かくとうぎ?
感想、ご指摘、お待ちしてます。
「楓ちゃんはさぁ、格闘技とか興味ないん?ないんやろうなぁ。女の子やし。」
テレビ番組の収録後
楓に話しかけたのは筋骨隆々とした男だった。
「…ええと、かくとうぎって、ちょっとこわくってぇ。」
その媚びるような声音の返答に男の顔が締まりを無くす。
キモい。なまじそこそこイケメンなので余計腹が立つ。
この男は近頃人気の鍵村敬二という格闘家らしい。なんでも今まで一度も負けたことがないとか、KO勝ちのみでここまで来たとか。一部では最強の男などと言われている。
(ナンセンスだな。)
楓は心の中でそう呟く。
楓が生きる世界は負ければ死ぬし相手を殺し損ねたら自分が死ぬ、そういう世界だ。それに慣れた楓にとっては負けないのもキッチリ止めを刺すのも“当たり前”なのだ。
(そもそも負けても生きていられる世界で一位でも強いとはいえんだろ。)
楓からしたら鍵村のしていることはスポーツであり、それが上手いからといって強くなったと思うのは間違っている。人間がどんなに鍛えようが素手よりも銃やナイフの一撃のほうが殺傷能力が高い。それを廃した時点でスポーツ。そしてスポーツでは強さは計れない。それが楓の認識だ。
「まぁしゃあない。ほなな。」
その声で楓は思考をやめ、現実に戻ってくる。
「はい。今日はお世話になりましたぁ。」
完璧な作り笑顔に送られて、鍵村は上機嫌で帰っていった。
「今回は大物よ。関東最大の組の幹部。こいつを殺れば、かなりの金が転がり込むわ。」
アルファードの中で、いつものようにマネジャーが写真を取り出す。
…よく見ればほんの少しだけ手が震えている。
それもそうだろう。相手の立場上、警備の量も質もかなりのものだということは容易に想像がつく。実際、護衛の一部には防弾チョッキを着ているものがいるとの情報もあるやくざにしてはかなり良い装備だ。しかし…
「たかがジャパニーズマフィアのトップだろ。お山の大将だ。」
楓の方はそんなことを言っている。
「凄い自信ね。足元掬われても知らないわよ?」
マネジャーは溜め息をつきバックミラー越しに楓に冷ややかな目を向ける。
「ハッハー。あたしを誰だと思ってやがる。さらっと制圧してきてやるよ。」
「そう、そこまで言うなら今回はサポートはやめとこうかしら、
貴女だけで武器の用意、おねがいね。」
「!!!!!!!!!」
広々とした日本家屋にくぐもった音が鳴る。
炭酸の蓋を開けたときのような、小さな音だ、
楓が使っているのはベレッタではない。
FN57タクティカル、5.7㎜の弾を高速で打ち出すことで貫通力と装弾数を上げた高性能拳銃だ。特に貫通力は防弾チョッキでも貫く。
銃身の先端には、減音器、つまりサプレッサーが取り付けられている。そのおかげでこれまで敵に見つけられず上手いこと奇襲、先制攻撃ができている。
(さて、このまま順調に進むといいが。)
そんなことを考えていると…
「あ。」
角を曲がった瞬間に、接敵。相手がこちらに銃口
を向けてきたところを払い、壁に押さえつける。
即座に前蹴りを腰に打ち込み相手のバランスを崩す――― と同時に57タクティカルをゼロ距離から射撃。乾いた音が2回続けて鳴り5.7㎜の弾が防弾チョッキのケプラーを貫き人体に到達、破壊する。一発目は首、二発目は鎖骨を砕き、敵の命を奪う。
「あ…あっぶねぇ、ギリギリだったぞ、今の。おもわずダブルタップしちまった。」
そう独りごちると、楓は今倒した男の銃を拾いさらに敵陣深くへとすすんでいった。