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Bravely Heart  作者: あんじ
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日常の風景

諸々の学校説明が終了して、我が家に帰宅する。偶然にも家が付近だった寿里と一緒に下校をする事になった。久しぶりのゲーセンや、本屋でのエロ本探しなど馬鹿らしい事もしてきた。

ここで疑問なのは、輝夜の所在だ。あいつは、学校の施設説明の時にいた女子グループと一緒にクレープ屋やらなにやらを巡っていたのを見かけた。まぁ、1人ではなかったので安心だろう。


「疲れたぁ……」


ベッドに鞄を置いて、ブレザーを脱ぎ捨ててお気に入りのジャージに着替える。黒を基調として赤の模様の入った上下のジャージ。中は真っ赤の半袖のシャツを来ている。

何を隠そう俺は赤が大好き。理由は簡単。俺の夢の正義の味方、正確には戦隊モノのレッド。これのイメージカラーだからだ。だから、制服のブレザーも赤、ランニングシューズも赤、所持品のほとんどが赤だ。

現在時刻はぴったり7時。飯時なんだが、生憎な事に俺は料理が苦手でちゃんとした物は作れない。

では今まではどうしていたのか?それはもちろん輝夜に作ってもらっていたのだ。


「輝夜に電話…はまだ一緒だったら迷惑だろうからメールか」


鞄の中から、最新モデルの携帯を取り出す。過去に一時期主流となったスマホの進化型。形はほぼ同じだが、ホログラムで空間にVRバーチャル・リアリティデータを表示するという高等技術が使われている。

メールの送信一覧から「輝夜」を選択して、キーボードで"メシを頼んだ"とだけ簡単に済ませて送信する。

すると、30秒もせずに返信が来る。


『任せて(๑و•̀Δ•́)و』


と、送られてきた。そして、それとほぼ同時にチャイムが鳴る。俺の部屋から玄関の相手は見えるようになっているため、確認するとそこには制服姿の輝夜が立っていた。

全身の毛穴が総立ちになる。まるで予知してたかのようなタイミングの返信。そして、メールと同時に押されるチャイム。

呼び出したのは俺だし怖がってるのも悪いし、両手が荷物で塞がってるようなので、下に降りて、ドアを開ける。


「め、めちゃくちゃ早いな」

「え〜そうでもないよ。元々ご飯作るために買い物して家の前まで来てたから」

「あ、そうなのか」


輝夜が俺の部屋に盗聴器を仕掛けたり、監視していたわけではなさそうだ。もしそうだとしたら、俺は恐怖のあまり発狂してたかもしれない。

キッチンに輝夜の買ってきた食材を置きながら質問をする。


「それで、今日のメニューは?」

「肉じゃがかな。ジャガイモと玉ねぎとお肉が安くて沢山買っちゃったし」

「和食か。いいねぇ、美味そうだ」


ここで輝夜は頬を染める。いつもそうなのだが理解ができない。ただ正直に肉じゃがが美味そうだから感想を言っただけなのに。


「忘れてた。輝夜、お前に渡さなきゃいけねぇ物があるんだ」

「な、なになに!?」

「ほら、これ」


ポケットから取り出したのは家の鍵。流石にやりすぎなのでは?と思うかもしれないが、昼晩の飯を作ってくれるのは基本的に輝夜なので持っていてくれると不便がないのだ。


「こ、これは?」

「ウチの鍵だ。あった方が不便ねぇだろうと思って作っといたんだ。これからは別々な時間に帰る事もあるだろうからな」

「あ、ありがとうございます!ありがとうございます!家宝にするよ!」

「いや、そんな事はしなくて良い。むしろやめてくれ。まぁ、これで安心して頼めるな」

「何を?」

「俺を起こしてくれる役と朝飯を作ってもらうの」


それを聞いて輝夜はポカンとしていた。まあそれも当たり前。それは普段、母さんの役だ。現に今日もそうだった。

だけど、明日からはそうもいかなくなった。


「いやぁ、実は今日から母さん海外に行っちゃってな、いねぇんだわ」

「日本列島内じゃなくて?」

「イギリスだとよ」

「はぁ…」


俺の母さんは記者をしている。なので、何処かによく出掛けていた。これは小さい頃からだから慣れている。ただ、父さんが死んでから海外に行くのは初めてだ。まぁ、俺を1人の大人として認めてくれたという事だろう。

