察して女子に反抗してみた1
今回、更新期間が空いてしまってすみませんでした!
とあるショッピングモールの入り口。
富岡操は少しドキドキしながら人を待っていた。それはつい2カ月ほど前にお付き合いをすることになった一つ年上の女の子。
と、近くを通り過ぎていく高校生達の会話が耳に入った。
「あ〜疲れたぁ。体育だるい〜」
「あ、ここのタピオカミルクティーのお店、あみあみとのコラボしてるんだよね」
「え!? 知らなかった。ドリンクにグッズがついてくる系?」
「そうそう、ドリンク一つでオリジナルグッズプレゼントみたいな」
「行こう」
「急に元気になんないでよー」
操と同じ、桃華学園の生徒だろう。やはり、制服を着替えてきて正解だった。
(知り合いがいるかも知れないけど)
ほっとすると同時に、ニヤニヤがとまらない。
あみあみこと、名坂アミカは高校生モデルとして活躍するいわば芸能人だ。テレビにも出るし、動画サイトのチャンネル登録者数も100万人をこえている。
(はぁ、信じられない)
何を隠そう、操の彼女こそがその名坂アミカなのだ。ダメ元での告白、まさか受けてもらえるとは思わなかった。
「お待たせー」
何やらつまらなそうに歩いてくる帽子にメガネの女の子に気づく。ほとんどすっぴんで表情も明るくないが、いわゆるオフのアミカだ。
「お疲れさま、仕事大変だった?」
「大変じゃない仕事なんてないっつーの。分かるでしょ、そんなん」
「あ、うん。ごめん」
雑談と定番の声かけ対応だったが、気に触ったらしい。ドキドキしていた気持ちが少し沈む。
(はぁ、なんだか)
会っていない時は笑顔のアミカを見ているせいかときめくのだが、こうして会うと疲れからなのか不機嫌なことが多く。なんでもない会話にも噛みつかれてしまう。
「それで、行きたいの、パスタ屋さんだったよね?」
「そう。ここの1階の……げっ、もしかしてフードコートに入ってる?」
「え?」
操は少し慌てて、入り口の店舗一覧に目を通す。彼女の言う行きたい『パスティ』というパスタの店は様々な飲食店が並ぶフードコートの一角にあるらしい。
「……ああ、うん。そうみたいだね」
フードコートは基本的に注文して代金を払ってから、共有のスペースで飲食する。カフェやレストランと違って手軽な印象が強いだろうが。
アミカは額に手を当て、大きくため息をつく。
「嘘でしょ……。騒がしいのとか人多いの無理なんだけど」
「え、えーと。じゃあ場所変える? どこかいい感じのところを探して」
「はぁ? これからお店探すとかあり得ないし。口コミ良いし、ここで良いでしょ」
「そ、そう」
発言の内容からして、フードコートの店は嫌だと言っているように聞こえたので提案したのだが。
そんな気まずいやり取りをしながら、フードコートへ。かなり混んでいて、席を確保するにもかなり苦労した。それでも比較的広めのテーブル席に着けたのでホッとした。後は操自身が買ってくれば良いのだから。
「うるさ。人多。てかさ、これくらい操君が気づいてよ。『パスティ』のこと調べなかったわけ?」
「ご、ごめん。アミちゃんが行きたいって言ったからそこで良いかなって」
「フードコート苦手なことくらい分かるでしょ?」
「え、いや、初めて聞いたんだけど」
「だから、それくらい分かるでしょ?ってこと。話聞いてる?」
「ご、ごめん」
お隣の桃華学園の高校生グループが険悪な雰囲気に気づいたのかジロジロ見てくる。大声ではないにしろ、こんな不機嫌全開で喋られたらさぞ気分が悪いだろう。
アミカはスマホを触り始めた。操はどうにか明るく言う。
「じゃあ、買ってくるね。何にする? 飲み物とセットがあるみたいだから」
「人気みたいだからカニクリームパスタ。後は、カフェラテ」
「分かった」
アミカから離れると、心がすっと軽くなる。
(……なんか、しんどい)
画面を通して見る彼女はあんなにも魅力的なのに。
これが芸能人のギャップというやつなのかも知れない。
『パスティ』にて、彼女の注文と合わせて操はナポリタンスパゲティとジンジャエールにした。
(あ、そうだ)
操は、もう一つ注文を追加して受け取り、席へと戻った。
「お待たせ」
「うん。ありがと」
トレーを彼女の前に置く。
「……操くん、あたしカフェラテのアイスが良かったんだけど」
「え! あ、そうなの? ごめん、買いなおして来るよ」
「いや、時間かかるから良いし。……てか、あたし、ホットカフェラテ飲んでたことないっしょ? 考えれば分かるじゃん」
「……」
操は思う。
(これって僕が悪いことになるんだ)
カフェラテとしか言われなかったし、アイスもホットもつけていなければホットにすると思うのだが。
(聞かなかった僕もあれだけど、そっちも言わなかったよね?)
