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両親と兄を騙して姉の金を奪う腹黒妹に対抗してみた1

自宅マンションのエレベーターホールで私服の詩音と鉢合わせた。

どうやら買い物を頼まれたようだ。

「あ、奏ちゃんどこに行って、ふぁぶ!?」

 奏介が下から詩音の顎をがっちり掴んだのだ。

 奏介はすっと目を細めた。

「しお、勝手に特殊メイクのことを」

「ご、ごめんなひゃい」

 詩音が間髪入れずにそう言ったのですぐに離した。悪いことをしたと分かっているようだ。

「さっき謝ろうと思ってたんだよ。いなくなっちゃうからさぁ」

「謝るくらいならするなよ」

 詩音は肩を落とした。

「ほんとごめん。悪かったと思ってるよ。でも、あの子が」

 以下のやり取りがあったそうだ。



「わぁ、その大山先生って凄いんですね」

 大山が運営するサイトには今まで手掛けてきた特殊メイクを施された人物の写真が掲載されている。それを水果に見せてもらい、かえなは目を輝かせた。

「あれ、この女の子は特殊メイクなんですか? ゾンビメイクの写真と並んでるのは、おかしいような?」

 もちろん、奏介の女装特殊メイクの写真だ。

「ああ、それ奏ちゃ……うちの学校の男子なんだ」

 そこでかえなはぴくっと眉を動かした

「奏ちゃんて、菅谷先輩をそんなふうに呼んでましたよね。菅谷先輩なんですか?」

「いや、そういうわけではないのさ」

 水果が少し慌てる。

「そうそう。うちの学校の男子ってだけで」

 詩音の言葉にかえなはにっこりと笑った。

「動揺するってことはそうなんですね。ちょっと本人と話して来ます!」



 詩音は一連の流れを思い出し、ため息をついた。

「そんなわけで、ちょっと口を滑らせただけでバレちゃった。あの子、鋭いっていうか頭いいんだろうなって」

 奏介は少し考える。

(長年両親と兄の綾小路を騙してきたんだったな)

 




 かえなは自宅近くの歩道橋で友人と達と分かれた。

「バイバーイ」

「かえな、明日の朝練よろしくねー」

「おっけー。任せて」

 階段を上りながら、ふんふんと鼻歌を歌う。

(来月のイベントのコス、ちょっとお金がかかる衣装なのよねー。お姉ちゃんのバイトの給料日は……っと)

 確認すると、丁度イベントの一週間前のようだ。

(丁度良さそうね)

 姉のナミカは給料日にすべての給料を下ろし、家で保管する癖があるので、楽なのだ。

(まあ、口座保管でもお姉ちゃんの考えそうな暗証番号なんてすぐ分かるから)

 と、そこで気づく。

 歩道橋を降りた先の停留所にバスが停車していて、男子高校生が降りてくるところだった。

(あれ、この人)

 知っている顔だった。一瞬誰だったかと考え、すぐに思い出した。

「こんにちは、菅谷先輩っ」

 声をかけると、奏介は驚いたようにこちらを見た。

「綾小路、さん?」

「耀お兄ちゃんの妹のかえなです。偶然ですね」

「ああ、そっか中学校ってこの辺だったね」

 ほっとしたように奏介がはにかむ。

(同級生の妹に声をかけられて、鼻伸ばしてきもーい)

 顔を赤らめているし、やはり惚れられたのかもしれない。

(こういう男子ってちょろいなあ。ん、でも伊崎先輩とか椿先輩と一緒にいたし女の子とあんまり話せないってわけじゃないだろうし)

 この前は見た目の割りに陰キャのイメージが薄いという印象だったが。

(なんか今日は、女の子慣れしてない陰キャオタク野郎って感じ……?)

「あ、あの、綾小路さん。あれからお姉さんとは大丈夫? 揉めてたし、暴力も振るわれてたから」

「え、ああ。あれから来てないので大丈夫ですよ。心配してくれてたんですか?」

「ま、まあ」

「この前、かばってくれてましたもんね。嬉しかったです」

「いや、俺は何も」

 照れながらも、女の子を守れた自分に酔っている感が凄い。

(営業スマイルの女の子に惚れるタイプね。痛い痛い)

「……でもなんていうか、あのお姉さん何するかわからない感じが怖いよね。前からなの?」

「はい。小さい頃から分けわからないことを言って来ていじめられるんです」

「お金を盗んだって結構酷い言いがかりだよね」

「私のコスプレ趣味が本当に気に食わないんだと思います」

「そう、なんだ」

 奏介は頷いて、

「あ、ごめんね。長話をして。じゃあ気をつけて」

 かえなはにやりと笑った。

「菅谷先輩、今度コスプレイベに出ませんか?」

「え、俺?」

「あの特殊メイク完璧ですし、絶対何を着ても似合いますよ。菅谷先輩細いし」

 困ったように奏介が笑う。

「いや、そういうのはちょっと。大山先生にはお世話になってるから練習台になってるだけで趣味じゃないんだ」

 かえなはスマホの画面を奏介に見せた。大山のサイトの女の子特殊メイク姿の奏介が写っている。

「一回だけお願いしますよ! じゃないと、これが菅谷先輩だってバラしちゃいますよ?」

 冗談っぽくいうと、奏介は少し顔を引きつらせた。

「いや、何言って」

(普通に脅しのネタに使えるのよね~。先輩には私の小銭入れにでもなってもらおうかしら? ん!?)