一方輝夜はこの情報に対して処理が追いついていないのかまだポカンとしている。なので簡単に説明をする。


「ど、どういうこと?」

「3食と掃除洗濯の家事全般をお前に頼んだって言ってるんだよ」

「はぁ……ん?…私が!?」


どうやらやっと理解してくれたらしい。ポンコツみたいだし、他のに取り替えるべきなのだろうか?でも、取り替えれる相手もいない。仕方ないから輝夜のままだ。


「じゃあ、荷物とか持ってきてここに住んでもいいの?」

「いや、お前の家は道路挟んで向かい側にあるだろ」

「でもでも!朝起きて、ご飯作ってってやるなら一緒の方が良いじゃん!」

「まぁ、椎名(しいな)おばさん達が良いって言うならいいけど」


椎名おばさんというのは輝夜のお母さん。とても優しいのだが、どこか抜けている人だ。

そういうとジャガイモなどの食材を圧力鍋にぶち込んで、火にかけると全速力で家から出ていった。そう思ったら5分くらいして戻ってきた。ただ、その手には何かに大きな鞄と通学用の鞄があった。


「おい、まさか─」

「パパもママも大丈夫だって!これからよろしくね、(だい)くん」

「あ、あぁ、よろしく」


正直な所、思春期の男女がひとつ屋根の下で暮らすのを許してくれるわけ無いだろうと思っていた。だが、どうもどこかおかしな所で誤算を呼んだようだ。まぁ、おかしな所というのは椎名おばさんなんだが…


「部屋は、大くんのお隣さんがいいな」

「え…まぁ、いいや」

「それじゃあ荷物置いて来るから、大くん火を止めておいてくれる?」

「了解」


言われた通り火を止めておく。

すると1つ疑問が浮かんできた。先程の疑問の続き、輝夜が俺の部屋に盗聴器を仕掛けていたらという話だ。もし、今、それを行っていたら?

そう思ったら体が動き出していた。

俺の部屋は2階の左側の1番手前の所だ。

階段を駆け上がり、俺の部屋のドアを開けると真っ暗な部屋と何も変わらない風景があった。電気を付けて、くまなく探しても存在は確認できないので輝夜の盗聴器設置疑惑はこれで解消された。


「ドタバタ上がってきたけど、どうしたの、大くん?」

「いや、なんでもない。それより飯、早く食べたい」

「ん、分かった。一緒に行こ?」

「いや、下いくのに一緒も何もないだろ」

「ヤダヤダ、一緒に!」


駄々をこねる高校生は中々見ないが、放っておいたら俺の飯が無くなるので一緒に降りる事にする。

なぜ俺がここまで輝夜が盗聴器を仕掛けてるのではないかと疑っているのか。

輝夜は、俺が命令をすればメイドのように従う。とても周りを見ていて、気が利く良い子だ。

だが、それが怖い事もあった。例として賑やかに皆が騒いでいる中、俺が誰にも気付かれずトイレに行ったのだが、ハンカチを忘れてしまった。仕方なくパッパッと手を振り回して乾かそうとすると「はい大くん」とハンカチを渡してきたのだ。

