺に大剣を降る。
今しかない!ここを逃したら……!
俺も出来る限りの弱い力を振り絞る。
「さっさと死ねえええ!」
「ッ!『マジックシェード・ウインドショット』ッ‼………アアアアアアアアアッ!カウンター‼」
渾身の一撃をスキルでカウンターしたことにより、一・五倍にして跳ね返したため俺のダガーが太いブリッシュの胴体を切り裂いた。
「グ……アアアアオオオオオオオ‼」
とてつもない雄叫びを上げた後に、魔王軍幹部のブリッシュは、魔王軍の紋章が入ったネックレスや装備していた大剣と一緒にボロボロと崩れ、死体も残さず消滅した。
「……終わった…のか。でも…なんで…死体すら残さず消えたんだ?」
俺の質問にラフィネが答える。
「魔王軍幹部が装備している魔王軍の紋章が入った装飾品を装備すると、魔王の呪いにかかるらしくその装飾品を外せず、魔王軍の重要な証拠を残さないよう死んだときに死体や紋章の装飾品、幹部が装備していた物や持ち物まで消滅するんです」
紋章入りの装飾品……あのネックレスか。
「終わった…終わったよ!私達、魔王軍幹部を倒したんだよ!」
「倒したのはマサトだけどな」
「お兄様の作戦は大成功でしたね」
ふう……何とかなったな。
…………まあ終わってみれば、熱いボス戦だったな。
「じゃあマジックシェードも覚えたし幹部も倒したし、今日はここに泊まって明日プロレイに帰ろうぜ」
その言葉に皆返事をし、村に向かって歩いた。