7話 上級者エリア
ルインが向かったのは上級者エリアの中でも出てくるモンスターが弱い方のエリアであり、どちらかというと中級者向けのエリアであった。
もちろん周りのプレイヤー達の中に強そうな豪華な装備を身につけている者などはいない。
このエリアは草木がほとんど生えておらず、岩だけが沢山ある岩石地帯であったのでかなり見通しがいい。
「このエリアなら他のプレイヤーやモンスターの姿を確認しやすいから、攻撃もしやすいし、奇襲を受けることもなさそうだな」
どこかいい狙撃ポイントがないか探しながら歩いていると、岩陰に隠れていた盗賊達がルインの前へと姿を現す。どうやら今のレベルの〈存在感希薄〉だと生産職でもなければ、目の前を通れば普通に気付かれるようだ。
「げへへ、あんちゃん、あんたが今持ってる物全部ここに置いてって貰うぜ?」
「嫌に決まってるだろ、それに俺今何も持ってないぞ?」
「何か良い物を持ってる奴は大抵みんなそう言うんだよ! かかれ野郎ども!」
本当に何も持っていなかったのだが、どうやら信じては貰えなかったらしい。
ボスらしき男の命令で六人の部下達が一斉に襲いかかってくる。
昨日八つの頭がある蛇と戦ったルインにとって、六人同時に相手にする事など大した問題ではない。むしろイベントの練習になって丁度良いかなと思っていた。
しかし、相手の動きが酷すぎる。構えからして隙が多く、振りかぶって斬りかかろうとしてくる時などはさらに隙だらけだ。
「まるで攻撃して下さいって言われてるような感じだな。でも困ったな、これではイベントの練習にすらならない」
呆れてしまい、攻撃もせずにただ避けてばかりいると相手の部下の内の一人がこんなことを言いはじめる。
「兄貴、あいつ俺達に手も足もでませんね。しかも雑魚武器の銃を装備してくるなんて、良いカモですよ」
「そうだな、レベルも低そうだしそれに銃なんて使ってる奴が俺らに勝てるわけがないだろ」
ルインはその会話を聞いて少しイラッと来たので、自分の周りを取り囲んでいた六人を一瞬のうちに片付けてしまい、先程の会話をしていた二人の元へと向かう。
「お前らさっき好き勝手言ってくれてたよな? 覚悟しろよ」
「ひぃ! 兄貴あいつ何なんすかあいつ、急に・・・」
言葉を最後まで言い終える前にルインの放った弾によって頭を撃ち抜かれる。
残りはボスらしき人物一人だけだ。
その男は他の奴らに比べるとまだほんの少しだけマシだったが、他が酷過ぎただけで、その男もそこまで強いわけではなく、ルインの相手ではない。
ルインは容赦なくその男の頭を撃ち抜く。
盗賊を全て倒し終え、インベントリの中を確認すると、かなりの量の素材が手に入っていた。
「あいつら意外と素材持ってたな。てかあれに負けるとか他の奴らは何してたんだ……。まぁ初心者がノリでくることもあったんだろ」
そう結論付けて他のプレイヤーを倒すために目の前にある大きな岩に登る。
ルインから200〜300m程の距離にいくつかのパーティーがあった。その中には「パーティーに入れてくれないか?」と声をかけた所もあった事に気づいたが、躊躇いなく倒していく。
相手に気付かれない距離から銃を撃っているので、パーティーはどこから攻撃されているのかも分かっておらず、仲間が急に倒れた事に大変驚いている。
すぐさま戦闘態勢をとってはいるのだが、どこから攻撃されているのかも分からない状態では何処を守れば良いのかも分からず、なす術なくやられていく。
スコープを覗いて見つけられる距離にいるプレイヤーは全部倒したのだが、倒したプレイヤーの数は二十人ほどだ。
このエリアに到着した際にはもっと多くの人がいたので、エリア内にまだまだ人が居るのだとは思うが、少し待っていても誰もここに近づいてこない。
「多分この辺りに盗賊がいるという話が広まってみんな近づかないようにしてるんだろうな。でもこのままじゃ俺も攻撃できないし、移動するか?」
移動しようと思い立ち上がったのだが、移動なんてしなくても良い事に気がつく。自分の視力が良くなれば良いだけのことなのだ。
早速そんな様なスキルは無いかと探し始める。すると、すぐに〈視力強化〉というスキルを見つけた。スキルをタップして詳細を確認する。
〈視力強化〉
【効果】MPを一秒毎に任意の量だけ使って視力を強化できる。使うMPの量によって見える範囲が変わる。
試しにMPを一秒間に一ずつ消費して、視力を強化してみると、今まで300m先くらいまでしか見えなかった物が400m先くらいまで見えるようになっている。
「よし! これならいけるな。そろそろ狩りを再開するか」
その日はMPが尽きるまで周りにいるパーティーを潰し続けた。MPが無くなった上、そろそろ良い時間であるのでログアウトしようとしたのだが、どうやら上級者用エリアからはログアウトできないようだ。
一度始まりの街まで戻ってログアウトする。
今日のことが原因でネットの掲示板でルインのことが大きな話題になる事などルインには知る由も無かったのである。