デブメガネ
「お前はそのメガネを通して何を見ている!?」
朝の教室で、シンイチは仰々しく騒ぎ立てた。いつもの光景にクラスメートたちは気にもしない。
もちろん、その決め台詞を言われたデブメガネのユウタも反応を示すことなく、スマホの音ゲーに興じていた。
「聞いてる?」
「ちょっと黙ってて、エキスパートフルコンできそうだから」
疾風迅雷の如く画面をタップする姿はまるで職人のように美しく無駄がなかった。シンイチは音楽が止まるのを待った。
「で、何?」
ユウタは面倒くさそうに顔を上げた。
「そのメガネ、常人には見えない何かが見えてるんじゃないか?」
そう例えば服が透けるとか、守護霊が見えたりとか。
「普通の近眼用のメガネだけど、かけてみる?」
シンイチは手渡された一見普通の黒縁メガネをかける。
「うおっ! ぼやけて何も見えねえ!」
「度が強いだけの普通のメガネだよ」
なぜこのような話になったかというと、ちょっと前の会話でユウタが人の過去でも見えているかのような発言をしたからだ。
「なんで俺らがラーメン屋に入ったって知ってんだ!」
「いや、シンイチならそうしそうだなって思っただけ」
「じゃあ、服の好み訊かれた時の『俺そういうのに疎いから』って言ったことは!」
「シンイチだからとしか言いようがない」
ユウタとシンイチは保育園からの付き合いがあるから、ユウタがシンイチの行動を予測できてもおかしくはない。
「たぶんシホちゃん、いつも我慢してるんじゃないの? それが今回限界に達したんだと思うよ」
シホとはシンイチの彼女のことだが、シンイチは先日のデートで彼女を怒らせてしまった。ユウタはその原因をアイドル育成ゲームをしながら言い当てたのだった。
ユウタはデブでメガネをかけていて、学ランもぱつんぱつんで顔もイケメンではない。彼女も多分いない。だがそんなユウタにも秀でているのもはある。それは美少女ゲームとリズムゲームだ。シンイチはこの学校でこの二つにおいて彼の右に出る者を知らない。
「ユウタ、お前の言うこと百戦錬磨の戦士みたいなオーラがあるけど、実は彼女とっかえひっかえしてるんじゃないか」
「ある意味、ゲームの中ではとっかえひっかえだけど三次元はしらない。まあ、シンイチみたいな男の話はよく聞くよね」
シンイチは肩を落とした。
「確かにネットでよく見るな。そういうのを反面教師にして女の子のこと考えて行動しようとは思ってるんだけど、実践になるとなかなか出来ないんだよな」
「とりあえず詫び入れといたほうがいいと思うよ、ケーキとか買ってあげて。シホちゃんショートケーキとかモンブランとか好きそうじゃん?」
「なんでシホがモンブラン好きだって知ってるんだ! やっぱりそのメガネ何か見えてるだろ!」
ユウタはため息をついて自分の眼鏡をシンイチに渡した。
「授業始まる前に返してよ」
日曜日の駅前、誰かを待っているデブがいた。デブは毎週このイベントのために、ヒゲをそり、眉を整え、髪をセットし、コンタクトをつける。服もデブなりにオシャレをする。
「ゆうくん、ごめん。待った?」
「いま来たところだよ」
やって来た女も化粧をして、よそ行きの格好だ。
「シホちゃん今日も可愛いね。そういうフリル着いたの俺好きだよ」
「ありがとう。ゆうくんが好きそうだからこれにしたんだ」
この二人はまさにカップルだった。
「ゆうくん、まず喫茶店で愚痴聞いてよ」
「またシンイチの?」
「そう! もう頭にくる!」
「じゃあ喫茶店のあとで、ゲーセン行ってストレス発散だね」
つまりはそういうこと。
シホとユウタは駅前の雑踏の中に消えていった。




