第十話 異世界と力と血溜まり
「新しく来たそこの君、僕にかかってきてくれよ。こんなにいるのに皆来てくれないんだ」
残念そうにその人は言う。
何なんだこいつ。人間だろ…闇落ちした系か?
「てか何で皆行かないんだよ?幹部が怖いのは分かるけどしょうがないだろ」
俺の質問に何度か見かけたことのある冒険者が答える。
「簡単に言うけどな、幹部相手のトップバッターは守備力高い奴か敏捷性の高い奴じゃなきゃ即死かもだろ?」
敏捷性での回避は分かるけどどんなに守備力高くても幹部の攻撃は防ぎたくないな。
「ちょっと、僕の事忘れないでくれる?…あ!そうか、自己紹介がまだだったね。僕はエティオン。魔王軍幹部で感情バグり、人間に見間違えられるけど魔人のエティオン、よろしくね」
感情バグ⁉りこいつがルリテの言ってた魔王軍幹部のステータスバグのある奴か。
魔人っていったらデカくてムキムキを想像するけど魔族の人間もある意味魔人だな。
……感情バグりってそんなにヤバイ気がしないのは俺の気のせいだろうか。
「気を付けろよマサト。感情バグりは魔王軍幹部で一番強いと噂されてる奴だ」
やはり俺の気のせいだったらしい。てか俺が相手する前提なのね。
俺防具着てないから攻撃食らったら即死だろうな。
「お兄様、あまりに危険すぎます。ここは私が行きます!」
「気持ちは嬉しいけど、誰がやっても危険度は同じだろ?ここは俺の速さを活かすときだ」
そう言いながら前に出るとエティオンは嬉しそうにしながら言う。
「どうして魔王軍幹部がいきなり王都に来たか知ってる?最近今年で王女を殺すはずだった幹部の知力バグりから連絡が途絶えたんだ、だから僕が来たって訳」
知力バグりから連絡が途絶えた?まさか俺が花火に投げたあいつのことか?あんなのが魔王軍の幹部なのか?………いや―――
「そのとうり、彼は生きてるはずだよ。彼が簡単に殺られるはずもないし、僕には到底倒されたたとは思えないよ」
俺もさすがに花火で倒せたとは思えないが……。
やるだけやってみるか。
先手必勝!俺は素早く剣を抜き地面を蹴って電光石火を発動させエティオンに近づく。その時間は一秒にも満たない。
「っ‼」
急いで踏みとどまり後ろに戻る。
あいつ、俺が突っ込もうとしたところに片手剣を向けた。あのまま突っ込んでいたら俺の顔と胴は泣き別れだった。
「あれ?今のを避けられる⁉絶対死んだと思ったのに……ん?」
エティオンはぶつぶつ言いながら悩む。
「……!そうか!君が敏捷性バグりの人か。ステータスバグりはモンスターに生まれやすくなってるんだけどたまに例外もいるんだよね。モンスターにステータスバグりが出たら魔王軍やドラゴン軍にスカウトされるて喜ぶんだけど、何故か人間はどっち側にも就かずに僕たちの仲間を殺し、死にそうになったら逃げるか仲間にしてくれっていう。ほんと、ズルくて自分勝手で醜い生物だよね。でもステータスバグりの君は違うだろ?魔王軍に来なよ。僕が魔王様に幹部にするよう頼んであげるからさ!」
闇落ちのお誘いが来た。『竜のたのみごと』っていうゲームなら仲間になってたけどこんな所で闇落ちストーリーは歩みたくない。
「誘ってくれて嬉しいけど、俺は───」
「なら、あたしを仲間にしてくれよ」
俺の言葉を遮りルリテが前に出てきた。
きっと何か考えがあるのだろう、俺にしか分からない様にウィンクしたから。
「あたしもコイツほどじゃないがそれなりに速いんだ。コイツが断ったんだから代わりにあたし、良いだろ?」
「んー…魔王様には敏捷バグりを連れてこいって言われてるけど、仲間は多い方がいいしね!いいよ。じゃあ行こうか」
そっけない返事をしルリテはエティオンに近づく。そしてルリテとエティオンが並んだとき――――!
「『バインド』‼」
それはきっとルリテの魔力をほとんど使った為この前の縄よりも太い縄がエティオンを巻き行動不能にする。
「今だ!やっちまえ‼」
誰かが放ったその一言で周りの冒険者が一斉にエティオンに向かう。
俺は魔力を使い果たし倒れたルリテを担いで離れる。
エティオンは⁉
「『マジックキャンセル』」
エティオンがその魔法を使ったとたん体に巻き付いている縄が消滅した。
これはマズい‼ラフィネもそれを察したのか急いでエティオンから距離を取る。
「皆行くな!戻れ‼」
その言葉で数人の冒険者は戻ってきたものの、聞こえてないやつは突っ込む。
「戻れ‼」
一人の冒険者が「え?」といった瞬間に悲劇は起きた。
エティオンが勢いよく剣を横に振る。
良かった、剣は届かず空振りになっ………た?
瞬き《まばた》をすると、突っ込んでいった皆が倒れていく。
俺達が意味もわからず立ち尽くしていると。
「今日はもういいや。バイバイ、また今度ね」
汚れ一つない魔王軍幹部は、その言葉を残し退いた。…いや、退いてくれた。
「おい大丈夫か⁉」
急いで倒れた冒険者に駆け寄ると………。
「あ、あああ、」
「ラフィネ、お前は見ない方がいい」
モンスターなら大丈夫だが、人間だとこたえる。
「酷すぎる。あたしのバインドは効かなかったのか……」
「ああ、アイツの魔法らしい」
「お前が止めたから何人かは助かったが、殆どが死んじまった。」
奴の放った一撃は全て、冒険者達の上半身と下半身を離ればなれにさせていた。そしてそこには、水溜まりではなく血溜まりができた。
「これが幹部の力…か」
何故運悪く一番強い幹部が来たのだろう。他の幹部だったら、勝敗は変わっていたかもしれないのに。
多く冒険者の死を嘆くかのように、大雨が降った。
異世界だから、手に汗握る戦闘。異世界ならではの料理。仲間との絆、恋。激戦のはてのラスボス討伐。そんなもんじゃない。
異世界だから?いや、異世界だからこそ人は死ぬ。異世界だからこそ日本より死ぬ。そんなこと考えてなかった。ゲームみたいだとしか思ってなかった。
人が死んだからって、教会で、金で生き返る訳はない。
当たり前が大事だと知った。俺の生きている間は絶対に仲間は死なせないと誓った。
生きるためならクエストも大事だ、もう戦わないとかそういう訳じゃない。
でも、ゲームで一度も仲間を死なせないより難しいけど、ゲーム感覚で生きる訳じゃないけど、ゲームで出来ることは現実でも、異世界でもやってやる‼
初めて目の前で人の死を体感した。異世界での人の死を体感した。生を誓った………。そんな日だった。
あとがき
お久しぶりです。Ryuu65です。この小説も十話となりました。
ここまで読んでくれた方、《《本当に》》ありがとうございます。
まだまだお付き合いいただけると幸いです。
今回は、身知らず人の死についてという暗い話になってしまいました。
エティオン強いですよねー。次期魔王になるかもしれませんw
今回の話は暗いので、ちょっと無理かもしれませんが失礼して。
それでは、こんな日陰小説を見つけ、読んで下さった皆様に、
笑顔と感謝とドキドキを!