楓の日常
今回は殺伐としてないです。
更新遅くてすみません。
この前殺したヤクザの組長は、人身売買を行っていたらしい…
マネジャーの話を移動中の車の中で聞きながら、楓は、つまらなそうに欠伸をした。
「どうでもいいわ。んなこと。金を払われたから殺った。それだけだろ。」
眠そうに目を擦りながら、ぼやく。楓はヒーローではない。正義でもない、そう、自覚している。
(どんな理由があれ、手を汚した時点で、わたしは、悪人だ。)
楓がそう考えるのは、知っているから。正義を名乗る者が、最も残虐になれることを。
人は、自分が正しいと思ったら良心という枷が
外れてしまうことを…
だから、自分に言い聞かせる。お前は悪だと、自身を責め苛め、と。“相手が悪だから殺す、正義の味方”にだけはならない、と。
(イヴァン…)
ふと、脳裏にうかぶのは、かっての友…いつでも”正しさ“を求め、そのために人を殺した友の姿。
(悪を無くすのが正義、か。それで自分がそっち側に行ってりゃ世話ねーだろ)
楓は苦笑する。
マフィアを刺し、楓の前から居なくなった、友逹だった男、その後、沢山の凄惨な死体の山を作った男。楓はいま、彼がどこにいるのかすら知らない。
(今頃どっかで野垂れ死んでっかな。って、殺しても死なねーか、あいつは。)
楓が物思いに耽っていると、フロントガラスに巨大なドームが見えてきた。10000人は入りそうな巨大さである。
「着いたわよ。」
楓はそのドームを見て顔をしかめる。具体的には、その上部を
「おいおい、天井開いてどっからでも撃てるじゃねーか。この前の狙撃手が襲ってきたらどうすんだ。」
この前の狙撃手…楓の獲物を奪った憎き因縁の相手である。やつならここは絶好のスナイプポイントだろう。
…無論、観客席からも撃てる。発覚さえ恐れなければ、だが。
「そんなこと言ってたらどこでも危ないじゃない。警戒はしとくからがんばって。」
いや、確かにスナイパーならいつ、どこでも楓を殺せるし、警戒しても無駄、というのは解るのだか、それでもちょっとは心配しろよ、と。このマネジャー、鬼か?
楓はマネジャーを半目で睨みながら、
「活動休止は…ねぇよなぁ。はぁ…わかったよ…」
渋々了承した。マネジャーには逆らえない。
ただ、今夜は絶対に寝かさない、と誓うのみであった。
「「楓ちゃあああん!!」」
怒号がドームを震わせる。満員御礼。今日も楓のライヴには沢山のオタクたちが集っている。
「ありがとおー!!わたし、皆のためにがんばる!!」
玉の汗と愛想を振り撒きながら、怒濤の勢いでセットリストをこなしていく。
(あー…きつい。体力はさんざ格闘で鍛えたからなんとかなっけど精神がもたん…)
…ヤローに囲まれているせいでやる気はないが。こんな心の声を聞いたら…(以下略)
(唯一の救いは最近は女の子のファンが増えてきたってことか。)
会場に目を巡らすと、ちらほらと女の子の姿が見える。そのときだけ。楓は心からの笑みを浮かべる。というかニヤケる、楓はガチレズなのだ。
(オホッあの娘、いいオッパイ。84㎝!!)
訂正、ガチクズなのだ…てか中身がおっさんなのだ…
一瞬で女の子の胸囲、というかスリーサイズを測れるレベルの変態ともいうが。
「みんなぁー!次の曲は皆のリクエストに答えて『オーシャンサマー』だよー!!」
楓の一番の人気曲で場を閉めて、今日のライヴは終わった。
(結局、無事に終わったな。頭がぶっ飛ぶ事もなく。)
ライヴ後の握手会で、ファンの一人と握手しながら、楓はそんなことを考えていた。
…心なしか女の子との握手の方が長い…
そんな風に楓が男女差別しながら握手していると、とんでもないのが現れた。
額にバンダナ、厚いレンズのメガネ、チェックシャツ、背にはリュック。…モロである。
そんなモロオタクにしか見えない、女の子にモテることを一切捨てた武士…そのファンに、楓は…
いきなり、強く抱きついた。




