8話 戦闘準備
ここ何日かログインしてこの間行った上級者エリアへ行ってプレイヤーを倒すということを繰り返していた。
そうこうしているうちに第一回イベントが明日にまで迫ってきていたので、今日は最近プレイヤーと戦っていて気づいた自分の欠点を克服するためのスキルを習得する事に専念する事にする。
「とりあえず絶対欲しいのは気配察知系のスキルだな。奇襲にも気付けるだろうし、敵を見つけるのにも役立つだろう」
スキルポイントで獲得できるスキル一覧を探してみるのだが、ルインが望むような効果のスキルを見つけることが出来ない。
仕方がないので自力で獲得出来る方法を考えることにする。
「うーん、俺が思いつく中で気配察知系のスキルを手に入れられそうなのは瞑想かな? かなり集中するし、周りの事に敏感になるから似たようなスキルは手に入れることができそうだ」
瞑想をするために一人で静かに集中出来るところと言えばあそこしかないと考えてその場所へと向かう。
―――
やって来たのは訓練場だ。前に来た時はひたすら銃の練習をしていたが、別に武器などの訓練を必ずしなければいけないわけでは無いのだ。
別に家に行っても良かったのだが、あそこは誘惑が多すぎて集中しきれないかもしれないという不安と単純に修行をするなら訓練所というイメージから、訓練所で瞑想をする事にしたのだ。
ルインは座禅を組みゆっくりと目を瞑って、頭の中を無の状態へと近づけていく。
何も考えずにただ周りの気配を感じる事だけに神経を集中させる。
ずっと瞑想を続けていると、徐々にほんの少しだけだが、目を開けていなくても周りの状況が想像出来るようになってきた。
無音の空間に通知音が鳴り響く。
「はぁ、やっと手に入れられたか」
そう思い、獲得したスキルの詳細を見てみる。
〈極限集中〉
【効果】極限まで集中することによって時間の流れが遅く感じられるようになる
【獲得条件】心を無にして時間を忘れるほど集中する
「ん? なんか思ってた効果と違うスキルが手に入ったな。これは一体どういう効果のスキルなんだ? てか時間を忘れるほど集中するってまだ1時間くらいしか経っていないだろ」
そう言って時間を確認すると、瞑想を始めて既に5時間が経過していた。それを見たルインの顔がみるみると青ざめていく。
「おい、嘘だろ……? 俺まだ今日他にもしたい事あったんだけど・・・」
幸い明日は休みでイベントは一時かららしいので、もう今日は諦めてログアウトすることにする。
―――
いつもなら十時くらいまで寝ているのだが、今日は昨日やり残した事をする為に、八時には起きてゲームにログインする。
「とりあえず昨日手に入れたスキルの効果の確認をしないとな。一度使ってみるか」
〈極限集中〉を使用すると、説明文の通り時間の流れが遅くなる。思考速度は普段の時と変わらないのだが、身体の動きは時間の流れとともに遅くなっていた。
まるで世界が止まっているように見える。
「これは思考を加速させるスキルなんだな。これだけゆっくりと周りが見えたら、いつもなら躱せないような攻撃でも冷静に対処して躱せるかもしれない」
少しの間使っていると、目や鼻から血が出てきたので慌ててスキルの使用をやめる。
おそらく思考速度が加速されている状態に脳が耐えきれなかったのだろう。
体感時間的には5分間くらいだったのだが、実際には1分間程しか経っていなかった。
「これは使える場面が限られるな。体力も減っているし、本当にやばい時にだけ使おう。」
結局気配察知系のスキルの手に入れ方が分からなかったので、ネットで調べてみることにする。
攻略サイトを見てみるのだが、まだ発売して間もないゲームなのであまり情報がなく、そのようなスキルを手に入れているといった報告はなかった。
まぁもし手に入れている人がいたとしても誰にも言わないとは思うが・・・。
仕方ないので気配察知系のスキルを手に入れる事は一旦諦めて、もう一つ欲しかった回復系のスキルの手に入れ方を調べる。
調べてみると、回復系のスキルはスキルポイントでは獲得出来ず、無意味な殺傷をした事のない人が善行を重ねる事で、手に入れる事が出来るらしい。
なので入手出来る人が少なく、ヒーラーの人は大変重宝されるようだ。
「俺はもう既にかなりPKしてしまってるし、回復系スキルの獲得は厳しいな」
結局その後何もスキルが手に入れられないまま、12時半になってしまう。
そろそろイベントが始まる時間なので、止むを得ず始まりの街の広場へと向かう事にした。