女湯を覗こうとするヤンキーに反抗してみた4
黒木はその鮮やかなピンクに思考が停止した。
「ひっ!」
黒木母が悲鳴を上げる。ジェンダーレス関連に耐性がないと引く人もいるだろう。
「て、てめぇ! 仕込んでんな!?」
黒木はそこでようやく、奏介が悪意を持って証拠捏造していることに気づいた。
「まぁ、別に女性もの着けちゃいけないなんて法律はないから、お前の勝手だけど、男性用のブラじゃない時点で不快に思う人も多いと思う。お前らの保護者のご両親とか、な」
保護者組、全員、顔面蒼白だ。
そして、ヤンキー組も冷や汗をかいているよう。
「っ……、へ、変態はお前じゃね? 人の脱いだ服に手を突っ込んで下着を出すとかさ! それ、やって良いわけ?」
苦し紛れか、三瓶田が叫ぶ。
「はぁ? 業務妨害と器物破損、覗きは迷惑行為防止条例違反。それやってる野郎共に人権ねぇだろ。何を偉そうに人の行動に文句言ってんだよ、変態。そういや、行部さんの奥さんにも水ぶっかけてたっけ? それ、心が女ならやっても良いのか? 女性を馬鹿にするのも大概にした方が良いと思うけど。あと、ババアとか叫んでたよな? 変態オカマ野郎の分際でよく言えたよな、このクズが」
「さっきからオカマ、オカマうるせえんだよ!」
黒木が思いっきり叫ぶと、浴場に反響して響いた。気づけば、脱衣場に何人か客が戻ってきていて、こちらの様子を伺っているようだ。スマホを構えている人もいるので野次馬だろうか。
「ねちねちと揚げ足とって煽ってきやがって、調子に乗ってんじゃねえぞ」
鼻息荒く歩み寄ってきた黒木が奏介の胸ぐらに手を伸ばし、引き寄せる。
「っ!」
首が締まって、奏介は顔をしかめた。
「うぜえからさ、ここで殺してやんよ。謝るなら、今のうちだぜ? わかってるよな?」
手に力を入れると、いっそう首が締まる。
「や、やめて! 馨」
黒木母の悲鳴のような制止の声も届かないようだ。
顔を歪めながらも奏介は笑う。
「やってみろよ。できるならな」
その時、小さなエンジン音がして、女湯の方から何か黒いものが飛んできた。
「!?」
「な、なんだ!?」
友近と三瓶田が目を見開く。
それは丸いプロペラが付いた飛行する機械。
「なっ、なっ……」
それはどう見てもドローンだった。
「証拠として撮影してやるから、やってみろ。俺を、殺すんだろ?」
「っ!!」
黒木の表情が悔しそうに歪む。高いところを飛んでいるカメラ付きのドローンには直接触れないので、怒りの持って行き所がない様子。
「てめえ、覚えてろよ。ぜってえ許さないからな! おい、行くぞっ」
撮られているところで暴力を振るうのは、さすがに躊躇われたのだろう。
「ま、待ちなさい、馨」
「ちょっと牧人」
「こら、和久!」
服を持って逃げるヤンキー3人組、追いかける保護者達。浴場はあっという間に静まり返った。
(復讐する元気があれば、やってみろよ)
静かにドローンが床に着地。
スマホで、操縦者にメッセージを送りつつ、ネットの匿名掲示板を開いた。
●
銭湯から逃げ出した黒木達は保護者達を撒いた後、村の商店街を歩いていた。八百屋や精肉店、鮮魚店、食品スーパーなど、閉鎖的な村だが、買い物には困らないのだ。
「なんなんだ。あいつは!」
「ムカつきすぎて、やばいわ」
「イキリオタクほどムカつくものないな……」
とにかく怒りが収まらない。カメラ付きのドローンまで用意して突っかかってくるとは思わなかった。
「ん?」
前方の本屋の店先に、見知った顔がいた。同じクラスで、気弱なボッチ男子。時々からかって(かつあげあり)遊んでいる。
3人はにやっと笑って、彼に近づく。
「よー、海里君じゃん。奇遇だな」
「何してんのー?」
いつものようにニヤニヤしながら絡んでいく。
「!」
海里は一瞬表情を歪めたものの、
「……ぷっ、女の子用の下着付けてるんでしょ? きも」
彼は嘲笑を浮かべると、ささっと逃げていってしまった。
からかうと面白いオモチャ扱いのクラスメートに言われ、固まってしまう。
(なんで、そんなこと)
今しがたの出来事を見られていたのだろうか。自分の情報をまったくの他人が知っているなんて。
気味が悪かった。この時まだ周囲の白い視線に気づいていなかった。




