職場の人間関係を引っ掻き回す新人パートに反抗してみた1
バイト先のスーパーにて。
従業員用の裏口から入って休憩室兼更衣室に入ろうとした時、高平が店内を見渡せる位置で腕を組んでいるのが見えた。
「お疲れ様です」
「ん? おお」
「何やってんだ?」
奏介はすぐに素に戻って問う。
「おい、サボってんだろみたいな目で見るな」
「何も言ってないだろ。で?」
「三日前に入ったパートいるだろ?」
「ああ、四十代の人?」
主婦だそうで、子供は中学生くらい。ぼちぼち、手がかからなくなってきた頃合いなのだろう。
「あぁ、なーんか怪しいんだよな」
「怪しい? 小川さんが教育係だっけ」
「見てみろ」
客が途切れたのを見計らってレジを教えているらしい。ここからでも会話が聞こえてきた。
「あのー、ぜんっぜんわからないんですけど」
「え? あら、ごめんなさいね。教えるのが下手で」
新人パート近江サエコはため息をついた。小川さんが申し訳なさそうにしているが、近江の態度がとんでもなく悪い。
「な?」
怪しいの意味はなんとなく分かった。やる気がないのだろう。
「うーん。お前がましになってからは良い感じなんだけどな」
現在の職場の人間関係は良好だ。女性が多いものの、陰口悪口もほとんどない。愚痴はあるだろうか。
「何気にオレをディスるんじゃねぇっ、今は関係ないっつの」
高平の勘は当たった。
日が経つにつれ、近江の態度は大きくなるばかり。
代わる代わる先輩パートが仕事を教えたが、分かりにくい、教え方が下手、何言ってるのか分からないなどと困らせた挙げ句、仕事をサボりまくる。
しかし、バイトの葉堂マヤには態度を軟化させる。元迷惑客のおじいさんに絡まれていたバイトの女の子だ。気が弱いが、仕事はしっかりしている。しかし、近江と話すようになってからは一緒にサボリ始めていた。どうやら近江が、強引にサボリの誘いをして巻き込んでいるようだ。
さらに小川さんや他のパートの悪い噂を流すなど、やりたい放題、文字通り、この職場を引っ掻き回された形だ。
とある日、休憩室に入るとテーブルで近江と葉堂が談笑していた。
「でね、旦那が勘違いして言うからおかしくて」
「そうなんですね、仲良くて良いですね」
葉堂は困ったように笑いながら相手をしている。
「そ、そろそろ店に戻らないと」
「えー? いいじゃない。今、品出しやることないし。他のバイトにやらせとこうよ」
「うぅ、でも」
強引に引き止め、雑談を続行。葉堂はサボらせられているという感じ。
「ん? 何見てんの? セクハラで訴えるよ?」
イラッと来た。
「セクハラ? 近づいてもないし、喋ってもないのにいきなりなんなんですか。逆セクハラで店長に言いつけますよ。言いがかりつけて、セクハラとか言いだす女性って怖いですね」
「そういうの、パワハラって言うんだけど? 菅谷君だっけ? もうちょっと考えて発言しなよ」
「……」
ニヤニヤと笑う。
奏介は無言で更衣室へと入る。
「言いがかりつけられて最悪っ。ね、そう思わない? 葉堂さん」
「あーえーと……」
奏介は更衣室の戸を閉めて、口元に笑みを浮かべた。
この話はフィクションですが、後から入ってきて、円満だった職場の人間関係をこれでもかと捻れさせる方、いるんですよね。