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Bravely Heart  作者: あんじ
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1話「Start」

拙い文章ですが、どうにか楽しんでもらえる様に書きました。どうぞ、よろしくお願いします

最も古い記憶、それは父と公園で遊んだ記憶。砂場で一緒にお城を作っていた。自分が足を滑らせてお城を壊して泣いていたのを覚えている。その泣きじゃくる自分を慰める父の言葉。


「気にするな、大輝。壊したのは、確かに悪い事だ。でも、その人の心の痛みを分かるお前は優しい。その優しさはいい事だ。忘れるな」


今でも心の奥深くに眠る言葉。"人に優しくするのを忘れるな"

夢と自覚できる夢。普段は夢を見ないが、中々に面白い感覚だ。

そして、今の夢が終わると同時に意識が薄れていく。これが起きるという感覚なんだろう。真っ暗な夢の世界が真っ白に塗りつぶされていった。



∀ ∀ ∀

朝7時、目覚ましの音に起こされて、ベッドから身を起こす。なにか夢を見ていたはずなのだが、覚えていない。微かに、黒から白に変わるシーンだけが頭に残っている。

部屋から出て、顔を洗って歯を磨く。これまでも繰り返していた当たり前の日常を始める。

リビングに行けば、母が朝ごはんを用意してくれていた。ご飯に味噌汁とソーセージとサラダというシンプルなものだ。

それを用意してくれた母は既に仕事に出ている。

父親は、小さい頃に亡くなっているため母子家庭だ。母の手1つで育てられたのだ。


「お粗末さまでした」


食べ終わると、再び部屋に行って着替えをする。着るのは新しい制服だ。赤色のブレザーを着て、ネクタイをしっかりと結ぶ。

昨夜に用意したカバンを持って、1階の仏壇に手を合わせる。


「行ってきます、父さん」


玄関に向かうと、見計らったようにピンポーンとチャイムが鳴る。

お気に入りの赤色のランニングシューズを履いて、ドアを開ける。


「おはよう、(だい)くん」

「おはよう、輝夜(かぐや)


玄関の外で待っていたのは幼馴染みの大空(おおぞら) 輝夜(かぐや)。母が仕事で遅い時が多いので、俺の身の回りの世話をしてくれる人だ。

今日から新しい学校生活が始まる。1ヶ月前に中学を卒業して、これからは高校生。公立大鳳(おおとり)学園の1年生として、生活を始めるのだ。


「赤のブレザー似合ってるよ、大ちゃん」

「そうだろ。まるで、ヒーローの真ん中に立ったみたいだぜ!」


都市の住宅街を歩く2人。傍目からは、カップルみたいに見えるが、大輝には一切そういう感覚は存在しない。

通学は最寄りの駅まで歩き、そこからは大鳳学園前まで電車、駅を降りると目の前には学園がドンッと建っている。


「にしても、この力が目覚めてからもう10年経ったのか」


2127年、世界は1度全滅の危機に襲われた。アメリカで開発されていたウイルス『Apocalypse Evoke Virus』。通称A・Eウイルスが蔓延した。

これは、飛沫、粘膜、間接接触、直接接触とありとあらゆる方法で感染して、人を殺すウイルスとして対テロように作られていた。

これが、何者かに持ち出されアメリカに蔓延した。A・Eウイルスは瞬く間に全世界に広がった。そして、全世界の人が死を覚悟していたが、そんな事は起こらなかった。

ただ、その危機に対応すべく、ワクチンを接種していた各国の上層部や富裕層は、その突然変異に体が追いつかず死亡した。特に被害が大きかったのは日本。政府の首脳陣はもちろん、各都道府県知事や、大企業の役人達がごっそり死んだのだ。

そして起こった突然変異は、当時30歳以下の人は特殊能力と呼ばれる物が発症した。契約者(コントラクター)と呼ばれる異能発現者。A・Eウイルスに感染した99.99%が特殊能力を発症した。

そして、残りの0.01%の人々はどうなったのか?彼らは生まれつき持っていた抗体があり、抵抗者(レジスタンス)と呼ばれるようになった。彼らには、能力の強制解除(キャンセリング)や驚異的な回復力が備わっていた。


