父(夫)をいじめていた母娘『135部』after1
秋原家170部更新しましたー。
とある日曜日。
奏介は姫と待ち合わせをして、駅近くのファミレスで昼食を奢ってもらっていた。
「え、秋原さん?」
「そう。秋原マユネ。相談があるって言うのよね。奏介もご指名よ」
「それって……」
以前、交通事故に遭った父親を必要以上に嫌って暴言を吐く妹の相談をしてきた姫の後輩だ。
「まぁ、想像つくわよね。色々と」
肩をすくめる姫。呆れが入っているようだ。
と、そこに現れたのは後輩の秋原、そして。
奏介と姫は顔を見合わせた。
「先輩、奏介君。久しぶり」
引きつった笑みを浮かべる姉の隣で不機嫌そうにそっぽを向く妹、秋原ハナだった。
どうやら、親権を握った母の旧姓には戻らず、このまま秋原でいることにしたらしい。母親が未練があるのだろう。
とりあえず、4人は向かい合って座った。
「それで、相談ていうのは……妹ちゃんのことよね?」
「う、うん」
と、そっぽを向いていた秋原妹が舌打ちして、人差し指を指してきた。
「あのさ、なんでこんな暴力女と生意気オタクに頼らなきゃならないわけ? ぐぎゃぅっ」
初っ端喧嘩を売り始めたと思ったら、表情を歪めて妙なうめき声を上げた。
(あ……)
奏介は恐る恐る姫を見る。
無表情だった。どうやら、ヒールで彼女の足を踏んづけたらしい。
「うるさい。黙って」
まさに、口より先にである。それはそれとして、秋原妹は中々強烈な性格だ。
「それで? 秋原ちゃんが話してくれる?」
秋原は頷いて、
「離婚は成立して、お互いの条件とか全部叶ったんだけど、この子の行きたい大学が有名な私立大学……結構お金がかかる所なの。奨学金は申請するつもりなんだけど、やっぱり少し出してほしいって話になったんだ」
奏介は内心ため息。姫は呆れ顔。
「言っちゃ悪いけど、それはむしが良すぎるんじゃない? 秋原ちゃんは大学まで出してもらえるし、妹ちゃんは高校までは出してもらえるんでしょ? 妹ちゃんが大学の学費を出してもらえないのは、酷い暴言を吐いてたから。よって自業自得。奨学金だけで行けないところは諦めなさい」
この場がしんとなる。
「簡単に言わないでよ。あたしはっ、その大学でやりたいことがあるの。でも今の生活は、目一杯バイト入れてもギリギリ。入学出来たとしても、かなりバイトしなきゃいけないじゃない。絶対勉強に集中出来ない」
秋原母は、未だにフルタイムではなくパートで働いているらしい。専業主婦歴が長いためか、続かないのだとか。
「だから、お父さんにお願いして援助をしてもらいたい、と」
姫の言葉に秋原は肩を落とした。
「住所は教えてもらってるから直接お願いしようってことになったの。離婚関係のことは弁護士を通してるから」
「だから直接会いに行くのに、ついてきてほしいってわけね」
奏介と姫はお互いにアイコンタクト。
秋原妹は不満げだ。
「娘の養育費なんだから、出すの当たり前だっつーの」
「こら、ハナ! お願いしに行くんだからね? それとも、大学のランク落とすか、高校出て働く?」
「絶対嫌に決まってるでしょ!」
どこまでも態度が尊大だ。
「てか、お姉ちゃん。うちの家庭のことなのになんでこいつらに頭下げなきゃならないの?」
「おい、秋原ハナ」
奏介の呼びかけにギロっと睨んでくる。
「ここの代金お前が全部払えよ。わざわざ話聞いてやってるんだからさ」
秋原妹はぽかんとして、
「はぁ? いきなり何、偉そうに」
この上なく腹が立ったのだろう、声を荒げる。最初からずっとエネルギー全開だ。疲れないのだろうか。
「……ほら、ムカつくだろ? お前はこういう態度で父親にお願いしようと思ってるんだよ。今の言われ方で仲悪かった娘の学費を出すと思うのか? てか、この言われ方でここの代金だしたいと思うのか?」
「……」
言葉に迷ったのか、黙る秋原妹。
「あんたとわたしは他人でしょ!? あっちは娘なんだから」
「親権手放してるのにそんな義務ないだろ。戸籍上は娘かも知れないけど、お前に対する責任はない。離婚の時の条件はきちんと満たしてるんだから。その状態でお願いに行くんだから、まずはその偉そうな態度やめろ」
少し大人しくなったので、早速秋原父に会いに行くことになった。
○
秋原父が住んでいるのは駅から徒歩15分ほどのアパートだった。最近建てられたらしく、かなり綺麗な建物である。
「へぇ、なんかお洒落」
姫が感心したように言う。
階段を上がって2階へ。一番奥の部屋らしい。
と、階段を登りきったところで、一番奥の部屋のドアが開いた。
サラリーマンらしい中年男性がワイシャツ姿で出てきた。少し顔が赤い。
「いやぁ、久々だったから。若者みたいな飲み方をしちまった」
部屋から顔を出したのは、あの時病院のベッドで力なく笑っていた男性だ。秋原父である。
「こっちも楽しかった。もう昼だぞ。こんな堕落な生活してると太るなぁ」
そんな会話をしながら、笑い合い、サラリーマン男性は奏介達の脇を抜けて帰って行った。
秋原父は気づかずに部屋の中へ。
「お、お父さん……あんな笑ったところ初めて見た」
「……キモ」
秋原はともかく、この期に及んで秋原妹のブレなさが凄い。
「なんだか楽しそうね。じゃあ、さっそく」
姫が奥の部屋に近づいて、インターホンを押す。
「はいはいー」
すぐにドアが開いた。
「どちらさまで……」
秋原父は目を丸くした。
「ひ、久しぶり」
秋原が恐る恐る挨拶をする。
「お、おお。マユネか。久々だな。元気にやってるか?」
自然な流れで言う秋原父。秋原は少しホッとしたようだ。
「うん。お父さんも元気そうだね」
「こんにちは。秋原ちゃんの先輩の菅谷姫です。こっちは弟の奏介です」
「おー、あの病院の時の子達だね」
そこで秋原妹が口を開く。
「……酒臭。こんな朝から頭おかしいんじゃないの?」
その瞬間、秋原父の目が冷たく光った。
「わざわざこんなところまで来て、お父さんに何のようだ。ハナ」
凍るような、冷たい声だった。




