ルームメイトのパジャマであんなことをしてたら見つかった話
私と、私の友人、朱里は一緒に暮らしている。二人とも、地元を離れて東京に進学したからだ。
ルームシェアに誘ったのは私。家賃等を抑えたいというのもあったが、一番の理由は朱里のことが好きだから!
でも、その気持ちは彼女には伝えていない。伝える勇気がない。この関係が壊れてしまうのが怖くて、伝えることができない。
「じゃあ私、買い物行ってくるね」
彼女はそう言って、家から出て行った。今、家にいるのは私一人だけ。
さて。
こうなったらすることは一つ。
「すううぅぅぅぅ。はぁぁっ、朱里の匂いがする……」
彼女が脱ぎ捨てていったパジャマを手に持ち、匂いをかぐ。いい匂いだぁ……。私はそれだけで、幸せで気が遠くなる。
私は家に一人になると、ついこういったことをしてしまうのだ。私の彼女への気持ちが、私を突き動かす。仕方ないよね、朱里のことが好きなんだから……。いけないことって分かっているけど、やめられない。
「はぁっ、朱里ぃ……」
パジャマを持って、ベッドにダイブする。私と彼女がいつも一緒に寝ているベッド。ベッドの上をゴロゴロ転がりながら、パジャマの匂いを堪能する。
「朱里、好き、好きだよぉ……」
ずっと匂いをかいでいると、興奮してきて、つい手が下腹部に伸びてしまう。私は本能に身を委ね、ただただ彼女を感じる。
「あぁっ、はぁっ、朱里……」
頭の中が朱里でいっぱいになって、うわごとのように、朱里、と繰り返す。いけないことをしているという罪悪感や背徳感が、私を更に燃え上がらせた。もう、朱里のことしか考えられない。朱里にめちゃくちゃにしてほしい。その願いは叶わないことは、分かっている……
「朱里ぃ……、ああっ、好き、はぁっ……」
朱里の匂いが頭を支配して、意識が朦朧としてくる。酸欠のようにモヤがかかった頭は、まるで朱里に責められているような錯覚を私に見せる。
「朱里っ、ダメっ、朱里ぃっ……!」
私の頭の中で、私を責め立てる朱里。もう、限界だ。なにか、白い波に意識を飲み込まれそうになり――
ガチャリ。
その音を聞いて、反射的にドアを見る。そこには、買い物袋を手にぶら下げた朱里が立っていた。
私は自分の状況を鑑みる。朱里のパジャマに顔をうずめ、右手は下着の中。とても、言い逃れできる状況じゃない。
「いや、あの、これは……違うんだよ」
咄嗟に出てきたのは、そんな情けない、言い訳にもなってない言い訳。
「ねぇ、何してたの?」
彼女はそう聞いてきた。顔を見ると、引いたような表情じゃなく、ニヤニヤと笑っている。てっきりドン引きされると思っていたが……
「その、悪いことだって分かってたんですけど……」
どんどん近づいてくる彼女に押されて、つい敬語になってしまう。そんな私を楽しむように笑いながら、言葉を続けてくる。
「悪いことだって分かりながら、そんなことしてたんだ?」
「うっ、はい……ごめんなさい」
「そんな悪い子にはお仕置きが必要かな?」
彼女はそう言うと、私の頬に手を添えて、口づけをしてきた。私がそれに反応できず、口をパクパクさせていると、「フフフ……」と笑いながら私の背中に手を回してきた。
「えっ、なにして……」
やっとの思いで口から言葉を発すると、彼女は私の耳元に口を寄せて、囁くように喋り出した。
「まさか、そんなことをしていたなんてね……私のこと、どう思ってるの?」
どうって……もちろん、好きだ。こうなってしまったら、いままで言い出せなかった気持ちを伝えてしまいたい。
ええい、どうせあんな現場を見られてしまったんだ。もうどうにでもなれ――
「朱里のこと……ずっと好きだったの……」
「そう……」
彼女が私の耳元から顔を離し、私の正面に両目が並んだ。嫌われてしまったのだろうか――そんな不安が、私を襲う。しかし、彼女の次の言葉は、私にとって、すごく嬉しいものだった。
「私も好きだよ」
「うそ……」
「うそじゃないよ」
嘘じゃないことを信じこませるように、2度めの口づけ。そうだったんだ。そんなことだったら、もっと早く告白しとけばよかった……少し後悔しながら、でも安心した気持ちで、彼女に抱きついた。
「信じられない……! 朱里も私と同じ気持ちだったなんて」
「ふふ、かわいいね。あっ、そうだ、お仕置きするの忘れてた」
「えっ」
私は押し倒され、朱里のされるがままになった。でもそれは決して嫌なことじゃなく、むしろ今までの人生で一番幸せな時間だった。
これからも、ルームシェア生活は続いていくのだろう。友人ではなく、恋人としての生活に、期待で胸がふくらんだ。