ため息を吐きたいのを我慢しつつ、
「ほんとにごめんね」
「その察しの悪さ、操くんの悪いところだよね」
(察するってなんだよ)
「あ、そうだ。アミちゃん、プリン好きだったよね? デザートでオススメされてたから」
最後に注文した『パスティ特製プリン』を彼女のトレーに載せる。
「え、普通にいらない。甘い物食べたい気分じゃないし。パスタ食べたいだけって言ってなかった?」
操は笑顔で固まってしまう。
「……えーと、そっかぁ。分かった。余計なことしてごめんね。僕が食べるよ」
震える手で彼女のトレーからプリンを戻す。
「ねぇ、フォークないんだけど」
「あ、忘れてた。取ってくるね」
フォークをもらって、戻ってみれば。
「あたし、スプーンも使う派なんだけど」
「そうだったんだ、聞いてなかったから」
「いや、だからそれくらい分かるっしょ。察してよ」
(うーん、この)
笑顔を貼り付けたまま操は次の言葉を悩んでいた。それはそれとして、とりあえずスプーンを取りに行く。
(なんで一々不機嫌になるんだろ)
『スプーンも使いたいから、お願い!』といえば済む話だろうに。
「はい、スプーン」
「ん。ありがと」
「ちょっと僕、トイレ行ってくるね。先食べてて」
彼女の正面に座るのが嫌になり、少し離れることにした。
「はぁ」
世の中上手く出来ている。冴えなくてまったくモテない地味男子の自分がキラキラしたモデルの女の子と付き合えるなんて虫が良すぎたのだ。
少し頭を冷やしてからトイレを出て戻る。
と、テーブルに近づくとアミカは電話をしているようだった。
「そうそう、うちの彼氏くん、本当に気が利かなくてさぁ。デザート食べないって言ったのに勝手に買ってきて、パスタ頼んでもフォークとスプーン忘れたりすんの。察しが悪くて〜。もう疲れちゃう」
「……」
操はうつむいたまま、アミカの前に座る。彼女も気づいて、電話相手に切ると伝えたようだ。
「トイレ長くない? 体調悪いなら帰る?」
心配など欠片もしていないのだろう。どうやら彼女もこのデートが嫌で堪らないようだ。
「そうだね。帰ろっかな。あとアミちゃん。悪いんだけど、その前にちょっとだけ話さない? すぐ終わるから食べ終わったら」
人目のない静かなところで、別れ話をしよう。そう思ったのだが。
「あたし達、別れよっか?」
「……え?」
「なんか、あたしと一緒にいてもつまらなさそうだし、いっつも不機嫌だし、なんかしんどいんだよね」
「!? え、いや、ちょっと待ってよっ」
思わず少し大きな声を出してしまった。
「ちょっと勘弁してよ。とにかく、これで終わりね。あんまり、そういう態度だと女の子にモテないと思う」
周囲からひそひそ。
「別れ話かな」
「振られて騒いでるの?」
クスクスと笑い声も聞こえる。
「いやいや、それ全部君のことだよね。僕、不機嫌なことなんて一度もなかったと思うけど!?」
「はぁ? しつこいんだけど。怖」
「ちょっ」
思わず手元のジュースに手が当たってしまい、倒してしまった。すると隣の席の男子高校生のカバンに少しかかってしまった。
「あ、すみませんっ」
「いや、大丈夫だよ」
男子高校生は顔色1つ変えずに言う。
「何やってんの? はぁ、もう。とにかくもう付きまとわないでね」
