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第7章 晴天なれども、激戦なり。

お待たせしました。

第7章です。

投稿不定期なのはどうしようもないので、ご了承ください。学校行事とか色々あるので...


本日は晴天。雲ひとつない、綺麗な空。ただし少し下に視線を移すのはおすすめしない。なぜならそこには、三体のオークたちと戦うセシルとユリア、二人の死闘が繰り広げられているからだ。


戦況は互角であった。

図体の大きいオークはその攻撃の溜めも長い。そのため事前動作を見破れば、容易に回避することが出来る。

ゆえに今はセシルたちが一方的に攻撃を当ててはいるが、何しろ攻撃に用いている武器は短剣。鋭く研がれた刃はオークの皮膚を切り裂き傷をつけるが、幾度にもわたる攻撃にも関わらず決定的な一撃が与えられていない。確実に体力を削ってはいるが、このままだと一気に襲われた場合の対処ができない。まさに一進一退の攻防が繰り広げられているのであった。


「くそ、やっぱり火力が足りないか…。魔力の回復には時間がかかる...。どうにかして耐えないといけないけど、新しい武器を生成するための魔力の回復までは、まだ時間がかかるし...。まずいな」


「じゃあなんで最初に短剣だすのよ、最初っからもっと強力な武器を出しておけばよかったじゃない」


「う、うっせー!お前が持てなかったら意味ねえだろ!そんなことより目の前の敵に集中しろよ!」


「あんたからそれ言われるとむかつくわね...。それなんていうか知ってる?ブーメランっていうのよ」


「なんだって...おっと!」


ユリアと話していたセシルめがけて、オークが棍棒を振り下ろす。セシルは間一髪でかわしたが、ついさっきまで立っていた地面は大きく凹み、クレーターのようになっていた。


「ほらね?」


ユリアがクスッと笑ってセシルの方を見る。


「うぅ...。狙ってるってわかってたんなら教えてくれたっていいだろ!?」


「あら、教えたら面白くなくなるじゃない」


「くそぉ...」


呑気に話しているように見えるが、この会話は敵に対して激しい連撃を浴びせながら行われている。短剣といえども剣は剣。一度では浅い傷でも、何回も同じところに当てればやがて致命傷になる。オークのうちの一体に向けた集中攻撃は、徐々にその効果を現しはじめていた。

オークの身体中の至る所についたいくつもの傷。そこからにじみ出る緑色の血。気を失いかけているのか、足元がおぼつかない。仕留めるなら今しかないといった、絶好の条件。


「よし、まずは一体だ!確実に仕留めるぞ!」


「りょーかい!」


二人が息を合わせて同時に切りかかる。

セシルは右手についた深い傷を。

そしてユリアは一度後ろに回り込んで、首筋を。


『せーのっ!』


ザクッ


切りつけたと同時に距離をとる。傷口から大量の血液が吹き出すのが見えた。まさに噴水のよう、という比喩がぴったりな量と勢いだ。

そしてオークは低い呻き声をあげたかと思うとその場に膝から崩れ落ち、そして動かなくなった。


「やった!」


クライスは思わず叫んでしまう。

交戦開始から一体倒すまでに5分もかかっているかどうか。自分たちならばこんなに素早くあいつらを倒すことは出来ないだろう。そのスピーディーな攻撃と立ち回りは、まさにさすが上級生というにふさわしいものだった。

見とれていたのは何もクライスだけではない。


「すげぇ...さすがは兄貴だな...」


セシルの弟であるギルもまた、驚きを隠せずにいた。常日頃から兄は自分とは違うとは分かっていた。得意なことも違うし、好きなことも、身長も(大した問題ではないようだが、彼からすれば大きな問題だった)。でもそのくらいだと思っていた。

