学歴を比べて馬鹿にする社会人に反抗してみた1
以下の上嶺議員などの話しが出てきます!
同窓会メンバー3人に精神的ダメージを与えるために反抗してみたシリーズ。(特に11からの内容です。)
数日後、日曜日。
とある大きな駅にて。人混みの中改札のそばで、キャスターバッグを引く洋輔と向かい合った。
「じゃあ、気を付けて」
「ああ、こんなところまで見送りに来させて悪かったな」
「友達と約束があるんだ。ついでで悪いけど」
「ほう? ちらっと言ってた子達か? 詩音ちゃんも?」
「そうそう。……俺、デッドボールで相手にダメージ入れたりするんだけど、普通に怒られるんだよね」
洋輔は腕を組んで、何度か頷く。
「無茶してるようだからな。もう少し、上手く出来るはずだ」
「まあ、そうなんだろうけど、ね」
と、その時。
「あれ、菅谷くーん」
手を振りながら近づいてくるのはヒナ、わかばだった。
「菅谷?」
わかばが不思議そうに洋輔を見る。それから奏介へ視線を移す。
「ま、まさか」
「なんだよ、まさかって」
トラブルだと思われているようだ。
「菅谷くん、こちらの人は?」
「ああ、うちの父さん。海外で仕事してるんだ。父さん、こっちは学校の友達の僧院さんと橋間さん」
「そうか。いつも奏介がお世話になってるようで」
にっこりと笑うと、ヒナが目を輝かせた。
「え、菅谷くんのお父様!?」
「! は、初めまして。橋間です」
「僧院です。菅谷くんにはこちらこそ色々とお世話になってます」
わかばは緊張した様子で、ヒナは少し興奮気味に。
「はは、元気なお嬢さん達だな。そういえばこの前の件で協力してくれたのは君らかい?」
ヒナとわかばは顔を見合わせた。
「もしかして、上嶺とかいう議員の息子の……件ですか?」
ヒナが恐る恐る聞いてくる。
「ああ、私も上嶺議員の策を潰すのに手間取ってしまってね。結果、奏介にケガをさせるはめになってしまった。君らのおかげで、こいつの無茶を止められたみたいでよかったよ」
「えっと確か、あの時って圧力がかかって、上嶺議員の報道がされなくなったってヒナ言ってたわよね?」
「う、うん。でもその後、パーティ主催って言われてた交野議員のアリバイが証明されて、菅谷くんへの暴行? と併せて報道されてたけど」
洋輔は奏介の頭に手を置いた。
「一応言っておくと、奏介がわざわざケガをしなくても、交野議員のアリバイと上嶺議員の裏工作の証拠は掴んでいたから、あの程度の圧はすぐにひっくり返せたんだ」
「お、大人の余裕……!」
「あんた、見習いなさいよ。体張らずに」
「うるさいな。直接ダメージが入らないだろ」
洋輔はうんうんと頷いて、
「年の功は馬鹿にできないものだぞ?」
ヒナが奏介をじっと見る。
「菅谷くん」
「ん?」
「ボク、君に弟子入りして極めたら、是非君のお父様の技も学びたいと思っている」
「うん、とりあえず弟子入りは考えさせて」
ふと視線を感じ、奏介は振り返った。
「ん?」
少し離れたところで、モモが立っていた。こちらの様子を観察しているようだ。
「須貝?」
声をかけられて恥ずかしそうに、歩み寄ってくる。
「……あの、須貝と言います。菅谷君にはいつもお世話になってます」
どうやら、話を聞いていたらしい。
「あ、ああ。こちらこそ。仲良くしてくれてありがとう」
そっと、モモに耳打ちされる。
「最初はあんまり似てないって思ったけど、凄くそっくり」
「そ、そうか?」
モモは嬉しそうに頷いた。
そこで、詩音、水果、真崎が到着した。
「あれ? 洋輔おじさん今帰り?」
詩音が首を傾げる。
「ああ、すぐにアメリカへ戻るつもりなんだ」
「どもっす」
真崎が軽い感じで頭を下げる。
「おお、針ヶ谷君か。でかくなったな!」
「体ばっかりっすけどね」
真崎、苦笑い。家に遊びに来た時に何度か遭遇しているので、名前を憶えているようだ。
と、水果が奏介の隣に立った。
「噂の菅谷家の大黒柱かい? 詩音から聞いてるよ。菅谷五人分だってね」
