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迷惑動画を拡散した人物と苗字が同じだけの無関係な中学生を叩き始める人々に反抗してみた1

 その日の放課後、わかば、ヒナ、詩音と一緒になった。せっかくなので、どこか食べ物系の店によって行こうと言うことになったのだが。

「クレープかラーメンで」

 詩音が挙手をする。深刻そうな顔である。

「統一性なさ過ぎでしょ……まぁ、クレープに一票」

 と、わかば。

「うーん……ボクさぁ、駅裏に出来た中華まんのお店気になってるんだよね。種類多いって聞くし」

 ヒナの考えに詩音とわかばがはっとした。

「ありかも……!」

「いいわね。それにテレビで紹介されてたとこでしょ?」

「中華まんか」

 奏介は少し考えて、

「俺もそれが良いな。最近食べてないし」

「ん? そういえばその中華まん屋さんてなんかトラブルあったよね。少し前に」

 詩音が何かを思い出そうと眉を寄せる。

「それ、経営会社の話でしょ? 同じ会社のパン屋さんね。店員さんが見てないうちに、お店に並んでるホイップメロンパンに指突っ込んでそれを舐めた上に穴が見えないように位置を戻してイエーイとかピースしてたやつ。何個かの動画サイトに上がってたんだよね」

 説明しつつ、ヒナが不機嫌そうに腕を組んだ。

「あぁ、あったな。最近多いな」

 いわゆるイタズラ&迷惑動画である。

『○○やってみた』などとタイトルをつけて迷惑行為を動画サイトに投稿すると、炎上しつつも再生回数が伸びるのだ。

「この前も似たようなことあったし、なんならガッツリ関わっちゃったわよね」

 わかばが思い出しているのは、恐らく東坂委員長のバイト先であるステーキハウスでの一件だ。客に出す肉を床に落としたり、一度ゴミ箱に捨てたりその様子を撮ってネットに流したイキリ男とやりあったわけだが。

(まぁ、雛原さん達と知り合いになれた件でもあったけど)

「でも確か、完全に身バレして動画も炎上して、住所特定されたり、会社から訴えられたりして、世間的にはざまぁ状態だったわよね」

 詩音が苦笑を浮かべる。

「思い出したかも。不謹慎だけど、ネットが盛り上がってたよね。ほら、インタビューを受けた会社の人が、謝罪して頂かなくて結構ですってスッパリ言ったんだよね」

「あ、ボクも見たよ、そのテレビ。口調穏やかだけど、絶対に許さないって言う意思を感じたよね……!」

 奏介はため息をついて、なんとなく空を見上げた。

「なんでやるんだろうな。インターネットに上げれば色んな人が見るのに。売り物に指を突っ込んだら、怒られないわけないのに」

 分かり合える気がしない人種だ。

「あの動画見ると、皆で爆笑してて何か事情があるって感じはしないし、典型的なイキリ高校生だから、ボクも仲良くは出来ないかなぁ」

 ちらっと奏介を見るヒナ。

「ん?」

 意味ありげである。

「どうしたの、僧院」

「いやぁ……もしかして菅谷くんが経営会社の担当者さんにアドバイスしたのかなって」

 納得したような顔で奏介を見る詩音とわかばである。

「いや、なんでだよ。そんなわけないだろ」

「あ、姫ちゃん関係で知り合ったのかと本気で思っちゃった」

「う……」

 有り得そうでバッサリ否定も出来ない。

「今回は裏方で情報操作したってわけじゃないのね」

「……」

 頼まれても絶対やらないとは言えない。

 黙ってしまった奏介、詩音が人差し指を立てた。

「つまり、今回奏ちゃんは完全なアドバイスをしただけってことだね?」 

「なんで話をまとめようとしてるんだよ。そのパン屋の件はまったく関わってないから。ほんとに」

 自分で言ってて説得力のなさに驚く。

「そうなんだ〜。あの担当者さんの雰囲気は菅谷くんを感じたんだけどな」

「いや、どういう意味」

「こう、君のオーラに似てたんだよ! ボクは思ったんだ、勝ったなって」

「お、おう」

 ヒナに同調するように頷きあう女子組。真崎がいればフォローを入れてくれたかもしれないのに。

 そんな雑談をしながら、肉まん屋へと行くことになった。



 少し早い時間だからか、店内は空いていて、客もまばらだった。冷蔵庫の温かいバージョン、いわゆる保温庫から肉まんをトングで取り出して、レジへ持っていくというスタイル。中々珍しい売り方だ。