「来月で、分割条約締結から50年だって。早いね」

「そうか?俺は長いと思うが」


先ほどのお偉いさん方が死んだお話の続き。指揮を取るべき人物がごっそり死んだ日本はもちろん荒れた。そして、生き残った残りの人達は比較的被害の少なかった先進国などと、とある条約を結んだ。それが国土分割条約。

北海道、東北、関東、北信越、東海、近畿、中国、四国、九州の九つに分割して、ロシア、カナダ、日本、イギリス、アメリカ、国連、フランス、スペイン、オランダの九つの国で分割統治する事を決定した。

これは、政府や、都道府県の持っていた負債などを精算する事を条件に締結した条約だ。


「まぁ、お陰で日本人は日本人のままでいられたんだ。それに悪いことばかりじゃないしな」

「そうなんだけど…不思議な感覚じゃない?」

「不思議か…。まぁ、変な感覚だよな」


そうこうしているうちに、学園前駅に着いた。現在時刻は9時。このあと9時30分から第1体育館での入学式がある。この学園は少し特殊で、入学式にクラス分けが発表される。それも、ペーパーテストと実技試験の成績を加味された実力順に8段階にだ。

会場に着くと、後ろの方の席はほぼ埋まっていて前にぽつぽつと空いていた。

最前列にあった2つ空いている席。そこの隣に座っている赤色のブレザーにパーカーを来た男子に話をかける。


「ここ、空いてるか?」

「ん、空いてるぜ」


そういって、置いてあった荷物をどけてくれたので有り難く大輝も輝夜も座られてもらう。

そうすると、隣の男子が話しかけてくきた。


「女子を侍らせて登場とはやるな、え〜っと」

広瀬(ひろせ) 大輝(ひろき)だ。侍らせてなんかはいないけどな。お前の名前は?」

「俺は結城(ゆうき) 寿里(じゅり)だ。よろしく。そんで、お嬢さんは?」

「コイツは大空(おおぞら) 輝夜(かぐや)

「よ、よろしくお願いします」


輝夜の紹介をした時、明らかに結城の目が変わった。鋭くなった。

その理由は単純明快なものだった。


「初日からこんな可愛い女を侍らせるなんて凄いな…」

「か、可愛い!?」

「そんなに可愛いか?」

「もう、大くん!」

「冗談だ。可愛いよ、輝夜」

「ひぇっ!?」



このやりとりを見て、何かに絶望したのか結城はガクッと項垂れていた。こういう行為は周りにいた男子生徒にも影響を与えていたらしく幾らかの人達は結城同様に項垂れていた。

そして開始予定の9時30分丁度に体育館中の照明が落ちて、ステージにのみ明かりが灯される。


「おっと、そろそろ始まるぞ」

「だってよ、大くん」


両者の両脇にいる大輝は、照明が落ちた十数秒の間に寝る準備をして、リラックスをしていた。

それを見て、片やその度胸に感心すると同時に呆れた目を向けており、もう片方は、諦めの溜息をしていた。

体育館中がざわつく中に出てきたのは、生徒会長。映える金髪に、ビシッと着こなされた黒の制服。

この学園の頂点に君臨する存在。入学式でも、挨拶があるのは生徒会長のみ。学園長に出番が存在しない。


「まず、一言。おめでとう、諸君。君達は、今日から大鳳学園の生徒だ」


大輝は、挨拶は長くなると予想して寝る用意をしていたのだが、その思惑通りにならなかった。


「生徒として、1つだけ約束を守ってくれ。頂点(うえ)を目指し、この学園に入ってきたのなら獣となってくれ。仲間ですら蹴落とす、獰猛な獣になってくれ。あぁ、あと1つ。ギスギスした空気だけは作らないでくれ。和気あいあいとした、お互いに切磋琢磨する良好な関係を。以上」


