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元いじめっ子の思い出話に突っ込んでみた2

 光田は心底困ったように、首を傾げた。

「何か、気に障るようなこと言ったかな?」

「クラスメートさんの描いてたマンガ破ってジュース漬けにしたんでしょ? どう考えたって、それが原因で不登校になって自殺してるでしょ。後悔してるならともかく関係なくて気分悪いとか、殺人犯が何ほざいてるんですかね」

「!?」

 父親の顔が引きつった。

「ちょ……さ、殺人犯て。ちょっとしたおふざけで自殺なんてしないよ」

「いや、したんでしょ。実際学校に来なくなってるし。あんたがマンガ破いてジュース漬けにしたから、不登校になってるんですよ。関係ないって? 例えば俺があんたの息子が持つマンガを取り上げてビリビリに破いてジュースをぶっかけたとしたら、おふざけとして許せるんですかね?」

 言葉に詰まる光田。

「ほら許せないでしょ。うちの息子に何するんだーって思いません?」

 無言の光田。

「俺がただのおふざけですって言ったら、あんたはなんて言うんですか?」

「それは」

「おふざけにしてはやり過ぎだ!ってね。多分息子泣くし、どうせあんたはブチギレるでしょ? そういうことですよ」

「いや。なんか、ヒートアップしてるけど、中学時代って結構過激な遊びとかあったんだよ。オレが子供の頃は緩かったというか」

「クラスメートさんは遊びだと思ってないですよ。子育てしてるなら分かるでしょ? 家の壁に落書きしてる息子さん見て、楽しく遊んでるなって穏やかな気持ちになれるんですか? 普通叱るでしょ」

「いや、それは当然というか小さい子相手なんだから」

 奏介は鼻を鳴らす。

「単純に、わざとジュースを零してる中学生はここが悪いです」

 奏介はトントンと自分の頭を指に叩く。

「っ……!」

「正直、あんたの子供。他人の持ち物にわざとジュースを零して消えろとか言い出す、いじめをするヤバイ奴になると思うので、奥さんに任せてしっかり資金援助する方が良いんじゃないですかね? いじめっ子が増えると結果的に病んで不登校とか自殺率も上がるし、社会的に迷惑です。反省もしてないみたいだし、そのクラスメートの目能さんにも謝ってないんでしょ。そんな輩が子育てとか」

 馬鹿にしたように笑う。

「滑稽なお話ですね」

「お、お前……! いきなり大人に向かって、失礼な!!」

「失礼? 目能さんのマンガ破り捨てて自殺させたのに? 大人じゃないでしょ。マジで犯罪者ですよ。ちなみに、マンガ破り捨てた後にそのまま学校から飛び出したんだから、あんたのせいで途中で帰ったんでしょ。それを関係ないって。消えた方が良いのはあんたの方でしょ。あーあ、あんたの息子の未来のクラスメートが心配ですよ。今はあんなに素直そうなのに」

「ぐっ……」

「てか、どうせお仕事場でもしてるんでしょ? 同僚のデスクの書類にジュース零したりね? 普通に迷惑行為なのでそういうこと止めてくださいね」

「そんなこと! してるわけないだろ!?」

「説得力皆無ですね。中学生の時にやってたんだから、どうせやってるでしょ。」

「…………っ」

 光田は奏介を一睨みすると、無言で息子の手を引いて、逃げて行った。

 奏介は冷めた目でそれを見届け、スマホを取り出す。いつもの掲示板へ。

(目能一貴さん、だっけ。人探し……)

 人探し掲示板に書き込むと匿名6のレスがつき、スマホのメッセージの通知音が鳴った。



 数日後、とある休日のこと。

 光田は失礼な高校生のことなど頭の隅に追いやって、息子と2人、出かけていた。いつものショッピングモールで本屋とおもちゃ屋に寄り、フードコートで食事をし辺りが暗くなった頃に帰路に着く。

妻にこれから帰るとメッセージを送ると。

『今日はカレーよ。気をつけてね』

 そう返ってきた。

 ショッピングモールを後にして、自宅近くの細い路地に入ったところだった。

「パパ、近道しよ!」

 息子に、さらに細い裏路地に誘われた。

「まったく仕方ないな」

 秘密基地、秘密の通り道など、あまり人が来ない場所を好む息子、少し心配になる。まさに男の子という感じだ。

 路地に入ったところで前からスーツの男が歩いてくるのが見えた。何故かサングラスをしているが、非常に顔が整っていることは分かる。いわゆるイケメン。

「よう、久々だな」

「……え?」

 スーツの男が足を止めた。つられて、光田も立ち止まる。

「おれだよ。クラスメートだった目能一貴」

「!?」

 ドキリとした。記憶の中の彼と目の前の男の姿が繋がらない。

(こ、こんなにイケメンだったか?)

