第98話(3つめ)
「僕は ここで、ロケットを作るから。待ってて、真木」
「へっ?」
「それがその2で、僕の夢。夢だから、誰にも言いたくなかったんだけどさ。恥ずかしいし、言ったら消えるかも、って思ったりしたし」
暗くて表情はボンヤリとしか見えないけれど、暗い そのおかげで空気は澄んで声はよく行き届いた。寿也の言葉の一つ一つが、とても大事に今は思える。
見えなくても、寿也の存在を離さないように しっかりと受け止めなくちゃ。
「素敵! ロケットを寿也が作るの? あたしもそれに乗ってみたい!」
あたしは興奮続行中で寿也の前で両腕をブンブン上下に振り回す。すごく、わざとらしいくらいに はしゃぐあたしを見て、寿也は やっと目に見えて笑い出した。そしてしまいには お腹まで抱えるほどに。
「あっはっはっはっは。気が早い。僕の想像の向こうへ行っちゃった。バカだけど真木、先読みできる お前はやっぱり将来りこうになる。楽しみだな。楽しみだ」
さりげなくバカと言った寿也。あたしは聞き逃さなかったわよ。
でもそれも一掃してしまうほどに、今の あたしたちには笑う以外無かった。
「いつかこの部屋で、じっくり時間をかけてロケットを作るんだ。だから ここには何も置かない。僕の夢」
夢。
夢かぁ……。
あたしも寿也の夢に参加できたらいいのに、とちょっと思うんだけれどな。
「完成したら、真木を迎えに行くよ。ロケットに乗って」
「え?」
あたしが寿也の顔を改めて見ると。寿也も あたしの方を真っ直ぐに見つめて。
何か、意志のようなものが伝わってきた。
どういう事?
「それで一緒にミルキー星に行ってみよう、真木。一緒に」
「……」
一瞬、びっくりして あたしの時が止まった。しかも、寿也の真っ直ぐな強い瞳に圧倒されっ放しだった。
あたしは強い力で魅きつけられて目を寿也から背ける事ができずにいたけれど、口元だけはニヤッと笑みをこぼした。
そして あたしがうん、と言おうとする前に。
「真木が好きだ」
と。
……言った。
「……」
……。
……あたしは危うく、ハアそうですか、と言う所だった。
聞き流す、という失態を犯す所だった。
「とし……」
あたしが ただ、何か声を発しようとだけを思って出しかけると、下の階の廊下から元気よい寿也の お母さんの声がよく響いてきた。
「 ケーキ食べましょおおぉ〜〜う〜 」
……あたしはケーキを食べきれる事ができるんだろうか。