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田野井公平after

風紀委員の副委員長です。

 田野井公平は悩んでいた。新風紀委員長の東坂あきらとの関係は良好であり、最初の頃の揉め事はなかったかのように委員会はまとまっている。

 しかし、このままで良いのだろうかと。

「どうしました? 田野井さん?」

 隣の席の東坂に頭を撫でられながら、そんなことを考える。

「委員長、オレとしてはもう少し頼ってほしいのですが」

 なんでも一人で抱え込んでしまう彼女にとって、副委員長はお飾りなのだろう。

「頼る? 書類とか結構任せてますよね?」

「いえ、そうではなくて」

 委員会を運営するにあたって他の委員会とのやり取りや教師達との取り決め、活動内容の決定などすべて一人でこなしているのだ。

「心配しなくても大丈夫ですよ」

 にっこりと笑顔を向けられ、田野井は肩を落とした。




 昼休み、田野井は風紀委員会議室にいた。なんとなく今日は一人で昼食を取りたい気分なのだ。

「あのごたごたのせい……なのだろうな」

 と、風紀委員室の戸が開いた。

「あ、開いてたわ。よかった」

 入ってきたのは奏介とわかばだった。恐らく、先日の活動のレポートだろう。

「田野井先輩、ここでお昼ですか?」

 わかばに聞かれ、

「ああ、普段はあまり来ないがな」

「何かあったんですか?」

 と、奏介。中々鋭い。

「東坂委員長のことで」

「田野井先輩、東坂委員長のこと大好きですよね」

 わかばに苦笑気味に言われ、田野井は慌てる。

「ち、違う。知ってるだろ? 委員長は仕事をほとんど一人でこなしてしまうんだ。これでは負担が大きくなって」

「いやでも、きつくなったら相談くらいしてくると思いますよ? 人を動かすの、下手ではないですし」

「まぁ、今は好きでやってる感じよね。気にしすぎですよ」

 田野井はまた考え込んでしまう。

「それじゃ、あたし達はこれで」

「ああ、放課後は正門で声かけだ。遅れるなよ」




 奏介とわかばは廊下に出てから顔を見合わせる。

「田野井先輩、悩みやすい性格だったのね」

「悩みやすいっていうか、東坂委員長に対して過保護なんじゃないか? なんでこうなったのか……俺もちょっと責任を感じる」

「……まぁ、否定出来ないわね。そうね、今度委員長に田野井先輩の悩みを話してみる? 本人聞けないみたいだし」

「そうだな。聞けば委員長が本当に負担に感じてるか、わかるしな」

 と、わかばがじっと見てくる。奏介は首を傾げた。

「なんだ?」

「あんたに関わると、皆考え方とか色々変わるのかしら……」

「ああ、お前も上履きに画ビョウとかいう今時小学生でもやらない幼稚なイタズラしてたもんな。精神的に大人になってくれてよかったよ。ちゃんとごめんなさいも出来たしな」

「うぐ……。その通り過ぎてなんの文句も言えないわ」



 放課後。

 田野井が正門へ向かうと、東坂委員長が二人組のギャル風女子生徒に囲まれていた。

「なんだ?」

 と、後ろから気配が。

「お疲れ様です。何してるんですか」

 奏介だった。腕章をしているので声かけ活動に参加するため出てきたのだろう。

「ああ、何か東坂委員長が」

 と、彼女らの会話が聞こえてくる。

「なんでそんな校則に従わなきゃなんないの?」

 不機嫌そうに言う。

「この学校での規則ですし、それにそのスカートの短さは」

「うるさいってのっ、風紀委員だからってそれくらいの細かいことを指図しないでよ。うざいんだけど」

 東坂委員長は困っているようだ。

「くっ、そんなことで突っかかっているのか、あいつら。校則は校則だろうっ」

 と、奏介は何かに気づいたよう。

「……田野井先輩、多分東坂委員長は校則の指摘をしているというよりは」

 奏介の指の先を見て、田野井ははっとした。彼女達のスカートは確かに短いが、目に見えて、それ以外の問題がある。

「よし、言ってくるっ」

「あ、先輩」

 田野井は走って三人の間に割って入った。

「東坂委員長の話は最後まで聞けっ」

 庇われた東坂委員長は目を瞬かせる。

「あ、田野井さん」

「いいんです。はっきり言った方が良いですよ。まどろっこしいから誤解を受けるんです」

「でも、女の子ですし」

「躊躇ってはいけませんっ」

 そんなやり取りに女子生徒達の目がつり上がる。

「は? 今度はなんなの?」

「うっざ」

「よく聞け! ぱ……」

 急にそれ以上の言葉が出なくなってしまった。

 口が動かない。羞恥心とやらに妨害されるのは初めてだ。しかし、この単語を口にするには勇気がいる。

 と、手にしていたスマホが音を立てる。反射的にちらりと見ると奏介からのメッセージだった。

(! そうか)

「で、なんなの? さっきから」

 田野井はすっと息を吸って、

「見えてるんだよ。気づけ」

 小声でそう言った。

 数秒後、彼女達はパンツが見えないようにスカートを直すと、顔を真っ赤にして、ダッシュで逃げて行った。


 奏介の助言は『見えてますよ、だけ言ってください』だった。


 つまり、スカートが短すぎてパンツが見えていたので、東坂委員長が遠回しに指摘しようとしていたのだ。


「結局恥ずかしい思いをさせてしまいましたね。校則から短さを指摘して自分で気づいてもらおうとしていたんですが、ダメでした」

 東坂委員長は困ったように笑う。

「田野井さん、助かりました。まぁまぁ配慮ある言い方で良かったです」

「いえ、結局……あいつらは恥をかいてましたから。……それで委員長、たまにはオレにも頼って下さい。いくらでも手伝うので」

「ふふ。ありがとうございます。じゃあ、今度はもう少しお仕事を回しますね」

 その様子を奏介が見ていると、

「あら、何かあったの?」

 わかばが隣に立った。

「ああ、ちょっとな」

 と、奏介のスマホにメッセージが届く。

『助かった』

 田野井から一言だった。

 奏介は一息吐いて、

「じゃあ、やるか」

「そうねー。ちょっとダルいけど」

 下校の生徒達が一気に多くなってきた。

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― 新着の感想 ―
[一言] え?人のフォロー完璧で、それを誰にも言わないとかまじでイケメンじゃん。レベチやんけ。好き。きゅんきゅんしちゃう
[一言] めんどくせぇやつだなww
[一言] ルーズソックスが流行って頃、勤務地内の高校を通り過ぎる際、短いスカートで座り込んで話してるので覗かなくてもパンツがよく観えてました・・・最初の頃は今日は良い事あるかなぁ~っと思ってましたが、…
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