第十二話 異世界と筋力バグりと兜の人
村の近くの草原で材料を確認しながら。
「ふー…。あとは肉だけだな」
村の近くには色々な材料が揃っていたためスパイスの元などはすぐに集めることができた。
「ですがお兄様、お肉といってもここら辺には生き物がいませんよ?」
「いやいるじゃん。倒したての奴がさ」
そう言って檻の中のホブゴブリンを指す。
「え……あれを食うのか…」
「料理次第で美味くなるから大丈夫だって!……でも回復魔法がなー。ラフィネのレベルじゃあまだな……」
「それでは、私がお手伝いしましょうか?」
いつの間にか近くにいた怪しい女の人が言ってくれた。
首から下は普通にそこらの冒険者と同じような防具なのに頭に錆びかけの鉄の兜を被って背中には片手剣を背負っている。
兜のせいでよく分からないが、声からすると年齢は俺と同じかそれ以上か。
「あなたは?」
「この兜は気にしないで下さい。一つ言えることは怪しいものじゃありません」
すごく兜が気になるけど、女の人のファッションは分からないことだらけだからな、口にしたら負けだろうな。
「じゃお言葉に甘えさせてもらいます」
「分かりました『ヒール』」
余程魔法レベルが高かったのか俺でも肉が浄化されたことがわかる。
これなら料理できそうだ。
スパイスを調合しニンジン、ジャガイモ、肉といった材料を食べやすい大きさに切る。
まさか異世界でもカレーを食べることができるとは思いもしなかった。
美味しそうなカレーの匂いが辺りに広がる。
「後は少し待てば完成だな」
「いい匂いですね、食欲をそそられます」
「こ、この匂い!まさかあなたは────⁉」
兜をかぶった女の人がそう言いかけたとき、茂みからデカい音が鳴ったと思うと。
さっきのホブゴブリンよりもデカいゴブリンが出てきた。
「なんかいい匂いがすると思ったら、まさか人間がいるなんてなぁ」
声が低くやけに上手く喋るゴブリンだ…。しかも首に紫色の魔王軍のマークが入ったネックレスをかけている。
俺の目線にきずいたのかネックレスを触りながら言う。
「うん?こいつが気になるのか?こりゃあ魔王軍幹部しかつけることを許されない紋章みたいなもんだ。俺はキングゴブリンの筋力バグり、ブリッシュってえ名前だ」
……………筋力バグり?
………………魔王軍幹部?
いきなりの事に皆も固まったままでいる。
とてつもないほどの動揺を隠しつつそのブリッシュとやらに聞く。
「その…魔王軍幹部がこんなところに何の用だ?」
「……まあ確かに魔王軍幹部がこんなへんぴな所にいるのは気になるよなあ。俺もこんなところには来たくなかったんだがよ、エティオンが言うんだよ。ボロボロになったあとは必ず一組は修行に行くってな。古い街だから見落としそうになるところだったよ。あと、エティオンが言ってたぜ…修行に来るなら俊敏バグりのマサトって奴達だってな。……お前の名前は?」
エティオンには全部おみとうしだった訳か……。
流石としか言いようがない。
「カヤマサトだ…」
その返事にブリッシュが大声で笑いだす。
「フッハハハハハハ!いやー流石お前だよ!ドンピシャじゃねえか!こりゃあお前を魔王様ん所に持っていったらどれ程の褒美が貰えるかな」
その言葉に俺以外の三人が身構える。
俺は前を向いたまま三人に手を出すな…みたいな感じのサインを贈る。
「さっきアンタは、良い匂いがするって言ったよな。そこでだ、その匂いの正体はこの鍋の中なんだが、これを全部やる。その代わりにアンタは黙って退いてくれ」
こんな交渉しか思い付かない。
今の俺たちじゃ、とてもじゃないが勝てる気がしない。
望みといえばこの兜の人がどこまで戦えるか、だ。
一人で魔王とかドラゴンを倒せるくらいの力の持ち主なら普通に反撃するが、そんな可能性は全くといっていい程いや、悪いが全くないだろう。
「フッ……ハハハハハハ!おもしれえこと言うなあ!けど、なんか勘違いしてねえか?」
………?
