第96話(パーティー)
あたしは、先生と。寿也の家のクリスマスパーティーに呼ばれた。
寿也のお母さんは大喜びで、あたしたちを出迎えてくれる。リビングへと通された あたしたちは長四角いテーブルについて、上着を脱いで寿也のお母さんに預けた。
あまり他人の家を訪問する事に こう見えても慣れていないあたしと先生は少し恥ずかしそうにしていた。ボロアパートの狭くて汚い所に住んでいるものだから、こんなリッチでキレイに掃除が行き届いている部屋に座っていると、何だか落ち着かなく場違いな気がしてくる。
今日はクリスマス・イブ。部屋角隅に置かれた、腰の高さまでのクリスマス・ツリーが、ベルやサンタといったオーナメントで着飾られて場の賑やかさを演出していた。
壁際にヒッソリと価値高そうな、花の装飾を施された花瓶が。
ピンク一色の、床一面の大きさで敷かれたカーペットを下に。しかもホットカーペット。
そして……。
「はあい〜。キャンドルの用意が できましたよお〜」
寿也のお母さんが、リビングへと繋がるキッチンから呼びかけた。
キャンドル?
「今日はキャンドル占いだとさ」
ソファに並んで座っていた寿也が、肘掛けに肘をついた格好で つまらなそうに あくびした。
「いい!? いつの間にそんな予定に」
そんな趣向は全く聞いていなかった あたしなんだけど。いや、言ってくれたんだろうか? 一体いつ。
「キャベツ占いよりマシだろ たぶん」
寿也のフォローは あまり効果は無い。
「キャンドル占い? 何だかエキゾチックで神秘的だね。どんなんだろう。面白そうじゃないか〜」
はっはっはと先生は笑った。
……知らないわよ あたしは。
倒れて眠っている先生を放っておいて、あたしは寿也に呼ばれて。寿也の部屋へと足を運んだ。
寿也のお母さんはキッチンで、夕食の用意をしていて下さる。あたしたちは手伝わなくていいと言われて、手もちぶさただったのだ。そうしたら寿也が「来て、部屋。いい事 教えてあげる」と。意味深な言葉を言い あたしをそんな目で見た。
何だかなぁ。
寿也が変わってしまってから、まだ以前とのギャップには慣れていないみたいだ。いや……違う。この感覚は……『出合って始めの頃』だ。まだ知り合って間もない頃の感覚に、似ていると思う。
あたしは戸惑い……寿也に魅かれて……どうしていいのか事の成り行きを見守るしか無く。
寿也のペースの成すがまんまだ。
そんな、おかえりとも新鮮とも言える奇妙な感覚の中に あたしは居た。
「ほら。入って」
部屋のドアを開けながら、中に入るようにとあたしを促した。
「……」
あたしは無言。
寿也が何かを企んでいるような気がしてならなかったからだ。少し入るのに抵抗があった。
入った途端に何かが降ってくるとか。飛び込んで来るとか。
もしや爆発。
「またゴチャゴチャ考えてる」
ぎくり。
寿也は あたしの事なんて何もかも お見通しみたいに笑っていた。
よく笑う。
「本当に よく笑うようになったね。寿也」
「……どうもね。さ、どうぞプリンセス」
あたしは、ドアから中へと入っていった。
相変わらず何も無い部屋だった。机もベッドも無い、正面にはベランダへと続くガラス戸があるだけの、素っ気無い部屋。
しかし目に飛び込んできたのは床の中央にポンと置かれた縦長四角い……
『ジェンガ』と書かれた箱。