と、ぴりっとした空気を感じた。奏介を見るが、 

「い、一回だけ?」

 怯えたような問いかけ。奏介の様子に違和感を覚える。

「……はい、一回だけです。本当に綺麗だから色んな人に見てもらいましょう。じゃないとー、この写真」

「わ、わかった。わかったよ。一回だけ」

「あはは、本当にバラしませんよ。ただ、イベに出てほしいだけです」

 空気がぴりっとしたのは気のせいだったのだろうか。

「えーと、イベントに出るのは良いんだけど、俺、コスプレ衣装とか持ってないから普通の私服で行くね」

「いや、そんなの大丈夫ですよ! 私の衣装貸します」

「サイズ合わないと思うけど」

「次回のイベントはかなり大きいので、新しい衣装を新調する予定なんですよね。ついでに菅谷先輩のも探しますから」

「コスプレ衣装って高いと思うんだけど……そんなにお小遣いもらってるの?」

 一瞬どきりとした。姉のナミカが『金を盗んだ』などと発言しているためか、奏介が少し複雑そうな表情を浮かべている。

「中学生ってバイトできないよね?」

「お年玉を貯めてるんですよ! コスプレのために」

「ああ、そうなんだ」

 奏介は苦笑を浮かべる。

「俺は無理だな。すぐ使っちゃうよ」

「ふふ。私、この趣味に命かけてるようなものですからね」

 そう言ってかえなは目を細めた。

(ふーん? こいつ、お姉ちゃんの言葉を疑ってんのね。もしくは、お姉ちゃんと接触したのかしら)




 奏介は内心で舌打ちした。

(こいつ、俺が探り入れてるのに気づいてるな)

 写真による脅し。一瞬、気を緩めて調子に乗り出したと思ったが、冷静にこちらの発言を分析しているようだ。

「それはそれとして、約束ですよ?」

「わ、分かってるよ。だから写真だけは」

「約束は守りますよ。楽しみだなあ、菅谷先輩のチャイナ服」

「いや、それはない」

 コスプレイベで決定的な弱味を握ろうとでも思っているのだろう。

「じゃ、先輩、また連絡しますね!」

「ああ、分かったよ。気をつけてね」

「はい、先輩も」

 お互いにっこりと笑って分かれた。





 翌日、昼休みの風紀委員会議室。

 奏介は無表情でスマホの画面を見ていた。

「なんでこれが話題になってるの?」

 現在この場にいるのはわかば、ヒナ、モモの三人である。

 わかばが顔を引きつらせながら見ているのは桃華学園のネット掲示板だった。話題になっているのは大山のサイトの奏介特殊メイク写真だ。

 サイトの写真の説明には、美女顔特殊メイクと説明されているだけで、元が男子だとは書かれていない。誰かが桃華学園の男子生徒の女装メイクだとバラし、話題になっているらしい。

「今朝、写真が誰なのかって大山先生に聞いてる女子生徒いたよね」

 ヒナが眉を寄せながら言う。

 ちなみに大山は慌てることなく、サイトに『妙な噂が出回っていますが、そう言った事実はありません。誹謗中傷の荒らしコメントに関してはあまりに酷ければ対応させて頂きます』と記事を出したようだ。

 モモがおずおずと声をかけてくる。

「菅谷君、あの、別に批判されてるわけじゃないみたい。もしこの写真が男の子だったら凄いって話題になっているだけで」

「ああ、須貝。分かってるから」

 モモへそう言って、奏介はネット掲示板を閉じる。

「ねえ、これって誰かが噂を流したってこと? あんた、何かトラブルに巻き込まれてるの?」

「今、まさに戦闘中」

「戦闘!?」

「ふーん。菅谷くんに喧嘩売った上に陥れようとしてるってこと?」

「やろうと思えば俺だってバラすことも出来たけど、寸止めして脅そうとしてるんじゃないか」

「何かあれば手伝うよ? ボクが出来ることなら、ね」

「ああ、ありがとう。今回は僧院にも頼むかもしれない」

「ひっ」

 わかばが小さく声をもらした。

 奏介が食べていたバケットハムサンドが握りつぶされた。ハード系の固めのパンにいい感じのくびれが出来た。

 かえなからメッセージが届いている。


『大人気ですね! イベで世界デビューをめざしましょう。バレなければ大丈夫です。今はまだバレていませんからね!』


「本当に良い度胸だ。金盗んだ上に喧嘩売っといて、ただで済むと思うなよ」

 奏介は小さく呟いた。

次回はなるべく早めに更新します!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 舐めくさって地雷原の上でタップダンスしてやがる…。
[一言] 逆に考えよう。このまま大人になる前に自分を見つめ直せると。
[一言] 奏介君に全面的に喧嘩売って無事に済むとは欠片も思えない…
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