こういう事が幾度となく繰り返された。そして俺は疑い始めた。輝夜は俺のストーカーなのではないか?と。

今回の1件で容疑は完全に消えて無罪放免なわけだが。

一緒に下に降りてきて、ジャガイモの硬さを確かめた輝夜からOKが出たのでご飯をお茶碗に盛り付け、配膳する。


「これが輝夜特製の肉じゃがだよ!」

「いただきます」

「はい、召し上がれ」


さすが、我が家の料理を始めて6年目といった所だろうか。俺が好む絶妙な塩加減と硬さ。これは母さんの料理に負けず劣らずの腕前だ。

美味いよという意思表示のためにサムズアップをする。

それに対して輝夜はいつもニコニコと微笑むだけ。ダイエットといって普段から夕食は余り食べないのだ。まぁ、今日は帰り道に食べ過ぎたというのもあるだろが。


「ふぁ〜」

「眠いなら先に風呂入って寝てろよ」

「一緒にお風呂入ろ〜」

「それだけは断固拒否」

「えぇ〜。それじゃあお先に」


完全に眠いから思考が停止しかけているのだろう。普段は一緒にお風呂入ろうなんてエッチな女の子ではない(と信じている)。

確かに今日は疲れただろう。入学式という慣れない行事に環境、それに新しいクラスメイトと精神的な疲れも肉体的な疲れもあるだろう。


「でも明日の模擬戦が楽しみで眠くないんだよな」


明日の1~2時間目を使って模擬戦がある。生徒会長と1年A組の入試1位の生徒近衛 忠人(このえ ただひと)によるデモンストレーションがある。俺の目指す場所、頂点に君臨する人の貴重な戦闘。これを見ない手はない。そして、いつか戦えると考えたら興奮が抑えられなかった。


「さて、風呂入るか」


もちろん輝夜が出ていることは確認済みだ。我が家で、しかも同居初日からラッキースケベとか笑えない。笑い話などにはならない。恥話だ。

シャワーで綺麗に汗やゴミを流し落として、寝る用意をする。早く布団に入らないと寝れなくて困る。寝不足で自分の首を絞めることになるのなら、早く布団に入って寝るべきだ。


「布団に潜れば自然に眠くなるだろ」


暗い部屋に入り、電気なんか付けずに布団にダイブする。ふかふかの布団と、良い感じの硬さな枕、そして柔らかく温もりを与えてくれる人肌。そう、人肌…


「んにゃ…」


暗闇の中、目を凝らしてベッドを見るとパジャマ姿の輝夜が寝ていた。

布団の上に寝っ転がり、少しズレてパンツが見えかけているズボン、上着がはだけて見える腹。大変まずい状況だ。

まさかのラストで待ち受けていたラッキースケベ。自分の部屋があるからそこに行ったかと思ったが、なんと来ていたのは俺の部屋。

俺は声にならない叫び声をあげていた。


「(なんで、ここにいるんだぁぁぁぁぁ!!)」


輝夜は俺のベッドで、俺の枕を抱きかかえてスースーと寝息をたてて寝ていた。

俺だってもちろん平均的な男子高校生並の性欲というモノを持っている。こんなに誘惑するような格好をしてる輝夜が悪い。そして、こんな歳になってまで可愛い寝顔をした輝夜が愛おしく見えてきた。


「はぁ、俺は床で寝るか」


カーペットしか敷かれていないただの床に寝っ転がって窓を見る。すぐに眠れるように星の数を数えていたらいつの間に意識というものは暗闇の中に投げ捨てられていた。


∀∀∀

カーテンの隙間から日が差し込んできたのか、顔の部分のみが熱くなっていくのを感じる。細く一点集中しているのか、誤魔化せるレベルを超えていた。なので仕方なく目を開ける。

「ん、朝か…」


ゆっくりと寝返りを打つ。寝ぼけているので、前にある物が理解できない。とにかく《《大きな何か》》があるのは分かった。


「邪魔だな…」


そう思い手を伸ばす途中、目が覚める。急速に止まっていた思考が解凍されていき、眼前の大きな物体2つの答えに辿り着く。

逆側に寝返りを打ち、そっと立ち上がる。するとそこには輝夜がいた。昨日、ベッドを占領していた輝夜が今度は床を占領していた。

ただ、昨日との状況から考えておかしな点があった。下に敷かれていたはずの布団が俺にかけられていた。という事は輝夜が夜中に起きて俺にかけたという選択肢以外に有り得なかった。結論とした、布団をかけたまま一緒に寝てしまったのだろう。多分。そうだと有難い。


「今は…5時か…2度寝しよ」


今度は、俺にかけられていた布団を輝夜にかけて、下にあるソファに体を縮こませながら寝ることにした。

多分、2時間後に起きた俺の体はガチガチに固まって起きるのが辛い状態になっているだろう。

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