しかし現実は違った。

今目の前で見た兄の立ち回りは、自分とは全く異なるものであった。ギルは一度に多数の物体で一気に仕掛ける、いわば「数」の攻撃。それに対して兄のセシルの攻撃は手数もさることながら確実に当て、確実に体力を削っていく、いわば「質」の攻撃。一撃一撃が効果的であったからこそ、兄はこんなに短時間で大物を仕留めることができたのだ、彼はそう確信していた。数より質。この観念は後にギルの運命を大きく左右することになる。


「すごいわ...。これが上級生の力ってやつなのかしら」


クラムも例外ではなかった。しかしそれまでの二人はギルに驚いたりしていたが、彼女は、彼女だけはずっとユリアを見ていた。なぜなら彼女は自身と同じ補助系の<個性>を持っており、戦闘の参考になる技術がいくらか盗めるのではないかと考えたためだ。。こうした観点からユリアを見ていたクラムが彼女を尊敬するような感想を述べたのには、主に二つの理由がある。

一つ目はギルの感想にもあった、戦闘の速さ、そして技の正確性。戦闘慣れした上級生だからか、クライスたちの戦闘とは比べ物にならないほど効率がいい。しかも彼女にとって衝撃的だったのは、本来回復役で前線で戦わないはずのユリアが短剣を持ち、肉弾戦を行っていた、ということだ。この世界のRPGなどにもいえることだが、普通回復役は前線で戦わない。体力や防御力が低いうえ、回復中は隙が大きいため攻撃を受けやすく、攻撃能力を自身の能力で高めることができないため攻撃の足でまといになりやすいからだ。ところがユリアはどうだろう。セシルから受け取った短剣を使ってオークに連撃を食らわせているではないか。その攻撃の速度や精度は攻撃系の能力を持つものと同等、いやそれ以上かもしれない。普通は向かない肉弾戦を余裕で凌ぐその能力には、目を見張るものがあった。

二つ目は連携の素晴らしさである。

確かに個々の技術が高いことは戦闘において大事なことだろう。しかしそれ以上に求められるものがある。それぞれの間の連携だ。いくら個々が強くても、協力というものを知らなければ勝利はない。能力を生かすためには連携は必須と言えるだろう。

話を戻そう。二人の戦闘能力は目を見張るものであった。しかしそれだけの能力をもってしても、オーク三体に対し無傷で戦闘を続けるのは不可能に等しい。事実、先程の戦闘中、一体のオークを倒すまでに、クラムはセシルが数回攻撃を食らってしまったのが見えていた。オークが勢いよく振り下ろした棍棒に体がかすった際にセシルが一瞬見せた苦痛の表情と、服に滲んだ血を覚えているので間違いない。見えていないだけで、他にも傷を負っていたかもしれない。それにも関わらず、オーク撃破後に再びセシルに目をやると、その体に目立った外傷はなかった。これはつまり、ユリアは自身も攻撃を仕掛けつつ、動き回るセシルとオークの動きを見切って、隙を見て回復魔法をかけていたということだ。ただでさえ時間のかかる回復魔法を一瞬でかけ終えてしまうその技術にも驚いたが、詠唱中のユリアにオークが近づかないように彼らの注意を惹きつつ、攻撃を仕掛け続けたセシルとの信じられないほどの連携がさらに彼女に衝撃を与えたのだ。

上級生二人の戦闘の所要時間は、彼ら三人との大きな実力の差が顕著に示された結果だと言える。彼らに足りていないもの、そのすべてを二人は持っている、そう感じられるほどのものだったのだ。


三人が憧れの目でセシルたちを見ていた頃。二人は既に二体目のオークの討伐にかかっていた。

仲間が目の前で倒されるのを見たオークたちはやはり怒り狂っているのか、鼻息が荒く、付近の草木の葉が大きく揺れている。すると次の瞬間、オークがものすごい速さで走り始めた。走る先にいるのはやはり、セシルとユリア...ではなかった。

