第1章 雨上がりに出会った君は
エブリスタでは一章毎に区切られていましたが、小説家になろうでは5,000文字毎に区切ることにしました。長過ぎるので。
──現在15歳。
今は4月……そう、 高校生となる入学シーズンになりました。
私は市立の高校に通う事になり、 受験も高成績で突破したかなり優秀な生徒とも言えます。
……だけど、 大雨が降っています。 マジヤバ目です。
「こんな雨の日には、 カエルがいっぱい居るんだろうなぁ……」
滴る雨を窓の内側から覗く私は、 外山 美帆。
実はかなり真面目な性格で、 先生方には頼りにされていた程の人材です。 中学校では。
高校では分かりません。
あ、 あらかじめ言っておくと、 私は表情が上手く作れないんです。 だから、 人に色々と誤解される事も多々有ります。
……例えば昔、 小学生低学年の頃。
とある男子生徒が蹴り上げたサッカーボールが本を読んでいた私の顔にぶつかりました。 結構、 勢いが良くて椅子から転げ落ちてしまいました。
因みに読んでいたのは小説で、 『アホウドリはアホじゃない』って題名で、 主人公は当然アホウドリのお話。
内容的にはアホなアホウドリがアホを治す為に色んな鳥を助けたりしてます。
結果、 アホは治らないんですが。
てか脱線しましたね、 申し訳ないです。
「美帆ー! 早くご飯食え! 」
1階でペットのインコ、 マモルが叫んでるみたい。
因みにマモルは日本語を自分の意思で話します。 有る意味最初は恐怖でした。
はいまた脱線。
で、 サッカーボールを当てた少年は一応悪いと思ったのか謝りに来ました。
勿論、 わざとじゃないならそれが当たり前の事だと思いました。
わざとだったら、 基本笑って馬鹿にするだけな人が多いですから。
そして謝罪の言葉を受けた私は心配をさせまいととびきりの笑顔で『大丈夫だよ』って返した……つもりだったんです。
いくら強がっててもやはり痛いものは痛く、 頬が引きつり笑顔が怒ってるような表情に変わっていたらしいのです。
友達が言ってたので多分間違い無いと思います。
ちなみにその友達は中学校に入る時別々になりそれから1度も会って……
「飯食えって言ってんだろこのタコ! 」
「あ、 ごめんマモル。 今行くよ」
ペットにキレられてしまったので、 この話はまた時間の空いた時にでも。 って事で。
♢
……外に出たは良いんですが、 大雨でもう行く気が出ないんですが。 しかも傘を忘れて出てきました。
いや、 傘はすぐそこの家に入ればすぐ取ってこれるんですけど。
「雨は……嫌いだなぁ」
分かりませんか? 雨の日って憂鬱な気分になるんですよ自然と。
じめじめしてるし、 濡れるし、 臭いもちょっとキツ目ですし……何より視界が悪くて体力も奪われますし。
何よりって言ったのに2つ出て来ましたね。
日本語を間違えました。
「アレ? 美帆じゃん学校行かないの? 」
「恵夢 !」
ピンク色の花柄という派手な傘を差している長い茶髪が雨に晒されている彼女は幼馴染みで、 横田 恵夢と言います。
幼馴染みと言っても、 小学4年生くらいからなんですけども。
あといくら学校が色々自由だからと言ってその傘は無いんじゃないかな。 先生に注意されるんじゃないかなぁ。
それと学校には行きます。
「いや傘持って来なよ」
「持ってくるから、 ちょっとだけ待ってて」
「ほーい」
私は家に入ると傘を探しながらマモルの歌声を集中して聴いています──アレ? 私何探してたっけ? ……あ、 傘か。
私はバナナ色でミカン柄の傘を取り出すと、 再び霧で視界が侵される雨の中へと飛び出した。
「いや派手っつーかなんつーか」
「大丈夫、 恵夢に比べたらおならでもない」
「おなら言うな」
私と幼馴染みの恵夢は一応息ぴったりで、 雨にも負けず、 風には負けてコントを繰り広げながら入学する高校へと向かう。
因みに恵夢は全国級の頭脳、 学力を持っていて実はやりたい事も無くただ単に私について来ただけらしいです。
つまり、 私と同じ高校に入学したってだけです。
何だろう……雨を見てると悲しくなって来る。
ああそうか、 やっぱり────。
──。
『えー、 これからこの学校で生活して行く上で──』
校長先生の演説が始まると、 私は集中して真剣にそのお言葉に耳を傾ける。
だって、 1番偉い人の1番聞かなければいけない言葉ですよね? 皆さんだって、 しっかりと、 聞いてるんですよね……?