「わかば、ほらピザまんあるよ」

「さすが中華まん専門店ね。分かってる」

 わかばとヒナが楽しげにしている横で詩音がこちらへ視線を向けた。

「お母さん達に買ってこうかなぁ。奏ちゃんは? 姫ちゃん帰ってるんでしょ?」

「姉さんは今朝出勤して、そのままマンションに帰るって」

「そっかぁ」

 トレーとトングを持って4人で並んだところで、後ろから争うような声が聞こえてきた。

「帰って下さい。あなたに売るものはないんで」

「え……」

 若い男性の店員が腕を組んで、中学生の少年を睨んでいる。

「あの、なんで……お金払いますし」

 よく見ると、少年は小学生くらいの女の子を連れていた。妹だろうか。怯えているのか、彼の陰に隠れていた。

「お金を払うとか払わないとかの問題じゃないっしょ。出禁だっつーの」

「出禁……? 僕、何もしてませんよ!?」

 知らない大人に睨まれたからか、焦りと恐怖で震えている。

「な、なんだろ? 菅谷くんの出番……? でも」

 戸惑うヒナに、奏介は頷く。

「状況が分からないな」

 割って入って庇うにしても彼らの間に何があったのかまったく分からないのだ。情報が少なさ過ぎる。

「あの店員さんが酷いこと言ってるように見えるけど、男の子が悪いことしたのかもしれないし、ってことだよね」

 詩音がおろおろしながら言う。

「あの子どこかで見たような気がするわね」

 奏介とヒナが同時にわかばを見る。

「橋間、どこで見たんだ」

「えーっと……見たっていうかネットだったかも」

 ヒナがスマホを取り出す。

「写真で検索かけちゃお」

「頼む、僧院」

 目の前のトラブルの要因を理解しなければ、手を出すことが出来ない。

 奏介は唇を噛んだ。



 早瀬誠はやせまことは小学生の妹、ルコと中華まん専門店へと来ていた。安くて美味しいと運動部の同級生から聞いていて、今日のおやつにしようと考えたのだ。父はおらず、母親は朝から晩まで働いているのでほとんど妹と二人暮らしである。