オークが向かっていったのは彼らではなく、後ろの草むらから様子を伺っていたクライスたち三人の方向だった。たまたま走っていった方角に彼らがいた訳では無い。オークの持つその鋭い嗅覚は、はじめから付近にいる人間はセシルたちだけではないことを察知していた。そして目の前の二人に仲間が倒され、適わないとわかった今、彼らに必要なのは敵の頭数を減らすこと。そうなると必然的に攻撃対象はより弱く、倒しやすそうな者へ移る。それがこの場合はクライスたちだったのだ。

そして普通オークほどの巨体が走って向かってくるとなると否が応でも気づくものだが、彼らはセシルたちに見とれていたためかそれに気づかない。


「あっ、おい!お前ら!何ぼーっとしてんだ!状況を見ろ状況を!!」


セシルの怒鳴り声で我に返った三人がふと視線をあげると見えたのは、ものすごい勢いで迫り来る巨体。


「うわぁぁぁ!!」


「な、なんだ!?なんでこっちに来るんだよ!!」


「きゃああああ!!」


「全く世話の焼ける後輩達だなぁ...」


彼が逃げ惑う彼らを守るためには、クライスたちにオークが接近する前に奴を倒す必要があった。速攻が求められるこの場合、先程の戦闘の作戦は使えない。例え牽制と挑発で気を惹きつけようとしても、オーク側に戦う意志がなければ意味が無いからだ。よって彼らは先程とは違う戦術、あるいは戦法でオークを倒す必要が生じる。


「くそっ、魔力はなんとか溜まってきたけど、これじゃ大型の武器1本でいいとこだ、どう考えても火力が足りなさすぎる...」


どこかに。

どこかに火力を補う術はないのか。

<個性>の力で力を増したり、単純に数を増やしたり、あるいは...?


この時、彼はやっと気づいた。

彼自身の弟の<個性>。

それを使えばどうにかなるかもしれない。


セシルは再び精神を集中させ、今度は一つだけ、手を纏う赤い光の玉を作り出す。

そしてそれを振り下ろす。

すると光は先程よりも長い棒状に伸び、光が消えた時には、セシルの手の中には1本の剣があった。1m超くらいの大きさだろうか、結構大きめだ。


生成が終わると、彼はギルに向き直って叫んだ。


「おい、ギル!」


「なんだよ兄さん!今逃げるのに忙しいんだけどぉ!」


「そんなこったとっくの昔にしってる!いいから黙ってこれを受け取れ!!」


セシルは近くをギルが通るタイミングを見計らって、ギルに向かって剣を投げた。

それを難なくキャッチしたギルだったが、兄からは作戦も何も伝えられていないのでどうすればいいのか分からず、ただ逃げ続けていた。

それを見ていたセシルがまた叫ぶ。


「何やってるんだよ!お前の<個性>の力でそいつを増やして相手にぶつけてやれ!!」


「なるほど、そういうことか!!なら...!」


間が少し広がった頃を見計らって、ギルはオークの方に向き直る。そして片手に杖、もう片手に剣を持つと、杖に魔力を集中させた。途端、杖と彼自身を、そして剣をも赤い光が包んだ。次の瞬間。いくつもの小さな魔法陣がギルの周りに出現したかと思うと、そこからギルが持っている剣と似たような剣が無数に生えるかのように生成されてきた。その数はどんどん増え、魔法陣がなくなる頃には数十本の剣がギルの周りに漂っていた。


「どでかい一発...くらいやがれぇっ!!」


ギルが杖を迫り来るオークめがけて思いきり振り下ろす。途端、彼の周りに漂っていた幾本もの剣が、オークめがけて飛んでいく。


ズバッ...ズババッ...


ドスッ...


