1話 プロローグ
上村悠は今日発売のゲーム「フリーダムオンライン」を買いに来ていた。
このゲームではゲームを始める前に1週間腕輪をつけて生活することによって、実際の生活の様子から本人に合ったユニークスキルを一つ手に入れることができる。
そして、最終日に行う体力テストとIQテストによって能力の初期値が決まる。
もちろんそんなことをせずに始めることもできるのだが、その場合はユニークスキルを貰うことができない。
ユニークスキルは始める時にしか手に入れることができず、普通のスキルとは強さが違う。そしてユニークスキルの最大の特徴はレベルがあることである。
レベルを上げることでユニークスキルの効能が上がっていく。そうなればもう普通のスキルとは別次元の強さとなるのだ。
「こんな面白そうなシステムやらない訳にはいかないだろ」
1週間、その腕輪をして過ごしたのだが、その1週間は本当に何もなかった。人に話しかけられることも先生に当てられることもなかったのだ。
その結果自分に与えられたのは存在感希薄というスキルだった。
「俺が根暗だって馬鹿にしてるのか? AIのくせに・・・。まぁスキルが強かったからいいけどな」
このスキルは自分と自分が身につけているものが発する音を軽減すると同時に、自分の存在感を薄くし相手に認識されにくくするスキルであった。
スキルを貰ってまず初めに考えたのは、どんな戦闘スタイルにするかということであった。
このゲームには普通のゲームなら存在する職業というものがなく、どんな武器や防具でも装備することができるのだ。なので武器の使い方や能力の振り方次第で自分好みの戦闘スタイルを作り上げることができる。
さらに職業に縛られないので、たとえ今まで生産職をやっていたとしても、明日から突然前衛をやるなどということも可能なのだ。
このようにかなり自由度の高いゲーム性で、あまりゲームをしない悠がこのゲームを買う最大の要因となった。
このスキルはどんな戦闘スタイルであったとしても使い勝手が良さそうなので、やはりかなり当たりの部類であると言えるだろう。
「このスキルを最大限活かせる戦闘スタイルはアサシンやスナイパーといったところか? 正直身体能力には自信ないしスナイパーの方が俺には向いているだろう」
スナイパーライフルだけでは近距離には対応することはできないため、ハンドガンやショットガンなどといった銃全般を使っていくことにした。
まず初めにキャラデザインをする。その方法には二種類あり、実際の顔や体に近いものを使用するか一から自分でキャラメイキングをしたキャラで始めるかだ。
後者は主に自分の顔や体にコンプレックスを抱えている人や顔バレしたくない人が利用するらしい。
一からキャラメイキングをするのは時間もかかるし大変だ。それに悠は意外と自分の顔を気に入っていたので、リアルフェイスに基づいたキャラを作ることにする。
次に名前を決める。悠はルインという名前にした。
この間、英単語帳に出てきた”ruin“という破滅させるという意味の英単語を見てから次にするゲームのプレイヤーネームはルインにしようと決めていた。この名前は意味も響きもカッコよく妙に厨二心を揺さぶったからだ。
目を開けて辺りを見渡すと、すでにたくさんの人が街の中を歩き回っている。
「とりあえずインベントリの中身と自分のステータスを確認したいな」
落ち着ける場所を探すために地図を開く。普通は行ったことのないエリアは地図に表示されないのだが、この街から行けるエリアだけは表示されていた。
このゲームでは死亡すると素材アイテムとお金の一部をロストする上に、PKも可能な上級者用のエリアと死亡ペナルティがなくPK禁止である初心者用エリアがある。
とりあえず初心者用のエリアに行き、周りに人がいなくて、モンスターの出なさそうな所を探して腰掛ける。
インベントリには初心者用の武器一式と防具一式、HPポーションやMPポーションが入っていた。その中からスナイパーライフルと防具一式を取り出して装備する。
インベントリの確認が終わり次に自分のステータスを確認することにした。
〈プレイヤーネーム〉ルイン
〈レベル〉1
〈ステータス〉
【HP】:230
【MP】:80
【賢さ】:120
【物攻】:80
【物防】:60
【魔攻】:50
【魔防】:60
【速度】:110
【器用さ】:100
自分の能力値が高いのか低いのかは他の人の能力値を見たことがないので分からないが、こういうゲームの場合は基本的に技術と武器の性能が大事になってくるので、別に低かったとしても大した問題では無い。
「それよりも器用さと賢さって何に役立つんだ?正直どの能力に影響を与えるのかさっぱり分からないんだけど」
調べてみると賢さは魔法を覚えられる数と生産職が設計図を考える際に影響があり、器用さは生産職が作り出す装備や武器などの性能に影響を与えるらしい。
「ある程度準備も整ったし、そろそろモンスターを倒しにいくとするか」
そう言って歩き出した。