スラムドック2
二人はバラックのドアを開ける
「ただいまー、マリア。土産もって帰った…………ぞ」
帰りの挨拶の途中でカエデは口をつぐんだ。
中に入った瞬間に香る、ツンとした臭い。嗅ぎなれた血の臭いだ。
その原因は
「チッ手こずらせやがって、これでもう娼婦としちゃ売れねぇな」
「阿呆、どのみちカタワのガキなんざ“中身“以外売れねぇよ。」
服を血で染めた男たち、いや、その足元に真っ赤に濡れたズタ袋になって転がるーー
「ツッマリア……………」
片足のない少女。
カエデがそれを見つけてフリーズしている間に、後ろにいたイヴァンがマリアの傍に立つ男たちにAKを向ける。斜視でガリガリの男と、ふとましい体格の男である。たしか、このスラムの半分を占めるカルーアファミリーの下っぱだ。
「…………死ね」
イヴァンの発した、死刑宣告。トリガーを引き銃弾を男たちに浴びせる。轟音に連れてきた少女たちが耳を押さえて悲鳴をあげる。
男たちが絶命したあとも執拗に弾丸を撃ち込み、アサルトライフルがホールドオープン(弾切れ)になる。こうして、復讐はあっけなく果たされた。
「…………イヴァン。マリアを」
カエデは少女たちに一瞥してから茫然自失の兄に声をかける。彼の肩を引き顔をみてーーー絶句した
狂相。
そう表現するに相応しい笑み。三日月形に薄く開かれた口が言葉を紡ぐ。
「カエデ………決めたよ、僕はマフィアを潰す。まずはそのために、力を手に入れる、誰にも負けない力を。」
彼は、カエデをヒトにしてくれた少年は、このとき
獣に堕ちた
数時間後、マリアを埋葬した二人と、家から着いて来ていた三体の元食材はある酒場の前に立っていた。ウロボロスファミリー、カルーアファミリーと双璧をなすマフィアの事務所である。カルーアファミリーとはとかく仲が悪く、抗争や小競合いを繰り返している。
「まずはここに入ってやつらを、カルーアファミリーを潰す。一人じゃできることは少ないからね。兵隊が要る、優秀で、すぐに死ねる兵隊が。」
ぶつぶつとそんなことを呟きながら、連れてきた三人の少女、否。“兵隊候補“を見る親友を見て、カエデは悲痛な面持ちで呻いた
「あぁ………そうだな、相棒」
二人が一歩踏み出す。一度踏み込んだら抜けられない、魔窟へと。
過去編終了!




