008 腕利きの弓使い Ⅰ
イスミシティにたどり着いたのは、午後二時になろうとしていた頃だった。
二人はイスミシティに入ると、最初に昼食を取る場所を探した。
イスミシティは、北はルデン山、南は港に接しており、住むにはとてもいい環境だといえる。街中は、北区、南区、東区、西区、中央区の五つに分かれており、一番治安が悪いのは西区である。西区は、そこそこのギルド本部が設置してあり、そこは縄張り意識が高く、住人たちが迷惑を受けていると噂で聞いたことがある。
二人は、イスミシティの北区にある男が経営する綺麗なレストランに来ていた。
ここのレストランは女性に人気が高く、そして、庶民的値段で提供しており、街の人達のリピーターが後を絶えない。
ここの店の料理長は、フランス帰りの日本人であり、副料理長は、元々、日本の和食料理店で修業していた日本人だと聞いている。なぜ、異食の二人がレストランを開いているのかは謎ではあるが、美味しいと評判なのは本当である。
「ここは?」
朱音が祐斗に訊ねる。
「ここはイスミシティの中で美味しいといわれているレストランだ。俺も未だに入ったことが無い」
「なんで?」
「なんでって、そりゃあ男一人でこんな店に入るなんて気が引けるだろ? 罰当たりみたいな感じだ」
「要するに自身が無かったのね」
「う、うるせぇ……」
朱音に痛いところをつかれた祐斗は、苦笑いをする。
確かにそうではあるが、店のほとんどの客が女性や家族、カップルだらけだと思うと男一人で入るっていうのは、なんだか負けた感じがする。
「ほら、行くぞ……」
祐斗は扉のドアノブを回し、店内へと入った。
「いらっしゃいませ‼ 何名様でしょうか?」
レストランの女性店員が、祐斗に訊いてきた。
「え、あ、えーと……」
「二人……」
あたふたする祐斗に変わり、ボソッと朱音が答える。
「二名様ですね」
「あ、ああ……」
祐斗は、驚いて返事をした。
(た、助かったぁああああああああ‼)
祐斗は、心の中で叫んだ。人とあまりコミュニケーションを取らないからか、初対面の人には少し緊張が走る。
「お前、何もためらわずにずかずかと人の領域に入っていくタイプだろ?」
祐斗は、小声で朱音に言う。
「何か言った?」
ギロッと、朱音は祐斗をしたから睨みつけてくる。
「いや、何も……」
祐斗は不味いと思い、目を逸らす。
店内は結構混んでいる状況だった。にもかかわらず、客に対応する回転率は良く見えた。
空いている席は店の隅っこにある窓側の二つの席のみ。繁盛しているのが分かる。
二人は席に座ると、メニュー表に目を奪われる。
「げっ、何だよこれ……」
「祐斗、これって……」
二人は眉をひそめる。メニュー表に書かれている内容についてだ。誰がこんなにカラフルなメニュー表を考えたのだろうか。物凄く気になる。
「おい、こんなの聞いたことねぇーぞ‼」
「物理的に考えられない……。理解不能……」
「いやー、しかし、人気のある有名店だからしっかりしていると思ってはいたんだけどな……」
「人は見かけによって中身は違うって事ね」
思っていたよりも凄すぎて、二人はテンションがダダ下がりになっていた。
しかし、それが客に受けていることは間違いない。
二人は、何を食べるか真剣に悩み始める。
「ん? あれは……」
厨房の奥にいた男が、何かに気づく。
彼の視線の先にいるのは小さな可愛らしい少女だ。
金色のさらっとした長髪、そして、可愛らしい表情、幼い姿。
彼にとってはドストライクの少女だった。
「あ、あれは……長年生きてきて、ようやく巡り合えた! お、俺は‼」
男は、少し涙目になりながら感動している。
(この衝動が抑えられん!)