第93話(大砲攻撃)
あたしはガタ、とイスから身を引き立ち上がった。「い、い、いいいいっ!?」
意味不明。理解不可能。奇声発生。魑魅魍魎。
ちみもうりょう?
「真木ちゃん」
あたしが腰くだけていて顔を上に上げると。
いつの間に病室に入ってココまで来ていたのか、真さんの姿があった。手には、小さな菓子折りの箱を持って。もう片手に白い大きい紙袋をぶら提げていた。
「真さん……とと」
あたしは真さんよりも少し図体の大きな、後ろの人物に目がとまった。
アルペンさんだ。
ああ、それで ちみもうり……オホン。
「おう。さっき到着したばかりだ。無事か、2人ともは」
2人。
あたしは下口唇を噛み締める。ザクンと心に切り込みを入れられた。
「 スマン !! 」
「!?」
アルペンさんが あたしたちに向かって そのツルピカな頭のてっぺんを見せ……た。
「ア、アルペンさん!?」
仰天して大きな声を出したのは あたしだ。いきなり頭を下げて謝られてしまって、奇妙なものを見た2になってしまったではないか!
……と、あたしが怖々とアルペンさんを見守ると、アルペンさんは わけを説明した。
「私が、あんなものを持ってきたばっかりに……」
と。
あんなもの。
『恒星トリートメント』の事だ。それを飲んで千歳くんは。
「試作とはいえ完成を喜んで調子にのったばかりに。もっと厳重に扱うべきだった。持ち込むものではなかったんだ。取り返しのつかない事に……すまなかった!」
もう一度、テカる頭を見せてくれる。
もういいよ、もういいのよ。アルペンさん……。
あたしは無言だったけれど、心の中では そう思っていた。
「いや、アルペン。俺だって『持って来いよ』みたいに焚き付けたんだから。そう自分ばかりを責めるな」
優しくアルペンさんの肩を2度ほど叩く真さん。
あたしもアルペンさんの誠意に感動して、少し頑張って笑った。
あんまり頭を見せると、黒マジックで落書きしちゃいますよ、と。苦笑いになってしまったけれど。
「どっちが悪いでもないよ。悪いのは俺」
ベッドから、寿也が言った。「俺?」
首を傾げた真さん。あたしと同様、何かが引っかかったような顔をした。
あたしと真さん、それからアルペンさんと。寿也をジロリと見続ける。
「飲んだ自分が悪いんだ。飲んだ……僕、俺……千歳が」
寿也は、少し憂いを帯びたように……微笑む。子供らしくなく……大人に見えた。
「どういう事だ?」
「どういう事なの、寿也」
問い詰めた。
すると寿也は、自分の両腕で自分の体を抱きしめた格好になった。「!?」
「俺と寿とは、やっと一つになれたんだよ。うふふ」
恐らく場に居た全員。
衝撃という名の大砲攻撃を受けた。
「ひぎゃあああああああッッ!!」
……。
叫んだのは、たまたまそのタイミングで後から病室に入って来た先生だった。
看護師さんの手に持っていた重量のある花瓶が、先生とすれ違いざまに肩がぶつかって落とされて。先生の足先の上に見事にズドンだ。
「ああ良かった花瓶は割れてない。大丈夫ですか!?」
慌てた看護師さんは花瓶を拾った。
先生は……。
明日、寿也はひとまず退院するという。