流転ターニング
やはり、というか予想した通りに、はじめカフカの小説はあまり評価されなかった。
そもそもにして閲覧数が少ないのだ。せっかく投稿しているのに読まれないのは勿体ないと私は彼女にたくさんのアドバイスをした。
投稿する時間、文字数、展開やあらすじ、など。調べられる限りのあらゆる手段を講じて、カフカの小説の宣伝をした。徐々に人気が出始めてきたのは数週間してからだ。
個人的に一番問題ありの小説のタイトルが変更されないのは不満だった。今時『死んだと思ったら異世界転生してて、気づいたら世界を救っちゃった件について』なんて最高にダサいし、長すぎる。
カフカはタイトルについて、「私は菜種が読んでさえいてくれればそれでいいから、題名はどうでもいいのよ」と言っていたが、そういう問題じゃない気がする。
巷には似たような題材が溢れているし、カフカの文体は少し固く、大衆向けではないのも問題だった。それでも彼女の作品を一読した人はほとんどが虜になるし、目まぐるしい展開に固定客がつくのに時間はそれほどかからなかった。
熱心なファンからコメントをもらう度に、カフカは一喜一憂していた。
書きながら展開を考えて投稿するのはカフカにとっては苦ではなさそうだった。まるで週間連載の漫画家みたいだな何て思いながら私は彼女の創作活動に対する愚痴に付き合ってあげたりした。
『これは酷い、パクリですね』
なんて心無いコメントとにも丁寧に返信しつつ、「この人がパクリ元に挙げてる漫画、私、読んだこともないのに!」とキレるカフカは可愛かった。
「でも別にいいもん。他人にとやかく言われようが、なんだろうが」
カフカが、コンピューター室で返信ボタンをクリックしながら、横に座っていた私をちらりと見て、「菜種が面白い、って言ってくれれば私はそれでいいの」なんて頬を赤らめて笑うもんだから、私は彼女の髪をくしゃくしゃにしてあげた。
投稿は彼女の日課になった。
同時に蟹チャーハンの小説は人気になっていた。
ただ、嫉妬心が沸き上がらないように蓋を押さえつけているだけだった。
そんな風に投稿された物語はやがて佳境を迎えた。クライマックスに向けて、閲覧数は右肩上がりで、カフカも精力的に執筆を続けた。冬が過ぎ、桜が咲いて、散って、最高学年に進級した頃である。
私たち四組の女子が校庭で創作ダンスの練習をしていた時、救急車のサイレンが突然校舎に反響した。不安を掻き立てるような音にどよめきが上がる。
用務員さんが校門を目一杯まで開け放ち、救急車が敷地内にゆっくり入ってきた。校門を通過し、エントランスに横付けする。
ざわつく生徒に落ち着くようにと体育教師は言ったが、野良猫以上の好奇心を持つ中学生女子を止めることなんて不可能だった。私たちは横目で救急車を観察し続けた。やがて担架に運ばれてきたのは、黒い髪の女生徒だった。白衣を着た保険の先生が付き添っている。
遠目でよくわからないが、確信があった。
小さく息を吐き、うなだれる。
排気ガスとライラックの香りが混じっていた。
私の心情とは異なる明るいポップスが、救急車のサイレンに切り裂かれ、やがて聞こえなくなった。
「ねえ、あれ誰」「女子だ」「あ、わかった、たぶん三組の……」
すべての音が混ざり、騒音が鼓膜を震わせるが、裏腹に私の意識は遠ざかっていく。
「なんかあったのかな」
こそこそと噂話をする同級生に悟られないよう、私は静かに祈りを捧げた。
高く澄み渡った青空に、桜の花びらが舞っていた。
通学路をピンク色に染め上げた桜の花びらは、夏になるとどこにいくのだろうか。
カフカはこうして学校を去った。




