えぐいいじめをしていた女子高生達に反抗してみた3
住友あきこは警官に連れられて、事情聴取室へと連れて行かれた。内心ため息しか出ない。生徒会指導室へ連れて行かれた時とデジャブである。
「そこへ座って」
促されてパイプ椅子に腰を下ろすと、警官が真っすぐに見て来た。奥にもう一人、警官が後ろ向きで座っている。
「小川リホさんとは学校が違うみたいだけど、どうして知り合ったの?」
「さっきの人にも言ったけど、あっちがぶつかって来たんですよ」
「知り合いではなかったのね?」
「まあ。でも、結構強い感じでぶつかって来たから。喧嘩売られたと思ったんですよ。やり過ぎだったかなーとは思います」
次の言葉は分かっている。
『わかった。次は気を付けるように』
生徒指導の教員の苦い顔を思い出した。
「そうね。やり過ぎね。トイレに連れ込もうと言ったのは誰だったの?」
「え。あたしですけど」
「では水をかけようと言ったのは?」
「……それも、あたし」
背中がぞくぞくし始めた。胸の奥が徐々に冷えてくる。小川リホに対してやったことを一つずつ、淡々と確認されると不安になってくる。説教をされるものだと思っていたのに。
「服を脱がせて写真を撮ろうと言ったのは?」
「それは一緒にいた佐藤ってやつ」
「そうですか。ではその写真はどうするつもりでしたか?」
「どうするって」
ほぼ無表情で聞かれ、動揺する。
「ネットに流そうと思ったとか、小川リホさんを脅すために使おうとか」
「お、思ってないです」
「では写真を撮った目的は?」
「……」
その場のノリでやらせたことを説明しているうち、冷や汗が出てきた。そして、その後すぐに、今日は家に帰れないことを知った。
片野ぼたんは目立たないように体を小さくしながら、教室を出た。クラスメート達の話題はもっぱら逮捕されたらしい住友あきこ他二人。見ず知らずの高校生を公衆トイレに連れ込み、暴行したのだという。
目撃者が多くいて、SNSに詳細を乗せている人もいる。
『トイレで相手の子に水をかけて、服脱がせて写真撮ってたっぽい。低体温症で運ばれてまじ可哀そうだった』
ぼたんは実際にその書き込みをスマホで見て、握りしめた。
(わたしと同じだ)
ぼたんは住友達に学校でまったく同じことをされた。撮られた写真で脅され、毎日言うことを聞かされていた。突然訪れた彼女達の別れは嬉しいと同時に、悔しさが込み上げてくる。
(なんで私の時は許されたの?)
ぼたんの惨状を見て担任はあきこ達を生徒会指導室へ連れて行ったものの、口頭で注意されただけだったらしい。後からあきこに『ざまあみろ』と言われた。
(酷い)
正門を出ると、堪え切れなくなった。涙が伝う。学校外では犯罪で、学校内ではただの遊び扱い。この差はなんなのだろうと思う。
「すみません」
声をかけられ、はっとして顔を上げる。
そこには男子高校生が立っていた。制服は桃華学園のものだ。他校の生徒だからか、かなり目立っている。
「はい……?」
「片野ぼたんさんですよね? 俺は菅谷奏介と言います。少し聞きたいことがあるんですけど……えーと、駅まで少し歩きませんか?」
ぼたんに対し、かなり気を遣っているのは分かった。
「え、あ、はい」
呆気に取られたまま、彼と共に正門を離れる。
「嫌なことを思い出したらすみません。……住友あきこさんとお友達だったと聞きまして」
「!」
彼に腹が立ったわけではない。そうではないのに、友達という言葉に怒りを覚えた。
「違うっ、あんな人たちと友達なんかじゃないっ」
叫んだ。
思い出される。住友あきこに散々言われていた。『あたし達、友達でしょ?』
そんなわけない。嫌がるようなことをして困っているぼたんをバカにして笑った彼女達との関係が友達なわけがない。彼女達が犯罪者になったことで、怒りが増した。
「私は住友さん達とはっ」
「すみません、あんなクズ連中と友達なんて言われたくなかったですよね」
奏介は困ったように言う。ぼたんは目を瞬かせた。