「楽しみだね! おやつの肉まん〜」

「ああ、早く帰って食べような」

 だというのに、店内へ入って肉まんを二つレジへ持っていったところで、店員に睨まれた。

 理由はまったく分からなかった。出禁になっているのだから、入ってくるなと言われたが、心当たりなどあるはずがない。

「良いから帰れ。警察呼ぶぞ。このクズ、犯罪者」

「え……」

 見ず知らずの人間にそこまで言われる理由が分からない。と、店に入ってきた高校生達が驚いてこちらを見ている。元からいた二人組の主婦がひそひそと話し始める。

「待って下さい。誰かと勘違いしてませんか? 僕はここに初めて来ました。初対面、ですよね」 

 店員は舌打ちをして、

「こっちはさ、営業妨害した奴の親戚もお断りなんだわ」

「し、親戚?」

 彼はスマホの画面を見せてきた。

「てめぇだろ、これ」

「あ!?」

 ネットの掲示板に誠の顔写真が貼られていて、「メロンパン指突っ込み野郎、早瀬刀也はやせとうやの親戚、こいつも同罪」と書かれていた。

「え、あ……あのパン屋の動画の!? ち、違いますっ、親戚なんかじゃないです!」

「うるせえんだよ。帰れや、犯罪者」

「か、関係ないんです。同じ苗字ってだけで」

「どんだけ人に迷惑かけてると思ってんだよ。あの動画のせいでうちの店の売上何%下がってんのか教えてやろうか? ああん?」

「だ、だから僕はやってないです」

「同罪だって言ってんだろ。お前もあの動画と同じようなことしてるんだ、今更言い逃れ出来ると思ってんのか?」

「そんな」

 と、いつの間にか周りの客達の声も聞こえてくる。


「あの動画の高校生?」

「堂々と同じ経営会社のお店に来てるってこと?」

「なんで逮捕されてないのよ」

「今度は万引きでもしたんじゃない?」

「あいつ、ネットに写真載ってたわ。動画に写ってないだけで、あいつもやってたらしい」

「うわぁ……引くわ」


 ありもしないことを口々に言われ、泣きそうになる。動画の早瀬刀也なる高校生とは親戚関係ではないし、知り合いですらないのだ。ただ同じ苗字なだけ。それだけで犯罪者扱いをされるなど、夢にも思わなかった。

 この場の凄まじい悪意に、ルコも震えている。

「わ、わかりました。帰ります」

 ここにはいられない。いくら否定しても恐らく無駄だ。

「おい、その前にここで土下座してけよ」

「え?」

 店員が床を指でさしていた。

「人に迷惑かけてんだからさ、ここで謝っていけや」

「な、なんで」

「早くしろよ、このクソ犯罪者!」

「!!」

 怖い。このまま逃げたら後日何をされるかわからない。それに、客の中にスマホを構えている人間がいたのも分かった。恐らく、動画か写真を撮られている。

 誠が膝をつこうとした時。店員との間に割って入ってきた人物がいた。

「土下座はやり過ぎでは? この子、中学生みたいですよ」

 店にいた男子高校生だった。庇ってくれたのだと気づくまで数秒かかった。まさかこのアウェイな状態で、割り込んで来てくれるとは。

「パンに指突っ込んだ動画拡散して営業妨害した奴は中学生だろうがなんだろうが、犯罪者なんだよ!」

「あー。えーと、ちょっと落ち着きましょう。ここにいる彼がパンに指突っ込んで動画撮って、それが営業妨害に繋がってるってことですかね?」

 黙る店員。

「で、君は本当にそれをやったの?」

 彼の問いに首を横に振る。

「やってないです! 絶対に! そんなことしません」

 泣きそうになりながら言う。

 奏介は、少し気まずそうにしている店員に鋭い視線を向けた。

「やってないらしいんですけど、この子がそれをやったっていう証拠でもあるんですかね?」

「何マジになってんだよ。そいつの親戚がやったんだ。同罪だろ!」

「いや、仮にそうだとしてもその親戚がクソ野郎なだけでしょ。別にこの子何もしてないし」

「はぁ? だから」

 奏介はすっと顔を近づけた。

「何もしてないお客さんの中学生に土下座して謝れとか暴言が過ぎるでしょ。いじめですか? 親戚が犯罪者だから逮捕できる法律でもあるなら、警察呼びます? さっきの暴言、動画に撮ってますからね?」

ネットの誤解によって無関係な方が叩かれる事例は結構あるそうですね。


話題に出ていた迷惑動画関連の話は第199部〜です。

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― 新着の感想 ―
[一言] あえて言うと、確率上「親戚の半分(以上)」は苗字違うんやで。 従来の「夫の方の苗字を戸籍に選ぶ」とした(女性側選ぶとしても結果は変わらない上表記面倒なのでこの場では固定)場合、同じ苗字の親…
[良い点] 更新ありがとうございます! 『名字が一緒』ってだけで『犯人の親戚 = 犯罪者』って、どんだけ頭が悪い店員なんだろう…… 高校どころか小学校で『デマや偽造が多いネット投稿は何でも信じちゃダ…
[一言] いやぁ…やっぱり本物は違うなぁ 本物はきちんと証拠を積み上げるし、無かったらなかったで しっかり捏造しますからね(白目)
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