洞窟へ
それは唐突に起こった
深夜の夜勤ワンオペでのコンビニ
仕事にひと段落がついて、廃棄のおにぎり(ツナマヨ)とおでんを頬張りながら唯一自腹で買ったコーラでそれを流しこもうとしたその時だ
ガタガタと地面が悲鳴を上げて、バックヤードに置いてあるPCや鉛筆入れ等の備品がその揺れに合わせて素っ頓狂な音を響かせる
「お、いい音奏でるねぇ~。自然のオーケストラって奴だ。こちとら29年地震の名所にっぽん、プレートとぷれーとの狭間で生きて来てるんだ。この程度では俺を止められんよ、ふふ」
バックヤードで1人ぶつぶつと俺は地面に向かって話しかける
日本では地震などたいして珍しいことではない
そして俺は地震や雷の音といった一般的に大衆が恐怖する出来事に、幾分かの耐性がある側の人間なのだ
というか、台風の日にテンションが上がるクソガキのような人間なのである
小学生の頃は台風の日にレインコートと長靴を履いて外で台風と異種格闘技戦をやらかす程の猛者なのだ
家を出る直前、飼い猫のみーちゃんが外は危険だと「にゃーにゃー」と俺をたしなめているにも関わらず、それをプロレスのセコンドからの試合前の激励が如く背中に浴び、悠々と大自然の台風リングへ上がって行ったのだ。(1ラウンドTKO負け オカン)
地震の揺れなど気にせずにツナマヨでコッテリとした口の中をコーラでスカっと流し込む
おでんの大根にカラシを塗って、ひと齧りしたら汁を飲みオニギリにまた戻る
黙々と飯を続ける俺な訳だが、今日の地震の奴は中々しつこい。かれこれ3分は揺れ続けていやがる
「にしても随分長く揺れるな。震度は3か4ってとこか? カップメンとかちょっとの揺れですぐに地面に落ちるからな。まったくもってだらしない。お、揺れ収まったじゃん」
5分程度で揺れは収まった、大地震ではなくなによりですね
「さて、被害状況の確認と行きますか。頼むぞカップメン、俺の手を煩わせないでくれよ」
飯を食い終わった俺はゴミをダストボックスに投げ入れバックヤードから店内へ移動
さっきの地震で陳列した商品が地面に落ちてないか店内の巡回をすることにする
「うんうん、綺麗な陳列だ。我ながら美しい仕事だ。お前らもよく踏ん張ったな」
どうやら無傷だったようだ、棚の商品は休憩前に綺麗に陳列された状態のままだ。店内でワタシを買ってくださいと、蛍光灯の明かりを光沢のあるパッケージが反射させて自己主張している
そろそろ時間を確認しようかな。ワンオペ店員は常に時間に追われ胃をキリキリさせながら働いているのだ
「ん? 午前の2時10分? いつもなら2時には運送業者さんが商品を持ってきてくれるはずだよな。遅れるにしても連絡もないっておかしいな」
ふと何気なく駐車場を見て見ると、そこには予想もしないような光景が広がっていた
駐車場の横と正面には道路が通っており、比較的交通量の多いそこから集客するのがこの店の売りであるはずなのに、駐車場の横をゴツゴツとした岩の形をした土の壁で囲まれているのだ
「なにこれ・・・・・・なにこれ!」
俺は慌てて外に出て周囲の確認をする
「駐車場の両サイドに土の壁? ってか洞窟? どうなってんのこれ。正面の奥行きは分かれ道になってて先が見えねえぞおい」
夢かこれ? 酒なんて飲んでねえし、うーん
ペタペタと駐車場の回りを歩いていると、カタンと俺の頭に何かが当たり進路を防ぐ
「ガラスの壁か、正面側だけによく見るとガラスの壁が張られてるぞ」
駐車場の両サイドは土の壁で挟まれ、正面の分かれ道に続く場所には辺り一杯がガラスで覆われているのだ
「出入り口がねえ。難攻不落じゃねえか。と思ったらドアノブみーつけた。ここから洞窟に出られそうだけど怖すぎて外に出る気にもなれねえ」
どうしたもんかとキョロキョロ辺りを見回していると、洞窟の奥から1人の女がこちらに向かって走って何から逃げているのが目に入った
「クソッ、奥に入りすぎた! 宝に目が眩んであの程度の魔物の接近にも気づけないなんて。魔力も残り少ない、どうする・・・・・・」
女は焦っていた。仲間とはぐれ魔力も枯渇し、身体能力に自信が無い彼女はこのままではあの魔物の餌になるのも時間の問題だったのだ
「お~い! お姉さん! こっちこっち!」
俺はガラスのドアノブを引き、大声を上げながら彼女を手招きしてコンビニへ誘導する
「!? 前まではあんな所に建物なんて無かったはず。あの男も恰好がおかしすぎる。罠の可能性が高い・・・・・・でも、これ以上は足が・・・・・・仕方ない・・・・・・」
彼女は覚悟を決め、罠濃厚と思われる扉に自ら飛び込む。彼女がこちらに入ったのを確認すると俺は扉を閉めて鍵をかけすぐに店舗の中へ移動する
「ちょっと! さっさと中に入って! 後ろの化け物が追って来るぞ!」
「え、えぇ」
2人は店の中へ避難していった
HOW TO コンビニ LIFE