そういってマイクを切って降壇していった。司会を担当している副会長は、慌てずに次の項目に移っていった。

次の項目、即ちクラス分け。唾を飲む音がいたる所から聞こえてくる。皆、それだけ緊張しているという事だ。


「では、発表したいと思います。まずA組から」


上から順番に発表されていく中、B組の始まりの時に大輝はようやく目を開ける。すると、急に姿勢を正して真剣な顔持ちになった。

付近の者は誰も呼ばれることなくB組を過ぎて行き、C組でようやく輝夜の名前が出てきた。それに続いて大輝、結城の名前も出てきた。


「なんだ、3人とも同じクラスかよ」

「結城も同じクラスとはとんだ奇遇だな」

「わ〜い、大くんと同じクラスだ〜!」


こうして入学式に2項目が終わり、各自クラスへと向かう。

始業式は入学式以前にやられて、新1年生は参加はしない。なので、あとはHRと校舎の案内だけだ。

指定されたC組の教室へと向かうと既に担任は待っていた。


「よしっ、来たな。HR始めるから早く入れ!」


担任は元気一杯、見た目ゴリラ、中身もゴリラ臭のする人だった。スーツは尋常ではないほどピチピチしているし、肌色も黒いとまさにゴリラだ。

クラス全員が席に座ると、ゴリラ(と呼ぶことにした)が勢い良く、自己紹介を始めた。


「君達の担任をする事になった、大久保 猩々(しょうじょう)だ。よろしく!」


そういうと、名簿順に指定された席に座らせられたので1番から自己紹介をするようにとゴリラから命じられた。

ギャルまっしぐらの奴や、眼鏡のガリ勉君など、とても平均的なクラスとは思えないほどに個性的だった。


「次は、そこの赤い君!」

「広瀬 大輝と申します。趣味は人助け、特技も人助け、夢は正義の味方になることです」


クラス中が、静まり返った。皆が、奇異な目でこちらを見てくるが、 中に2つほど違う目があった。1人は輝夜。これは昔から知っているから今更驚きやしない。2人目は隣にいる結城だ。なんというか、餌を見つけたハイエナのような目をしている。

この自己紹介に対してゴリラは、静かに目を瞑っていたが急に見開き拍手をし始めた。


「素晴らしい!君は、必ず正義の味方になれるよ。私が保証しよう」

「はぁ、ありがとうございます」

「はい、次!」


こうして、自己紹介が過ぎていった。ちなみに結城は当たり障りのない実に普通の自己紹介をしていた。


∀∀∀

現在は、校舎の案内をしている所だ。ゴリラを先頭に好きなように駄弁りながら歩いていた。俺は結城と。輝夜は、近くにいた女子グループに加わっている。


「なぁ、結城」

「あ、その結城ってのやめてくれ。寿里でいい」

「そうなのか?てっきり女の子らしいから嫌ってるかと思ったんだが」

「確かに女の子らしいんだが、自分の名字は余り好かないからな」

「了解したよ」


ゴリラが1箇所ずつ丁寧に説明していく。実験室や、調理室などの専門科目の教室の説明をして行き、最後の場所に着いた。

ここの生徒の最大の目的でもあり、全生徒が集まる場所。そして、学園の頂点(シンボル)を決める場所。


「さぁ着いたぞ!ここが─」


全員の注目が1箇所に集まる。古代ローマに存在したコロッセオのような形をしている近代的なドーム型の建物。

この学園の象徴とも言える、巨大な建造物。これを、皆はこう呼ぶ。


「─バベルだ!」


特殊能力で、自らの強さを示すための舞台。年に1度開催される祭りで使用される場所だ。

ここに出るためには、予選を勝ち抜かなければならない。その予選は別の実習室で行われる。

他にも月1に申請制で行われる学園内ランキング戦を決めるのもここで行なわれる。


「ここが、俺が夢にまで見た舞台」

「いいねぇ、その目。楽しそうだぜ大輝」

「あぁ、楽しいさ。ここに立つためだけにこの学園を選んだんだからな」


勉強はそこそこできる。能力はそこそこという所だ。でも、ここまで来るために努力した。

そしてその集大成が目の前にあると思うと、興奮が抑えられなかった。


「待ってろよ、バベル」


そう誓いを立ててこの場を離れる。

次にこの場所を見るのは数ヵ月後の大鳳祭。その時までのお預けとして。

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