~番外編~ 137部おまけ 姫とハナの攻防
姫は人気のない非常階段にハナを連れ込んで、体を押して壁に背中をつけさせた。
「いたっ! 一体何」
そして壁ドン。
姫はハナに顔を近づける。彼女の表情が強張る。
「ねえ、一体何様なの?」
「は? あんたこそ何様よ。勝手にうちの家庭に口出してきてさ」
「うるさい」
姫のドスの効いた声にハナはびくんと体を揺らした。
「ごちゃごちゃうるさいのよ」
姫はゆっくりとハナの胸ぐらを掴んだ。
「ほんとにうるさい、生意気、知ったような口を聞くな。クソガキが。ねえ、痛い目に遭いたいの?」
「は、なっ……」
「親の金で生活するのが嫌なら、出て行けば良いでしょ。ていうか、出て行きなさいよ」
手に力を入れる姫。
「ちょ、あ……」
「出て行けって言ってんの。人の金で学校行ってんじゃないわよ。出て行くのが嫌なら、母親に離婚を強制しないで。既婚者と恋愛して奥さんと別れてとかいうクソ女と同じね」
姫はハナの額に自分のそれをつける。
「良い? 離婚はあんたが決めることじゃないわ。夫婦間の問題よ。それを強制するんじゃない。したければするし、したくなければしないんだから」
姫の迫力に、口をぱくぱくするハナ。
「返事はっ!?」
「は、はいっ」
「次、お父さんに悪口言ったら締めるわよ。あたしはうちの弟みたいに優しくないから、半殺しにしてあげる」
姫の手がぎりぎりと音を立てる。
「いいわね?」
「わ、わかりました」
姫は勢いよく手を離した。座り込むハナ。
「心に留めておきなさいよ。養われてる身で生意気なこと言うんじゃないっ」
姫はそう吐き捨てて、背中を向けたのだった。
病院を出たところで、奏介はなんとなくエレベーターを振り返った。
「姉さん、秋原さんの妹、青い顔をして戻って来たけど、何言ったの」
「んー? 奏介の口攻撃が聞いたんじゃない?」
「いや、なんか怯えてるっていうかさ」
まさに何かに脅されたようだった。
「奏介は甘いわよね。物理的に支配するのも時にはアリなのよ?」
「いや、ないから。暴力振るったら逮捕されるし」
「暴力行為は寸止めするのよ。やられるかもしれないという恐怖を植え付けるの。それが出来るようになったら一人前ね」
笑顔で頭を撫でられて、奏介は肩を落とす。
「いや、もうなんか、姉さんとは分かり合えないところあるよね」
こんなことを言っているが、実際に暴力をふるったことはないのだ。姉が寸止めの先に行かないことを願うしかない。
物理的脅し……。