私が熱心にそれを聞いていると、 斜め後ろから熱意の籠もった視線が背中に突き刺さって来た。
恵夢が見てた。
♢
「あんた……よくあんなの聞く気になるね」
「何言ってるの、 当たり前でしょ」
私が口元に人差し指を立てて言うと、 恵夢は怪訝そうな顔で硬直してしまいました。
……何かおかしな事言いましたっけ? いや言ってないと思いますね私は。
残念な事に、 校長先生のお話ものの30分程度で終了してしまいました。 中学校の校長先生なら1時間はありがたいお言葉を聞かせてくれるのに。
しっかりして下さいよ校長先生。
「ん? あ、 終わった? 」
恵夢は残念な人ですね。
成績は良いのに校長先生のお話を聞こうともせずに熟睡してしまうとは……私の努力が報われてる気がしないんだけど。
天才は天才なんですかね? 勉強してる所授業でしか見た事無いし……。
校長先生のお話で高校生活の40%が作られると私は思ってますから──アレ? 違うんですか?
──教室での自己紹介が終わると、 恵夢は早速男子生徒達に囲まれ始め私は話しかけるのを諦めた。
だって、 アレはムリですよ。
10人くらい居るもん。
そう言えば先程担任の先生のお話で部活動の事が出て来ました。 私はどの部活に入ろうかな。
ちなみにこの高校、 部活は殆ど強制らしいです。
殆どって言うのも、 家の事情身体の事情など人それぞれ有るでしょうからその1部の生徒のみは帰宅で許されるそうです。
多分、 恵夢は帰宅部だと思います。
両親共に数年前に他界し、 幼い弟達の面倒を見なくてはならないからです。
──まあ、 親が家に居ないのは私も同じなんですけどね。 まだマモル居る分マシですよ、 役には立つ事も無いですけど。
あ、 有る。 目覚まし代わり。
よく起きれるんですよ、 滅茶苦茶にうるさくて。
「ん? あっちには女子の固まりが……? 」
恵夢とは反対方向の窓際には女子生徒の集まりが有った。
ちょっと気になったので覗いてみると、 そこには顔の形が整った金髪で爽やか系の男子生徒が弾けるような笑顔で喋っていました。
──俗に言う、 イケメン……と言うものでしょうか。
でもあんなにおちゃらけた感じの人、 私はあまり好かないですかね。
授業くらいは真面目にやってくれるとありがたいんですが、 この状況見る限り女子がムリそうで……。
♢
……もっと平穏なクラスが良かったなぁ。
てか入学式前に乱れてんじゃないよ、 ですよ。
「恵夢、 私先行ってるね」
「あ、 ちょ、 ちょっと待ってって! 」
焦って準備をし始める幼馴染みを完全に無視した私はふと雨空を窓内から見上げた。
──雲で覆われた灰色掛かった空は、 静かにでは無くまるで号泣してるかの様に大粒の雫を町全体に降り注がせている。
こんな日は、 悲しい気持ちになるんです。
入学式の為、 体育館にやって来た私ですが、 早く来過ぎたらしく椅子などの準備をする羽目になっちゃいました──いやこれ新入生がやるべきじゃないと思うんですけど。
当然一緒に来た恵夢も呆れながらそれを手伝っています。 ごめん。
「あのさぁ、 あんた今日上の空じゃない? 結構。 何か有ったの? 」
「え? 」
入学式が終わり教室に戻る途中恵夢に言われたけど、 何の事だかよく分からなかった。
だって、 今日は入学式に集中していただけで別に上の空なんて事は無かった筈ですから。
私が目を丸くさせていると、 それに気付いたらしい恵夢は左手を横向きに振ってまるで否定する様な動きをした。
いや、 否定したいのは私の方なんですが……。
「いいよ、 あんたがその気じゃないなら私は気にしない。 ごめんね気を悪くしたら」
意外と分かってくれてるみたいだけど、 気にしないって、 どういう事なんだろう。
明らかに私が上の空だったって言いたいみたいな……そんな発言、 行動だよね。
私は気付くとまた雨空を見上げていた。
「うん……私こそごめん。 今日ちょっと変かも」
いつもならこんなに雨なんて気にしないのに、 今日の雨は私の脳を刺激する。
必要も無いのに、 私を自然と釘付けにする。
流石に私でも、 不自然な感覚に囚われてしまった。
でも、 今日は初めての高校生活1日目。 絶対に変な人だと思われたくないから、 あまり見ない様にしなきゃ……。
そう思いながら私はまた雨空を見てる。
背後で恵夢の溜息が聞こえた。
「ねぇ、 ちょっといい? 」
「……え? 」
