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娘の軽い擦り傷で救急車を呼ぶ父親に反抗してみた2

「随分と失礼なガキだな。大人を馬鹿にして。不良か? 警察呼んでやろうか」

 強気な態度である。自分のしたことを一切悪いと思っていないところが逆に凄い。

「警察呼ぶ前に、娘さんの怪我のこと心配しましょうよ。失礼とか大人を馬鹿にしてとか言う前に、俺の話聞いてました?」

 ヒナがやれやれと首を振った。

「聞いてなかったぽいから、ボクが簡単に説明しましょう。早く自分で病院へ連れてけってことですね」

「何を言ってるんだ。誰でも知っている番号にかけるとすぐに来るんだから。病人怪我人を運ぶためにある救急車を何故使ってはいけないんだ」

「ボクが思うに、娘さんが、自分で立ててるからですかね?」

 ヒナが父親にしがみついている娘を見る。

「怪我をして、立てたり歩けたりすれば呼ぶなと? 外見ではわからない怪我をしていたらどうする。すぐに病院へ連れていかないと、手遅れになるかもしれないだろう。それをお前らに判断できるのか?」

「傷が小さいですし、大量出血してるわけでもないので俺だったら様子見しますかね。交通事故で頭から血を流してる人がいるとしたら、救急車はそっちに行ってもらいたいじゃないですか」

「そうそう心臓発作で苦しみ始めた人と娘さんの擦り傷だったら、前者の方が救急車は必要でしょ」

「……! なんだ、それは。こっちは怪我をしてるのに、他人のことを考えろとでも言うのか? 娘を犠牲にしろと!?」

 奏介は首を傾げた。

「うーん、そうじゃなくてですね。……あ、救急隊員さん。ちょっとお聞きしたいんですが」

 黙って聞いていた隊員達がはっとした様子で奏介を見る。

「あ、ああ」

 この父親に脅しのような絡み方をされているので、戻るに戻れないのはさすがに可哀想だ。

「救急で運ばれた人って、手術や入院になること、多いですよね?」

「そう、だね。命に関わることが多いから」

 奏介は父親へ視線を向けた。

「あなたの娘さん、その怪我で手術や入院が必要になるんですかね?」

「う……」

 ヒナは腕を組んだ。

「普通に絆創膏貼って終わりそう。看護師さんとお医者さんに微妙な顔されそう。ちょっと恥ずかしいかも。親としては」

「う、うるさい! バカにしやがって。おい、お前ら。苦情を入れてやるからな! 覚えておけよ」

 救急隊員達を指でさし、娘を連れて去って行った。

 隊員達は肩を落とす。

「先輩、最近多くないですか? あの手の」

「この前は突き指だったしな。ああいう人種は話が通じない。ああ、君達。反論してくれるのはありがたいが、目をつけられたら大変だよ。気をつけてね」

 忠告してくれたものの、やや嬉しそうだ。そしてもう一人はかなり若い隊員だ。

「ありがとな。高校生の方が常識あるとか終わってますよね〜」

 二人が救急車に乗り込むと、そのまま去って行った。

「それじゃ、今の動画ファイル送るね」

「僧院、もしかして俺の思考読めてる?」

 親指を立てるヒナ。

「読めるように訓練してる」

「いやまぁ、助かるけどね」

「今回はどうするの?」

「そうだな。苦情入れるって言ってたからな。それを後悔させてやろうか」

 奏介はスマホを操作して、とあるネット掲示板を開いた。

 書き込む。

『救急隊員に噛みつく父親がヤバイ。どこの誰?』

 匿名6のレスが即ついた。



 その日の夜、一児の父親である阿部は消防署に苦情を入れた。救急車を呼んだのに、乗せてもらえなかった、娘は怪我をしていた、と。電話の相手は平謝り、今後粗相がないようにすると約束を取り付けた。全ての文句を吐き出したので気分が良い。怒鳴り散らしても、あちらは謝罪の言葉しかでないのだから。

「ふん。民間人をバカにするからだ」

 気分良くテレビをつけると、デカデカとニュースの煽り文句が字幕になっていた。


『最悪! 擦り傷で救急車を呼ぶ父親!』


「……は?」

 全身モザイクではあるが、救急隊員とのやり取りは先ほどのまま。テレビで流れていた。

 スタジオに戻ってきたカメラにアナウンサーやコメンテーターが映る。

『無駄な救急車呼び出し、最近問題になってますよね……』

 アナウンサーの心底呆れた様子と表情。そして、

『擦り傷で救急車とか。いや、絶対ダメじゃないですけどね? でも、普通の感覚ならやらんでしょうね。私の若い頃なんか、つばつけとけば治る、なんて言われていたくらいです』

『いやぁ、逆ギレしてて恐怖ですねぇ』

 コメンター達も口々にそんな話をし始める。

「あ、あの時動画撮ってたやつがいたのか!? 盗撮か!?」

 

ぴろん。


 スマホの呼び出し音が鳴り、画面を見ると、呟きアプリに何通かDMが来ていた。

『阿部さんて、さっきのニュースに出てましたよね? 流石に良くないですよ』

『あの、余計なお世話かもしれませんが、家庭で治療できますよ』

『救急隊員さん、迷惑だから止めて下さいwww』

 本名で登録しているからか、バレている。急いでアカウントに鍵をかけてDMの送り主をブロックする。

「クソ! どうなってんだ」

 テレビでは全身モザイク。声も変えられていた。個人情報が漏れるようなことはなさそうだったが。

 阿部はたどり着くことが出来なかったが、ニュースの実況スレにて匿名6の書き込みがあったのだ。そこで特定されてしまっていた。

 翌日には、ご近所にも広まっていて、非常識な人間として噂をされた。妻には怒られ娘を連れて実家に帰られた。テレビ局に問い合わせたが、匿名の人物からモザイクがかかった映像が提供されたのだそうだ。人権侵害を訴えたが、局側にも個人情報は分からないので、と一蹴されてしまった。


「くっそー!!」


 阿部の味方は、もういない。



 奏介は帰宅していた姉の姫と一緒に居間でテレビを見ていた。

「へぇ〜。テレビ局、仕事はっや。奏介が売ったんでしょ? この映像。ご丁寧にモザイクまでして」

「無料提供だよ。丁度、ダメになったコーナーがあって穴埋めに使ってくれたみたいだね」

「最近、話題になってたわよね。ふーん。これは酷い」

 世の中に知れ渡ってくれることを願うしかない。 

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― 新着の感想 ―
こういう人は逆の立場になっても同じ様にキレるんだろうな お前がしょうもない事で救急車を呼んだせいでって
非常識なおっさんには相応しい最後になりましたね。こんな親だと娘の将来も絶望的な気はしますが奥さんがまともっぽいのがまた悲惨だなと思います。 そしてここでもいい仕事をする匿名6さん、おっさんのアカウント…
救急車は撤収のときに救急車を必要としなかった理由にサインを書かせるので、今回は児童のすり傷のため不要であった、旨の書類かな。 うん十年前に居た病院で、これにサインせず救急車引き止めてけっこうな問題にな…
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