 スタイルも良く、サイドポケットに手を突っ込んでいる姿が様になっている。

「へぇ、ガキができたのか?」

 20年近く会っていないのだ、印象が変わってもおかしくはないが。

「パパ、あの人誰……?」

 しがみついてくる息子の肩を抱く。

「お前に才能がないって言われて、マンガを描くのは諦めたんだ。それと、消えようと思って飛び降りたんだけどな。一命を取り止めちまって。悪かったな、今も生きてて」

 ゾクリとした。言葉の一つ一つに恨みが籠もっていて、異様な雰囲気に気圧される。

「いや、その……あの時は」

 サングラスの奥の目線が息子に向く。

「しかし、お前の息子、首を捻れば、一発でくたばりそうだ」

「!?」

 男はニヤリと笑う。

「腹を蹴り上げれば泣き叫びそうだしなぁ? おれに、やってたみたいに」

 鳥肌が立った。自分ではなく息子が狙われている?

「ま、待て! は、犯罪だぞ」

「犯罪? おれには何も残ってねぇ。高校も辞めて中卒だし、夢だったマンガも諦めた。この世から消えろとまで言われたからな。殺人犯になっても構わない。お前の顔が絶望に歪むなら、おれは何でもやるぜ? お前の息子、いつか絶対にぶっ◯してやるよ」

「た、頼む! 息子には手を出さな」

 男が近くにあったゴミペールを蹴り上げた。ものすごい音がして、ペールに穴があく。

「あん? それはなんだ。お願いか?」

「ひっ」

 怖い。恐怖。自分の身もだが、息子への殺意が半端ではない。

「ま、待ってくれ。息子は関係ないだろ!?」

「関係ない? お前がおれにした仕打ちの責任は……てめえのガキが償うべきだろ」

 血の気が引く。理不尽だ。

「やめ……やめてくれっ、息子は関係ないっ! おれが……おれが悪かった! 頼むから、頼むから息子のことは」

 光田は必死でその場に土下座した。恨まれているのは自分なのに、こんなに幼い息子に殺意を向けられるなんて。

「へえ、謝罪出来るんだな。なら考えといてやるよ。……ここからさっさと消えろ」

 光田ははっとして男を見、息子を抱えて、そのまま一目散に駆け出した。祈るような気持ちだった。



 情けなく逃げていく光田の背に、男…もとい匿名6はサングラスを外した。

「さすがにガキは大事か」

 と、隠れていた奏介が出てきた。

「すみません、ありがとうございました」

「おう。これで良かったか?」

「はい。ありがとうございました」

 奏介は穴の空いたゴミペールを持ち上げた。

「……それ、もしかして私物か?」

「ホームセンターで798円ですね」

 匿名6の演技に合わせて用意した。他人の私物を蹴るわけにも行かないだろうと。

「へぇ。さすがだな」

「いや、匿名6さん。変装しなくて良かったんですか?」

「顔隠してただろ」

 サングラスをくるくると回す。器用だ。

 先日接触した目能一貴の現在の写真を送ったのだが、いつものスタイルで堂々と対応している姿はいっそ清々しい。

「協力、ありがとうございました。すみません、嫌なセリフばかり言わせてしまって」

「おれは自分の主義に反することはやらねぇぜ? お前の目的と合致したってだけだ」

 何にしてもありがたい。と、電話がかかってきた。

 スピーカーにしてテレビ通話を繋ぐ。

『お疲れ様です』

 そこには、ボサボサ頭でメガネをかけた三十代の男性がいた。現在の、目能一貴だ。

「目能さん、見てましたか」

 別のスマホでプライベートなライブ配信を繋いでいたので、匿名6と光田のやり取りはばっちり見ていたはずである。

『……見てました。なんかその、ありがとう。モヤモヤしてたものが、スッキリしたよ』

 満面の笑みだった。

 奏介と匿名6は視線を交わす。

「良かったです。前へ進めそうですか?」

『ああ、これで心置きなく初連載を始められる』

 目能一貴は生きていた。自殺未遂の末、一命を取り留め、通信制の高校に通った後、漫画家を目指していたのだそうだ。

 現在は光田の息子が好きだと言っていた漫画の作家の元でアシスタントをしながら、デビュー作を描いているらしい。

 来月に雑誌連載デビュー予定なのだそうだ。

 あの時の光田の言葉に長年苦しめられてきたと語った目能一貴のため、奏介は匿名6の力を借りて、細やかな仕返しをした。なんてことはない。ただ、口で脅すだけ。もちろん、それも犯罪に入るが、今は置いておいて。

「どうでした? ちょっとした仕返し」

『うん。悪くない気分だ。あいつのあんな顔を見られるとは思わなかったよ。はは』

「もうこれで忘れて、漫画頑張って下さいね」

『……ありがとう。……あの、6さんでしたっけ。もしかすると、仕返しの仕返しが』

「その時はあんたの代わりに返り討ちにしておいてやるから心配いらねぇぜ?」

『……! はい』

 深々と頭を下げる彼、そして、奏介と匿名6は通話が切れるのを見送った。

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