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靴箱で酷い嫌がらせをされたので反抗してみた4

 早朝、七時半。

 橋間わかばは友人二人と共に正門を抜けた。早めに登校して誰もいない教室でお喋りをするのが三人の日課だ。

「わかば、ローファーの汚れ落ちた?」

「牛乳って乾くと結構臭うから気をつけた方が良いよ」

「わかってるって。なんと、コインランドリーの靴用洗濯機使って洗ってきたからばっちり」

 わかばは片目を閉じて見せる。

「あー、あるある! 確かに綺麗になりそう」

「良かったじゃん。でも酷いことするよねー。牛乳って」

「ほんっとに」

 わかばは力強く頷いた。それから腕を組む。

「そういえばあいつ、よく女子と登校してるのよね。あの女かしら?」

 すると友人がくすくすと笑う。

「じゃあさ、今度まとめてやっちゃわない?」

「それ、ありかも」

 などという会話をしながら昇降口。話に夢中でわかばは受け答えしながら、靴箱の扉を開いた。すると、

「きゃあっ」

 勢いよく雪崩が起きたのだ。靴箱の中に押し込められていた鶏の餌が大量に流れ出してきた。幸い、周りに三人以外はいないので酷い惨状を奇異の目で見られることはなかったが。

 わかばは、しばし呆然とする。

「何よ、これ」

 二人が駆け寄ってきた。

「嘘でしょ……」

「ひどっ」

 わかばはうつむいて、怒りに体を震わせた。

「許せない。……絶対に許さないから。一人じゃ何にも出来ない癖に、女にやらせるって最低っ、あいつ、直接締める」

「お、その意気だよ! キモオタクの癖に調子に乗りすぎだもんね」

「明日から学校来られないようにしちゃお!」

 三人は負の結束力を発揮して頷きあった。その後、油でベトベトの机や水濡れの体育館シューズに気付き、さらに怒りを増幅させたのだった。




 朝、朝礼前。

 詩音と共に教室に入った奏介は自分の席に腰を下ろした。

「はよ。どうだった? 今日の靴箱は」

「ああ、これが入ってた」

「ん?」

 奏介は机の上に薄水色のメモ紙を置く。

「菅谷君へ。大事なお話があります。放課後、理科室で待ってます。来てくれると嬉しいです」

 真崎が音読した通り、丸文字でそれだけ書かれていた。

「告白の呼び出し……っぽいな」

「んなわけないでしょ。告白目的の女子が今の俺の靴箱の惨状見てこんなの入れてくわけないし。橋間だろ」

「ま、そう考えるのが普通だわな」

 誰にでも分かるあからさまな罠だ。

「針ケ谷、ついに直接対決仕掛けてきたよ」

「嬉しそうだな……」

「あっちの出方次第で色々と終わらせることが出来そうだからね。橋間わかばの社会的地位とか人生とか将来とか」

「わかった。わかったから、それ以上スマホを握ってやるな。画面割れるぞ」

 昨日の水鉄砲の件で奏介の怒り具合は最高潮だ。

「あ、そうだ。こうなったらいらないかも知れんが、橋間の新情報聞くか?」

「ん? 何かわかった?」

「朝比賀のことなんだけどさ、橋間は裏で朝比賀ファンクラブの部長をしてるらしい」

 奏介は動きを止めた。

「……なんだそれ」

「そのまんま。朝比賀ファンが集まって情報交換するらしい。ネットにも裏サイトとして存在してるらしいぜ? 会員制だから誰かに紹介してもらわないと入れないらしい」

 奏介は顎に手を当てた。

「朝比賀先輩関係で嫌がらせされてるのはわかってたんだけど、ファンクラブか。大人数なんだね」

 あの三人だけかと思っていたが、攻めかたを変えた方が良いかも知れない。橋間わかばを叩きのめしても、後から厄介な奴が出てくる可能性がある。

「ありがとう。ちょっと冷静になれた」

「そか。よかった。お前、人殺しそうなオーラ出してたぞ」

 とりあえずは、彼女達の言い分と要求を聞いてからだろう。




 放課後。

 奏介は帰り支度をした後、メモの指定場所、理科室へ向かっていた。

 朝までは怒り狂っていたが、冷静な判断力が戻りつつある。

 特別教室棟(とくべつきょうしつとう)二階の理科室の戸の前へ。

 取っ手に手を置いて、横にスライドさせる。一歩、二歩入ったところで、

「えいっ」

「っ!」

 横から大量の白い液体をかけられた。全身ずぶ濡れになるほどの大量の、牛乳だった。

「……」

 バケツを向けてニヤニヤしているのは橋間わかばと二人の友人達。

「可愛い子が待ってるとでも思った? オタク君?」

 ゆっくりと歩いて、近づいてくる。

「あんたさ、調子に乗りすぎじゃない?」

 奏介は鞄から取り出したミネラルウォーターのキャップを外した。

「うぜぇんだよ。キモオタクっ」

 顔を近づけて、吐き捨てるように言ってきた橋間わかばの頭の上にペットボトルを構えて、そのまま傾けた。

「……へ?」

 頭を伝い、髪を濡らし、顔を流れて制服がゆっくりと水を含んでいく。

 最後に水の少なくなったペットボトルを彼女の顔に向けて振って握りつぶす。勢いよく出た水がナチュラルメイクをしている顔を濡らした。

 奏介はペットボトルを床に放り投げて冷ややかな視線を送る。

「他に言うことは?」

 理科室内抗争勃発。

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