私の元に、 あのイケメン男子がやって来た。
ちょっといいかどうか言われても、 今日のところは帰りたいのだけど……。
♢
「いいよいいよ。 待ってるから行ってきな」
私が目線を恵夢の方へ向けると、 また左手を横向きに振って優しく微笑んだ。
10年間一緒に居るけど、 彼女の癖が左手を振る事だと今初めて知った。
多分アレ、 去年何故か流行った意味不明な動きだと思う。
恵夢は流されやすいですからね……。
「じゃあ、 分かりました。 どこか行きます? 」
「うん。 じゃあ……校舎裏でも良いかな? ここ目立つし」
目立つという言い方は私が使うべきじゃないでしょうか。
貴方がイケメンっていう事で目立ち、 女子の刺す様な視線が彼を貫通して私に来ている。
かなり、 喋りにくい……なんて事はないけど。
「分かりました。 じゃあ行きましょう……ダメです、 雨降ってます」
「あ、 忘れてた……」
後頭部を掻く彼を見た私は、 『この人多分頭良くない』と確信していた。
だって、 大雨の音が会話も掻き消す程の轟音なのに忘れるって……。
という事で、 私達は体育館の裏(屋根付き)へと向かう事にしました。
わざわざ何で地味に濡れるしうるさいこんな場所にしたんだろう。
「えと、 用とは何ですか? 」
来る途中に濡れてしまった髪をタオルで拭きながら私は聞いた。
……あ、 どうせ帰り濡れるじゃん。
「うん、 ちょっと話がね」
「分かってます」
私はよく塩対応と言われますが、 そんなつもりはえのき茸1本程も有りはしません。
むしろ、 心から聞き入れ、 心から返事をしているつもりなんです。
何ででしょうね。
彼は少したじろぐと、 また後頭部を掻いた。
あ、 この人はこれが癖なのかな。
「あの、 喋りづらいから敬語辞めてもらっても良いかな」
「えっ、 あ……うん」
仲良い訳じゃない人に敬語を使わないのはあまり慣れていない私は、 少し躊躇ってから小さく頷いた。
だって、 最低限の会話しかした事無いんですもん。
「ありがと。 じゃあ本題なんだけど……」
彼は雨空を見上げて後頭部を掻いているけど、 その音も大雨によって掻き消されている。
何か、 よく分からない感覚。
聞こえてる筈なのに聞こえていないような……言い表すのは簡単だけどいまいち伝わらないような。
♢
「君って好きな人、 いる? 」
「います」
即答だった。
何故なら、 私にはもう2度と会えないであろう憧れの人がいるからだった。
そう……2度と会えないかも知れない……のです。
私の即答に対し、 彼は唸り顔を歪ませるけど、 すぐに笑顔で頷いてくれた。
物分りの良い人ですね。
でも何でそんな事聞いてきたんだろう?
「ごめんね、 時間とらせちゃって」
「いえ、 大丈夫で……大丈夫。 それより、 用はそれだけ? 」
「うん、 ごめんね」
……え、 そんな短く少ない質問の為だけに恵夢を待たせて私は不必要に濡れたんですか。
ちょっとショック受けました。
私はとりあえずお辞儀をするとすぐにその場を去り待っている恵夢の元へと急いだ。
何か、 よく分からない人でした。
「あれ? 案外早いね? 」
「大した用じゃなかったみたい」
恵夢は首を傾げてるけど、 私はそれに対して首を傾げた──私達何がしたいんだろう。
私は鞄と傘を手に取り、 昇降口へと向かった。
勿論恵夢も一緒に。
「んげ、 雨強くなってるし……」
恵夢の言うように、 雨は今朝よりも激しく横向きに降っている。
いや、 横向きじゃおかしいか。 じゃあ斜めに降ってる、 で。
「仕方ないよ、 行こう」
私と恵夢は共に派手な傘を差し、 4月なのに凍てつく様な冷え込みで襲いかかる雨の中を進んで行った。
雨って、 こんなにも寒いんですね。
気温は20度もあるのに……うぅ寒い。
──暫く歩いてると、 流石に雨に耐えかねた恵夢がすぐ近くに見えたハンバーガー店に入ろうと言ったので、 私もそれに賛成した。
言うところ、 雨宿りです。
「本当マジであり得ないでしょこんなのー! 」
店内で思い切り叫んだ彼女の首元に手刀を打ち込み、 席へと向かっていく。
まあ、 分かってたんですが店内は雨宿りをしてるであろう人達が大量だった。
もう座る場所が2、3箇所しか無いくらい。
いや居すぎじゃないですか?
「何食べる? 私買ってくるけど」
「適当にお願い」
恵夢にお金を渡し、 私はそっと雨水伝う窓ガラスを覗き込んだ。
外は、 自然災害に見舞われている様な景色。