「え」
「実は」
奏介が言うには住友あきこ達の犯罪行為を見つけたのは彼だったらしい。被害者は彼の知り合いの娘とのこと。
「そう、なんですか」
「よってたかって知り合いの娘さんをいじめる様子を見兼ねて、警察と救急車と娘さんの……つまり俺の知り合いに連絡したんですよ。それでまぁ、学校でも同じことしてるんじゃないかなと思って、探していたんです」
奏介は、ぼたんの学校に知り合いがいるらしい。恐らく、小中の同級生だろう。
「どうして、わたしに」
「片野さんもやられたんでしょ?」
「……」
あまり思い出したくない。しかし、ぼたんは頷いた。
「多分、同じことを」
「それは、先生に言わなかったんですか?」
「結構騒いでたから、他の生徒が先生に言ってくれたんです。でも、住友さん達は怒られただけでした」
「……知り合いの娘さんは、体調が悪くなって救急車で運ばれたんですよ。怒られたで済むような状況じゃなかったんですけど」
「その被害者さんほどじゃないですけど、わたしも風邪引いて少し休みました。……お母さんは学校に苦情を入れたらしいんですけど、結局住友さん達から謝られたりはしなかったです」
「片野さんの学校、よっぽど問題を起こしたくなかったんですね」
「……そうなんですかね」
「そうですよ。だって、片野さんは謝られもしてないんでしょ? 学校は片野さんの気持ちを犠牲にして、住友さん達を守りたかったってことです」
そう言われると、頭に来る。
「でも片野さん」
ぼたんは奏介を見る。
「住友さん達、今は言い逃れ出来ないくらい犯罪者なんですよ」
ぼたんはこくりと息を飲み込む。
「あっちが悪いことが確定してるし、片野さんも加勢してやり返しておきません?」
にっこりと笑う奏介。
ぼたんはぽかんとするしかない。
「警察に、わたしもいじめられてた、こういうことをされた、とか色々言っても良いと思うんですよね。イタズラされたものとかあったらそれを提出したり」
「警察に……?」
「そうです。報告するだけで余罪が増えますし」
ぼたんはドキドキしていた。逮捕された住友あきこ達。彼女達の悪行を警察に伝えるだけで罪が重くなる? やり返そうなどと思ったことはなかったが、今ならやり返しても反撃されることはない。
「もちろん、強制じゃないですけどね。……ただ、泣き寝入りをしてほしくないなって思ってるので」
ぼたんは、しばらく間を空けてから頷いた。
「そうですね。なんか、それなら」
と、その時。
「おい」
大柄な男子高校生が近づいてきた。
「さっきから話聞いてりゃ、お前があきこを警察に売ったのか?」
不機嫌MAXのようだ。奏介は胸ぐらを掴まれる。
「ひっ」
ぼたんの怯えたような声。
「どちらさまですか? こんな町中で」
奏介は呆れ顔である。
「あきこは俺の女なんだよ」
どうやら、住友あきこの彼氏らしい。偶然か、それともぼたんに文句を言うつもりだったのか、盗み聞きしていたようだ。
「彼氏ってことですか? あの犯罪者の?」
「っ! あきこは犯罪者じゃねぇっ」
奏介はすっと目を細める。
「相手を病院送りにしといて、犯罪者じゃねぇはないだろ。好きな女だからって人殺しそうになっても許せってのか? 共犯者として警察に突き出してやろうか?」
「……!」
顔を引きつらせる。
「あいつと付き合ってたなら一緒に犯罪行為しててもおかしくないしな。今すぐ通報してやるよ」
すると彼は奏介から手を離し、一目散に逃げていった。
「……雑魚過ぎる」
奏介はため息を吐いた。今までで一番の雑魚だ。言い返せもしないで。
「あ、あの」
「ああ、大丈夫。じゃあ、仕返しのこと考えておいて下さいね」
ぼたんは頷いた。
「はい。……ありがとうございます」
その日は、小学生のように走って帰った。
後日談的な感じですが、もう少し続きます!
更新遅いときはリアル多忙中です(笑
この物語はフィクションです。実在の人物及び団体、事件とは一切関係ありません。