高平一樹after
高平一樹って誰だっけ? と思った読者様、スーパー経営者の息子ですヨ。
奏介がバイト先のスーパーの更衣室へ入ると、机でぐでっと突っ伏して、漫画を読んでいる高平一樹が目についた。
「おい、サボってんなよ」
「! げっ、菅谷」
「漫画持ち込むなよ。パパに言いつけるぞ」
「パパって言うなっ、きめぇだろ。つーか、なんでこんな早ぇんだ。お前こそ学校サボりかよ」
時刻は午後二時を過ぎた辺りだ。
「今日は学校の都合で午後休み。お前と一緒にするな。たく、最近はましになってきたと思ったのにすぐサボるな」
と、バタバタとパートの女性が入ってきた。
「あ、菅谷君おはよ。もう入れる? レジ混み始めそうだからよろしくね」
「わかりました」
「って、高平さん? サボりはダメよ。忙しいんだから」
「う……」
「高平さん休憩中なんですよ。俺と一緒に入ってくれるそうなので連れていきますね」
「そう? じゃあ、よろしくね、菅谷君」
慌ただしげに棚から袋の束を取り出し、出て行った。
「……こえーんだよっ、その人が変わったようになるのやめろよっ」
青い顔で叫ぶ高平。
「騒いでないで早くしろ」
高平と連れだって店内へ。すると、最近入った新人の女の子が要注意人物として認識されている老人に捕まっていた。
「客にその態度はないじゃろう。釣りの渡し方一つなっとらん。この店の教育はどうなっとるんじゃ?」
「ご、ごめんなさい」
何食わぬ顔で軽く流すのが正しい対処法なのだが。運悪く新人が捕まってしまうとは。
「やべ、あの子結構気がよえーから」
他の客達もざわざわし始めた。入店してすぐ出ていく客まで出始めてしまった。
パートの女性が割り込もうとするが、『この娘に話してるんだ!』と聞く耳持たない。久々に文句を言える相手が出来たことで老人は生き生きしている。対して女の子は泣きそうになりながら震えていた。
「ここで土下座せい」
聞き捨てならない言葉が飛び出てきた。
「あのジジイっ」
高平が二人に歩み寄って行く。
「お客様、他のお客様のご迷惑になりますから大声を出すのは」
「わしも客じゃっ」
その止め方はあまり効果がない。こういう場合は思い切ってしまった方がいい。女の子が土下座すれば収まるだろうが、あまりにも可哀想だ。
「早よせいっ、ここに膝をついて」
奏介は情けなくあわあわしている高平の隣に並んだ。
「警察呼びますよ」
その一言に老人が動きを止めた。
「なん……? なんでわしが警察を呼ばれにゃならんのじゃっ」
「若い女の子に土下座しろって、それセクハラでしょう。いい年齢して、公の場所でそういう趣味のプレイを強要するの、止めて頂けませんか? ここはそういうお店ではないんですよ」
「な……!」
思わぬ方向から殴られた感覚だろうか。
奏介は笑顔を作った。
「ね、そういうお店に行きましょう。お金を払えばそういうお仕事をされている女性がたくさんいらっしゃいますから。俺は未成年なので無理ですけど、よければうちの高平が付き合いますよ」
「な!?」
高平が驚いて目を見開く。
しかし、その言葉には老人はすっかり大人しくなった。
「付き合うというのは本当かの?」
「もちろん」
「おいーっ」
「……騒いで悪かった。土下座はせんでいい」
彼はちらりと高平を見、今日は帰ると言って店を出て行った。
「あれは一人が寂しくて構ってほしかった感じだな。本当に誘いに来るパターンか。頼むぞ、経営者の息子」
「てめぇ……」
と、女の子は泣き出していた。
「あ、あの、菅谷さん、高平さん、ありがとうございました」
「いいよ。でもあの人相手にする時は丁寧にね」
「は、はい」
後日、高平の元にお誘いが届いたのは言うまでもない。
ちなみに全部おじいさんの奢りらしいです。