肉が切り裂かれる音、剣が肉に突き刺さる音。

クライスがこの音に気づいて振り返ったとき、そこには幾本もの剣が突き刺さったオークの死骸と、その寸前に立ち尽くすギルがいたのだった。


「あ、危なかった…」


「よくやった、ギル!褒めてやる!!」


「別に褒められても嬉しくないけど…」


「まあ俺が作った武器のおかげだろうけどな!」


「...なんかむかつく...」


セシルとギルがやり取りしているこの間。正確にはギルが追われ始めてからずっと、ユリアは一人でハイオークを相手に戦っていた。

戦うにつれハイオークの体には傷が増えていき、その仕草からも疲れが溜まっているのは明白だった。


「これなら...なんとか倒せるはず...!」


ユリアも疲れこそ溜まっているものの、幸いにも外傷はない。有利な状況に違いなかった。


「ここで...決める!!」

そして、ハイオークを仕留めるべくユリアが飛びかかった次の瞬間。

ハイオークが腰から球状の物体を取り出したかと思うと、それを地面にぶつけた。


ボフンッ!


辺りを勢いよく広がった白い煙が包み込む。


「なっ!!」


慌てて煙を振り払おうとするが、短剣では無理がある。そしてユリアもまた、白煙に飲まれていった。


白煙が消えた時には、もうハイオークはいなかった。それと同時に辺りから青い粒がいくらか見え、すべて消えきった時には先程まで何も無いように見えた道の先に、クライスたちの住む「静かの村」が見えていた。


「一体あいつらは何がしたかったのかしら...」


「さあな、でも何かしら目的があったんだろう、じゃなきゃあんな広範囲に幻影なんか作らねえだろうし」


お互いの無事を確認し、再び家路についた5人。

後ろで上級生二人が話し合う中、ギルがクライスに声をかけてきた。


「なぁクライス、俺さっきオークを倒してたじゃないか」


「うん、見てたよ」


「あの後あいつの死骸のそばにちょっとよってみたんだ。そしたらあいつの死骸のそばに、こんな袋が落ちててさ…」


そしてギルはクライスにボロボロの麻袋を見せる。汚れてところどころ破けていて、もはや袋としての役目を果たせているのか怪しいレベルだった。


「なにこれ...」


「で、だ。この中にこんなものが入ってたんだけど、クライス、これなにか知らないか?」


そういうとギルは袋をひっくり返し、中から何かを取り出す。

それは黒い宝石のような石であった。しかしその中にはオークのように見える、小さな印が刻まれている。


「なにこれ。」


「あら、これ...。召喚石じゃない?」


クライスの後から聞こえた声の主はユリアだった。


「召喚石...?」


「あら、知らないの?精霊やモンスターの力が宿った石で、特別な能力や技能を得られるのよ」


「そんなのあったのか...」


「まあ学校で習うのは確か5年だしな、知らなくても仕方ねえか」


「ふーん...、で、そいつはなんの召喚石なんだ?」


ギルが尋ねると、ユリアはクライスから召喚石を受け取り、くるくると全体を見たあと、


「見る限りは何かの精霊が宿ってるみたいだけど…。使ってみないと詳しくはわからないわね…」


「じゃあ早速使ってみようぜ!!」


「いや、もうだいぶ遅くなったからな。今日はとりあえず家に帰った方がいい」


早く召喚石の力をその目で確かめたいギルを、セシルがなだめる。

確かに日は山の向こう側に隠れつつあり、あたりが暗くなっていっていた。


「そうね、今日は帰りましょ。ね、クライス」


「う、うん」


半ばクラムに押し切られるような形で返事をしたクライスはその仲間とともに、暗くなっていく空の下、家路を急ぐのだった。


この時、彼らの様子を伺っていた黒い影があったことを、彼らは知らなかった。

彼らが離れていくのをしばらく見たあと、影は闇の中に消えていったのだった。

今回は前回より長めに書いてみましたが、いかがでしたでしょうか。

もしこの分量がいいという意見が多ければ、以前投稿した分の章も分量を合わせていこうと思います。

感想で分量についてや、その他についての意見をいただけると嬉しいです。

次回までまた感覚が空きますが、気長にお待ちいただけると幸いです。

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