「いや、何それ」
最後に水果も自己紹介をして、いつものメンバーがそろった。
「随分と友達が増えたんだな」
ここに集まったメンバーを見て洋輔が一言。それから、
「じゃあ、皆。うちの奏介をよろしく頼むよ」
そう言って、駅の改札を抜けて行ってしまった。また何十日も会えないのに軽い感じに笑ってしまう。
(アメリカ、かぁ)
何度考えても遠い国だ。
菅谷洋輔を見送ってから移動することにした。
「ボクさあ、ボウリングって初めてやるんだよね」
「え、嘘でしょ? やったことないの?」
ヒナの発言に驚くわかばだが、
「でもでも、モモもないって言ってたよね?」
その振りにモモは頷いて、
「ルールもちょっとよくわからないけど……投げてピンを倒すのよね」
詩音が笑う。
「そうそう、めっちゃシンプルだから大丈夫だよ!」
「わたしは十年以上やってないね。針ヶ谷はどうだい?」
水果の質問に真崎は奏介と目線を合わせた。
「菅谷と時々行くよな?」
「ああ。それでもかなり久しぶりだよね」
今日はボウリング場に遊びに行く予定だ。
〇
そこは大きな駅に併設されたアミューズメントパークの一つであり、この辺りでは一番大きなボウリング場だろうか。
こうした施設が減って来ているらしい。
受付カウンターで手続きをして、靴を選んで、ボールを選んで、一番端っこのレーンでのプレイになったのだが。
「!」
自分達のレーンについたところで、奏介は隣でボウリングを楽しんでいた社会人らしきグループの一人と運悪くぶつかってしまった。
「あ、すみません」
どうにかボールは落とさずに済んだが、相手の男性は盛大にボールを床に落としてしまっていた。
「あ……」
慌ててボールを拾う彼。
「ご、ごめんね。君、ケガは?」
優し気な若い男性だった。
「大丈夫です。こちらこそすみませんでした」
奏介が頭を下げると、男性は微笑んだ。
「気にしないで」
そんなやり取りをしていた時である。
「おおい、高卒~。見浪くーん。早くしろよ。もたもたしちゃってさぁ」
彼の連れは三人。同い年の男性のようだ。
「わ、悪い。じゃあ、さっそく」
彼、見浪と呼ばれた彼はふうっと息を吐いて、ボールを両手で持ち、片手を引いて、投げようとした、その時。
「わっ!!」
耳元で連れの男性が大声をだした。そのはずみでボールを落としてしまう。
「うあっ」
その様子に連れの男性達がぎゃははと笑う。
「言っとくけど、一番低い点数が奢りだかんな?」
「ちょっと、今のは」
見浪はさすがに抗議しようとしたが、三対一では分が悪いのだろう。反論をあきらめてしまった。
「な、なんか嫌な感じだね」
詩音が小声で呟き、メンバー達も頷きあっていた。
気を取り直して、プレイ開始。ますは奏介と真崎がお手本を見せ、経験者から順番を回すことに。
丁度、三週ほどしたところで奏介の出番になった。
ボールを構えて、投げようとしたその時。
「わっ!!」
耳元で叫ばれ、奏介はビクッとなって振り返った。
「ぎゃはは、間抜けな顔すぎんだろ!」
指をさして笑ってくる隣の社会人男である。顔が真っ赤なので、恐らくアルコールが入っているのだろう。
「……あの、どちら様かは知りませんが、やめて頂けませんか」
「んだと? ガキ?」
睨まれる。理不尽の極みだ。
「おい、他の人に迷惑かけるのは」
見浪が慌てた様子で仲裁に入ってくれる。
「というか、子供に絡むなよ。酒もそんなに飲んだら」
「うっせーんだよ! 高卒の低学歴が。わかってんの? 本当なら、お前なんて社会のゴミなんだよ。大学行ってない低脳が偉そうに説教するなっての」
「そんなこと、関係な」
「あるだろ。高卒の夜勤工場勤務と俺ら大卒自動車メーカー勤め、どっちが優秀かわかるじゃん? てか、仲間意識? 高卒候補かばっちゃってさ。なあ? キモオタ君」
いつものメンバー達が一斉に視線をそらしたのがわかった。
「え、大卒? 絶対義務教育終わってないでしょ。幼稚園卒業の間違いですかね?」