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雨上がりに出会った君は。─2

 恐ろしい景色。

 何が恐ろしいかと言うと、 私の幼き頃に起こった事件を思い出すからです。


 ──数年前……十数年前らしくて私はまだ5歳にもなっていなくてあまり覚えていない。

 ある日、 今日と同じかそれよりも強い大雨がこの町に降り注いだ。

 それは1日で止む事無く、 日に日に強さを増していった──。


 大雨が止む数時間前に、 この町に聳え立っていた大きな山が土砂崩れを起こし……この町は埋め尽くされてしまった。

 そんな事が起これば到底人間など短時間でこの世を去る事になる──でも救助隊の懸命必死な活動により、 9割の人間が生存する事が出来た。

 だから今もこの町には人が居る。


 ──だけど私は、 この町に居たのに何も起こってない(・・・・・・・・)


 土砂崩れの直後、 私は迫り来る土砂から目を瞑りそのまま座り込んだ──けど、 私に土がかかる事は無かった。

 目を開けると、 一粒の雫が目の前で浮いておりそこから半径3メートル程の範囲に土砂が遮られる様にしてあったのです。

 ぽっかりと空いた穴の中、 私は泣く事はなく喚くように叫び続け数十分後救出された。

 ──今でもあの雫は何なのかが不明。


 ちょっと脱線しましたが、 私が恐ろしく思っているのは……私から家族を奪った、 というところです。

 気づいた方もいるかも知れませんが、 現在家には3年前から飼っているマモルしか居ません。

 ──母達は、 その土砂崩れに巻き込まれ死去してしまいました……。

 雨を見て、 悲しくも恐ろしくも身体が震えるのは、 それが1番の原因なんです。


「ほら、 また上の空」


「あ、 ごめん」


 ハンバーガーと飲み物を持って来てくれた恵夢は私の顔を無理矢理自身の方へ向けた……いや痛いんですけど。

 あと、 恵夢は土砂崩れの時どうしたのかな? 聞いた事無いです。

 聞きたく、 ないし。


 私は手渡しされたハンバーガーを無我夢中で頬張り続けた──そしてむせた。

 皆さん忠告します。 ハンバーガーがゆっくり、 ちゃんと噛んで食べましょう。 苦しいです。

 飲み物飲まなきゃ。


「あんた本当はバカでしょ」


「恵夢には言われたくない」


 人の注目を浴びながらも、 私達はお互い無表情で笑っていた。

 ♢

 あ、 そうだ皆さん知ってました? 無表情で笑うのって、 不気味な顔して笑うよりも恐怖ですよ。

 ──私達はこれ以上注目を浴びたくないのですぐ食べ終えて出て行った。


「じゃ、 また来週ね」


「うん、 またね」


 大雨でよく聞こえなかったけど一応挨拶をして私達は別れた。

 何で来週かって? 今日は金曜日で、 次は月曜日だからですよ。

 私は家の方向へ振り向くと、 足を止めた──いや、 止める事になった。


「雫……」


 私の目の前には、 あの時(・・・)と同じ様に浮いた一粒の雫が有った。

 その雫はまるで私には気付いていないみたいな孤独な雰囲気を纏い、 濡れない筈の雨に濡れている。


 雨が、 雨に濡らされている──?

 どういう事でしょう……。


 その雫は1秒に1ミリ程度、 少しずつ地面へと降り立っていく……いや、 遅いんですけど。

 私はそんな不思議な景色に目を奪われていて、 雨に晒されている事すら気にも留めなかった──何せ、 10年以上経って漸く再会出来たのだから。


 雫の下は不自然に水が集まり、 直径1メートルくらいの小さな(?)水溜りと化した。

 そしてその雫が水溜りに溶けていく────。

 その瞬間、 淡い水色の光が水溜りから放出された。


「えっ……!? 」


 神々しくはない……ただただ光を発するそれに目を塞ぎ、 私は傘を手放してしまった。


 ──が、 不思議と濡れなかった。

 それもその筈。 その光が、 傘を握っていた(・・・・・)から。


「嘘……」


 私の面前には、 身長がかなり高い水色の髪をした男の人が立っていた──。

 嘘……ですよね? 私の見間違いじゃなきゃ、 水溜りが変身した(・・・・・・・・)んですけど……。


「何が嘘だ。 お前の眼は嘘が立体的に見えるのか」


 ……どうやら本当らしいけど、 多少的外れな事を言ってる気がするのは私だけでしょうか? 他にも居てくれたら嬉しいな。

 雫が、 雨が、 人に変わった……て言うか、 水色の髪の毛なんて初めて見たんですけど。

 似合わない気もする……。


「えっと、貴方は……何ですか? 」


 傘を受け取り、彼に差しながら聞くと鼻で笑われた──私の嫌いなタイプ。

 上から目線な人って嫌いなんですよね。

 ♢

「俺はまあ、 雨の妖怪とでも言っておくか。 そして名前はお前が付けたんだろう」


「……は? 」


 名前を私が付けた? 貴方は私の子供ですか? そして私は貴方の母親ですか? な訳無いでしょ、 私まだ15歳ですから。

 背丈外見的に貴方私と同い年くらいですよね。

 ……妖怪?