「俺の言ったいい匂いってのはよお……………お前ら人間の事だよ!」
そう叫んで腰についてたまさにキングゴブリン専用の大剣を構えた。
魔王軍幹部、筋力バグり、キングゴブリンのブリッシュが襲ってきた‼
俺達も瞬時に武器を構える。
だがどうやって戦えば良いのか分からない。
まずは相手の動きを─────‼
早速ブリッシュが大剣を振りかぶる。
「回避っ!」
こいつは筋力が高いだけですばやさはない、回避すること事態はたいしたことないのだが……。
ブリッシュの振った大剣が地面に落ちたとたん、ものすごい地響きが起きた。
全く立っていられない程という訳でもないが、少しの体勢は崩してしまう。
しかも、あいつが切った地面にはドラゴンの爪痕かと思うくらいの切れ目が入っている。
筋力バグりやべええええ‼
あんなの喰らったら粉砕骨折の百倍ヤバい!
「こいつは筋力が高いだけですばやさはない!攻撃した後の隙を狙うんだ!」
俺の言葉に全員が頷く。
「懸命な判断だな!まあ頑張れよ‼」
頑張るよ!
「…おらよ!」
ブリッシュの目の前にいた兜の人を標的にしたらしいが、難なくそれを回避する。
あの人も結構やるな。
……あの人《《も》》じゃなくて《《あの人は》》だな。
って、そんなこと考えてる場合じゃない!
今の攻撃で隙ができた!
「今だ‼自分の持てる最大の攻撃を当てろ!」
四人が一斉にブリッシュに攻撃する。
「分かりました!『マジックシェード・ライトクロニクル』ッ!!」
マジックシェードを使った先程覚えたばかりらしいラフィネの上級魔法が当たる。
「グオオオッ!」
流石は上級魔法、魔王軍幹部のも絶大なダメージを与える。
更に隙を見せたブリッシュに今度はルリテが突っ込む。
「『ポイズンシャボン』!」
紫色のシャボン玉がブリッシュを包む。
ポイズンシャボンと言うくらいだから、名前のとおり毒のシャボン玉なのだろう。
ブリッシュが立とうとすると毒のシャボン玉に触れて割れる。
「グワッッ!」
ブリッシュには確実にダメージを与えられている。
案外いけるのか?
兜の人がブリッシュの弱ったところを見て前に出る。
するとブリッシュがにやついた。
「ダメだ!行くな‼」
そう言うが時既に遅し。ブリッシュが元気よく立ち上がり勢いよく兜の人を突き飛ばす。
やられた!ゴブリンに毒系が効きにくいことを考えとくんだった!
ゴブリンは日頃腐った場所や濁った場所を好んで生息する。だから毒はあまり効かないかもしれないとは思ってたんだ。
わざと弱ったふりをされた!
「おいおい、よええなお前ら!上級魔法は正直ビビった、お前らの実力も悪くはない、だが戦い方が悪い!俺は勇者気取ってる奴と《《いい》》バトルがしたいんだよ。と、いうわけで話のわかる俺は待ってやる!三日間だけな。三日経ったらまた来るぜ!それまでに鍛えとけよ‼」
そう言ってゴブリンキングのブリッシュは森の中に戻っていった。
また勝てなかった。力の差なのか?でもあいつは実力は悪くないと言った、修行の成果も出てる。一体何が足りないのだろうか。
「おいお前、大丈夫か⁉しっかりしろ!ラフィネ、マサト、急いで運ぶぞ!」
その言葉に俺は正気に戻る。
あの一撃を喰らったとはいえ命に別状はないはずだ。
急いで兜の人の元に駆け寄ると、その人の兜は砕け散っていて気になっていた顔が露になっていた。
綺麗で鮮やかな茶髪。流れるようなロングストレートの髪。俺と同じような歳。
「おいマサト!何やってんだよ手伝え!」
────────‼
「この人………俺の彼女だ………!」