何を考えているか分からない同級生に反抗してみた8
その日。
間尻トモナは、県警本部の通路を歩いていた。轟署長からの着信を無視しつつ、速足で向かうのはサイバー対策課課長の部屋だ。つまり直属の上司である。
「失礼します」
アポイントメントは取っているので、入室してすぐに課長はこちらへ視線を向けた。
「それで、大事な話というのは?」
トモナは息を飲みこんだ。心臓の音が頭の中で響いて、ガンガンする。意識が遠くなりそうだが、ぐっと堪える。
「あの、実は私は」
罪を告白することがこんなに労力がいるとは思わなかった。
「顔色が悪いが……大丈夫かね?」
冷汗が酷い。
「はい、実は」
●
トモナが課長と話した翌日、轟篤信は警察上層部から自宅謹慎を命じられた。何が何だか分からないまま、連絡があるまで待機命令が出ている。
篤信は家の奥にある書斎に籠もって、考え事をしていた。
「なんだ。何が、起きてるんだ」
心臓の鼓動がうるさい。冷や汗が止まらない。
例の掲示板の情報開示請求はしたが、まだ通知は来ていない。情報開示請求が認められればこちらのものだが、わりと時間がかかるようなのだ。
(頼む、早く、来てくれ)
確実に良くないことが起きている。焦燥感だけが大きくなっていく。
●
数日後、奏介はテレビに冷たい視線を向けていた。
「期待を裏切らないクズだな」
流れているのは夕方のニュースだ。
『警察署長を務めていた五十代の警視が書類改ざん、不正行為を頻繁に行っていたとして、事情を聞き、調査を進めているとのことです』
ニュースの内容を簡潔に記すなら、警察署長が捜査報告書の改ざんや職員を脅して不正行為を強要していた、というもの。
『捜査報告書などの改ざんも頻繁に行っていたとして、余罪を調べています』
保身のため、しっかりと内部告発して全ての罪を署長に擦り付けたようだ。予想通りである。
(さて、息子の方はどう動くか。様子見だな)
そうは思いつつも、受けには回るつもりはない。
奏介はスマホを取り出した。操作をし電話を掛ける。
「あ、針ヶ谷か? この前言ってた不良達のことなんだけど」
毛塚亜麻人からの情報提供。ちらっと聞いた時に真崎が知っていると言っていたのだ。
〇
数日後。トモナは自宅謹慎を命じられていた。轟署長を告発したものの、トモナがやったことは罪に問われるだろう。それでも、周りの態度は同情と呆れが混じったものだった。
「ふー……」
上手くいけば、完全に被害者になれるかもしれない。もしそうしたら、職場復帰も夢ではない。
(うん……わたしは悪くない。やらされてたんだから)
と、スマホの着信が。
「……!」
どきりとする。職場の固定電話からだ。ごくりと息を飲みこんで通話ボタンを押す。
「も、もしもし」
『どうも、菅谷です』
「え!?」
『ちょっと用事があったので、かけさせてもらったんですよ』
何故か鳥肌が立った。
「あ、あの、私」
『本当にクズですね』
「え」
『自分の罪を全て署長に擦り付けて、ワンチャン今までの生活を続けられればとか思ってるんでしょ? 卑怯なことしますよね、ほんと』
ぶわっと怒りが込み上げた。
「あ、あなたがやれって言ったんじゃない!? なんなの、その言い方!」
『逆ギレすんな。調子に乗るなっつってんだよ。犯罪を見逃してやってるんだからな。二度とやるなよ、いい大人がっ』
そのままガチャ切りされた。
「……犯罪……」
ふと気づいた。理不尽でもなんでもない。犯罪を、していたのだ。