「妖怪……!? 」


「いや、 名前それじゃねぇぞ」


 私は妖怪って言葉に漸く気づき、 ザリガニも驚きの勢いある後ろ跳びで彼から後ずさった。

 いやだって今妖怪……あと別に名前言った訳じゃ無いんですけど、 貴方バカですか?


「俺の名前は『シズク』だろ? お前が散々呼んでたじゃねぇか」


 ほう、 分かりましたこの人バカです。

 シズクじゃなくて雫って意味で言ってたんですよ。 雫って、 雨粒って意味で言ってたんですよ。

 皆さん、 この人バカです──ダメだ周りに誰も居ない。


「見える位置で人間化する訳ないだろ。 お前はバカか」


「貴方には言われたく無いんですけど」


 私今日どれだけ人にバカって言われるんだろう。 そもそも言ってる事的には相手の方がおバカさんだと思うんですが。 心から。

 私は水が滴る彼を見て溜息を吐き、 相合傘の形で彼を傘に入れてあげた。

 入れてあげました、 仕方なく。

 一応、 身長がかなり高いのでもってもらいました。 あ、 私かかる。


「ここで立ち話も何なんで……いや馬鹿げてるんで、 家来ますか? 」


「勿論だ」


 何でこう……上から目線なんでしょうかこの人。

 とーってもお腹が立ちます。 起立してしまいます。

 ──偶に脚を軽く蹴りながら、 私は自宅へ彼を連れて行った。 別にいいですよね? だって妖怪ですもん。

 ……むしろ危険ですかね。


「意外と広い家だな」


「本当だったらここに住む人間は居なかったんですけどね」


 十数年前、 私が助けられていなかったらそもそもこの家も無事では住んでいなかった。

 ──あれ? 何で半径3メートルの筈がこの家まで助かってるんだろう。 今更だけど。

 世の中不思議な事も有るものですね。 代表的なのが目の前に存在していますが。

 身体勝手にバスタオルで拭いてるんですが。

 一応乙女のなんですが。

 私は再度彼の脚を蹴った。

 ♢

「お前さっきから何してんだよ」


「いや別に」


「そりゃねぇだろ」


「いや別に」


 私が永遠に『いや別に』攻撃をしていたら諦めてくれたらしく、 身体を拭いたバスタオルを渡してきやがりました。

 自分で洗濯して下さい。

 まあ、 とにかく私は気になった事を聞くため彼を部屋に招き入れた。

 何かじろじろ見てますけど、 特に何も無いですよ。


「これが……女の部屋であるべきか? 」


「何ですか、 文句あるんですか? 勉強用の資料しか無いのが何か悪いんですか。 そもそも貴方に人間の何が分かるんですか」


「いや人間で部屋中勉強道具は珍しいと思うわ」


 そうですかね? 高校生や中学生……特に受験生なんかの部屋はこんなもんじゃないですかね?

 ……違います?


「貴方について教えて頂きたいのですが」


「ああそうだな」


 彼はお茶を勝手に持ってきて飲み始めたけど、 私は敢えて反応しない事にした。

 反応したら、 ちょっと怒りが顔を出しそうなので。


「俺は雨の妖怪だ。 そしてシズクという名だ。 お前が付けた」


「もう聞きました」


 この人はやっぱりおバカさんなんじゃないでしょうか? ほぼ確定だと思うんですけど。

 ほら、 マモルが大笑しています。

 マモルが笑う時は大抵人をバカにしてる時なんですよ? 知ってました? 知る訳ないですよね。

 てかさっさと説明して下さい、 お風呂行きたいです。


「俺はお前を守る為にこれまでも生きてきた」


「何でですか」


 私が素早く質問すると、 彼は額に掌を置いたポーズのまま固まった。

 いや、 早くして下さいよ。 おトイレ行きたいです。

 そして再起動すると、 気を取り直す様に咳払いをし、 格好を付ける。

 何だろうこの人……て言うかこの妖怪。

 妖怪と私話してるし、 妖怪が私守るとか……。


「何というか、 お前に……こ、 恋を、 してだな……」


「何でですか」


「……」


 彼は惚けた様な表情で私を見下ろして来る。 何かいけない事でも聞いたんでしょうか? 私。

 ただ、 何故私にどうして何がきっかけで恋をしたのかを聞いてるだけなんですが。

 そして恐らくこの人会うのは2回目ですよね?