「つきまとう!? 僕、そんなことしてないよね!? 悪いけど、性格ブスはこっちから願い下げだよ!」
思わず言ってしまうと、
「このストーカー男っ!」
飲みかけの紙カップを投げてきた。
「!」
怒りで震えて、なのか軌道がぶれて、隣の男子高校生に直撃。液体が少し飛び散った。その場がシンとなる。
「帰る。とにかく、二度と連絡してこないで」
何事もなかったように言う彼女が信じられない。人に物をぶつけておいて、だ。操も怒った彼女に投げつけられたことがあるが、それは彼氏として我慢したからであって。
立ち上がろうとした彼女に声をかけたのは意外にも被害にあった男子高校生だった。笑顔でカップを持っている。
「あのー、女性にこういうことを言うのは失礼だと思うのですが、あまりにも辛いなら病院に行くことをオススメしますよ。きっと症状が軽くなると思います。更年期のイライラ」
その場の空気が凍ったのが分かった。アミカの表情も引きつって固まる。
更年期、ホルモンバランスが不安定になる中年の女性に多く起こる症状だ。さすがに10代のアミカにはないと思う。彼の顔を見ると、冷たい目をしていた。
(あ……)
恐らく、本気で言っているわけではない。煽りだ。
「な、何を言ってんの? 更年期? ふざけないでよ!?」
アミカがヒステリックに声を出す。
すると、一緒にいた女子高生達が慌てて声をかけてくる。
「ちょっと菅谷、失礼でしょ!」
「そうですよ、菅谷君。デリケートな問題です」
ギャルっぽい女子と、見知った顔だった。
(風紀委員長の……東坂さん?)
そして東坂委員長の隣には知り合いがいる。
「田野井くん!?」
手を振ってくる。クラスメートだ。恐らく、風紀委員のメンバーだろう。相談を受けてくれると最近は評判だが。
「てか、更年期じゃなくてただの生理でしょ。いるのよね、イライラが抑えられないヒト」
風紀委員、橋間わかばが肩をすくめる。東坂委員長は苦笑を浮かべる。
「橋間さんも、直球過ぎますよ。更年期も生理前の症状もここまで酷い人はいません」
委員長が嗜めたと思ったのも束の間、普通に遠回しな煽りだった。
「菅谷、この人は例外だ。世の女性に失礼だぞ」
田野井も煽りを上乗せしていく。
「あー、そうですよね。こんな酷すぎる症状見たことないですし」
ショックから回復したアミカが睨みつける。
「普通にセクハラなんだけど? そういうこと言って良いと思ってんの?」
「言っていいかどうかの前に、1つ聞きたいんですけど、なんでこの飲みかけの紙カップを俺にぶつけたんですか?」
風紀委員の相談窓口としてそこそこ有名になってきた菅谷奏介が冷静すぎる声で問う。
「あんたが悪いんでしょ」
「いや、悪くないでしょ。なんにもしてないです」
「セクハラ発言を」
「いきなりカップをぶつけられたから更年期の症状かなって思ったんです。ていうか、あなた誰でしたっけ? いきなりカップ投げつけてきてブチ切れて。俺はあんたの彼氏でもなんでもない他人だろ。まずは俺に謝罪しろよ」
低い声、鋭い視線。アミカは一瞬ビクッとなった。操にとって初めてみる表情だ。常にこちらに対して不機嫌で、馬鹿にしたような態度の彼女が、怯えたような雰囲気をだしていた。
東坂委員長&田野井先輩の初登場は44話〜45話になってます。
次々に女湯ヤンキーのおまけエピソード更新します!