 ♢

 何故か言おうとしないですけど間違い無くあの土砂災害の時の雫さんですよね? 話聞かなくても分かりますけど。

 て言うかそれをちゃんと受け止め切れてる私自身が凄いんですが。

 妖怪って、 もっと恐ろしいものかと思ってましたし。


「一目惚れだ! 」


「幼女にですか、 終わってますね」


「……」


 再度黙る彼は、 先程の惚けた顔とは別で明らかにバカにしている。

 何ですか、 正論じゃないでしょうか? 世の中の常識を考えてみると。

 彼はまたまた格好つけた様に顔を手で覆うと、 私の肩に手を回してきた。


「愛があれば常識なんて必要無い。 そもそも年齢など関係無い、 俺に人間の常識など関係無い」


「この際セクハラとかはどうだって良いんで、 とにかく人間となっているなら人間の常識は関係するかと」


「……」


 何回黙るんでしょうかこの人。

 しかも下唇を噛んで血が出てるし……そんなに悔しいんでしょうか? セクハラを許してあげた事くらい良く思って欲しいくらいなんですが。

 て言うかこの手はそのままなんですね。

 セクハラはどうだって良いと言ったから調子に乗ってるんでしょうか?

 長いです。


「とにかく、 これからは人間として生きる。 ここに住む。 お前を守る! 」


「ちょっとレンガ積んでくるんで、 それに頭叩きつけて1から考え直してみては如何ですか? 」


「度によっては死ぬからなそれ」


 だって、 話がおかしいじゃないですか。

 何でわざわざ人間になる必要が有るんですか、 てか何で簡単になれるんですか。

 そして1番おかしいのはここに住むって所です。

 まだ他の2つは良いですよご自由です、 でもこれは違いますよね? 何勝手に決めてんですか。

 ここは私とマモルだけの家ですし、 貴方の為の食事なんて有りませんし。

 部屋は有りますが。


「人間にならないと、 俺は雨の日にしか活動出来ないんだ。 しかも降ったり戻ったりするだけだ。 一目惚れした女を守りたいのは当然の事だろう。 そしてそれを1番出来るのは1番近くに居る事だ」


「やっとしっかりとした答えが聞けたような気がしますが、 余計なお世話です。 今更守ってもらう必要も有りません」


「お前冷たい奴だな」


「体温は平均的にあるので大丈夫です」

 ♢

 何でこの人なんかの為に……あ、 そうだ。


「もしかして恩返しが欲しいとかですか? でしたら私に出来る事は有りませんお引き取り下さい」


 私がそう言うとシズクさんはぴたりと止まり、 まるで今考えた様に取り乱し始めた。

 うわ、 何か余計な事まで言ってしまった気もするんですが。


「そうだ! 恩返しをしろ! そうだな……ここに住ませてくれるだけでもひとまずは良いだろう」


「フライパン熱々に焼いて来るので待っててくださいね」


「蒸発するからやめろ」


 いちいち何でこうも上から目線じゃないと話せないんですかね、 この人。

 私のことを見てきたのなら、 私がどういう人間なのか多少は分かると思うんですが。

 それと、 10年以上も経ったのに今更その原因である雨粒にするお礼なんて無いんですが。

 そもそも雨が降らなければ私の家族は居なくなりもしなかったんですから。

 それを、 しっかりと解って欲しい……それが私のお願いなんですが。


「お前の親達……守れなかった。 それは本当に申し訳ないと思っている。 俺なんかじゃその傷を癒せないのも分かっているんだ」


「何か、 分かったように言ってますが……貴方は私の親を助けようとしたんですか? 」


 シズクさんは深く頷き、 自分の身体が1つしかなかった事を悔やんでいるようです……いや、 基本的に通常の生物は肉体1つです。

 ゲル系の生物とかじゃ無い限り。 多分。

 私は落ち込んでいるようにも見える彼の頭に右手を乗せ、 優しく撫でる。

 何か、 守ってもらうには頼り無い人だなぁと心から感心しました。


「なあ、 守らせてくれるか? 」


「私だけじゃなく、 マモルの事も守ってくれるのなら」


 彼は再度頷くと、 自分が使っていたバスタオルを私から取り私の髪を拭き始めた──けど直後に殴りつけました。

 人が使った物で拭いたら不衛生だと考えないんでしょうか? 雨だからそんな事気にもしないんでしょうか?

 殴りますよ、 全力で。


 高そうなプライドを持ってる筈の彼は一応心中察したのか土下座をした。

 本当に、 役に立たなそうな守り人ですね。

 人じゃないですが。


「あ、 そうだ。 風邪引く前に風呂入ろうぜ」


「雨でもお風呂入るんですか。 勝手にしてください」

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